第二編 彼方の闘志
客の要望であれば俺は何だってやる。何にだってなる。女になったり、男でも女でもない容貌になったり、男のままだったりもする。時には人間でない装いを要求されることもある。どんなものであれ、客の要望には出来得る限り応える。それが俺の仕事であり、生存戦略なのだ。
今の時代、生きている、ただそれだけでどれほどの価値があるか知れない。だから俺は事あるごとに、俺を美しい顔に産んでくれた両親に深い感謝を抱く。もし俺が普遍の美しさを有していなければ、大半の人類と同じように殺されていたに違いない。俺の身体はひどく貧弱だから、ごく僅かな生き残れた人類のように、何らかの役割を与えられるということは、万に一つもなかっただろうから。
出し抜けに扉が開かれ、薄暗かった室内が照らされる。光をもたらしたのは、ここで働く唯一の通訳だ。
通訳の宇宙人は俺に向かって、流暢な日本語で次の客について教えた。その種族は、今日四人目の最下層に位置する種族の名だった。もっとも、こんなところを利用する宇宙人なんて下層の低知能(と言っても人間の知能に比すれば低知能、とはいかないが)の種族しかいないわけだが。中層以上、及びオーバーマインドたちに言わせれば、原始的な欲求を持つ進化途上の生物、といったところなのだろう。
「準備をしておいて下さい」
最後にそれだけ言うと、通訳はさっさと出て行ってしまった。部屋はまた元の通り、仄暗い静謐に包まれる。
俺は通訳の言う通りに、客を迎える準備を始めた。
胸の奥に静かな闘志を隠して。
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