【短編集】メランコリー
山原倫
第一編 異星人のあなたへ
▲△◻︎◯◯◉◀︎⚫︎
ーーーーーー
こちらはS星人です。
はじめまして。こんにちは。
ぼくの言葉がわかりますか?
きっとこれを読んでいるのはT星人のひとだと思います。
この星にはT星人しかいないですから。
でもぼくはS星人です。
あ、矛盾してます。
T星人のひとがほとんどだと思います。
あ、ごめんなさい。
前置きが長いですよね。
ぼくがなぜこれを書いているのかということです。
もしよければ聞いてください。
いや、読んでください?
ぼくはどこかで聞いたことがあるんです。
ビンの中に手紙を入れて海に流すというもの。
それを知らない誰かが拾って読むんです。
それです。
あ、このインレコがそのビンとおんなじってことです。
ビンも海も今どきありっこないですから。
それでぼくは、さいごに全部をビンに詰めこもうって思ったんです。
ぼくは今から死にます。
もう生きたくないから死のうと思います。
もしもこれを読んでくれた誰か。
あつかましいけど覚えててほしいんです。
それが唯一のつながりになるんです。
そうだ。
つまんないかもしれないけど、ぼくのみのうえ話をしてもいいですか?
ぼくはS星人なんです。
ぼくのまわりには異星人しかいません。
ぼくは、T語は読んだり書いたりできるけど、あんまりうまく話せないんです。
話せてるつもりなんだけど、いっつもヘンな顔をされちゃうんです。
それって話せてないってことですよね。
ちゃんと話せてたらヘンな顔されないと思うんです。
だって他のみんなはヘンな顔されてないから。
ぼくがヘンな顔に気づいたとき、考えたんです。
ひょっとしてぼくは、T星人じゃないんじゃないかって。
だからぼくはS星人だと思うんです。
あ、ごめんなさい。
ただのぼくの予想なんです。
さっきS星人だって言いきっちゃって。
でもきっとT星人じゃありません。
話をもとに戻しますね。
T語をうまく話せないけど読めるから、ぼくの部屋にはT語の本がいっぱいあるんです。
ぼくの部屋のものは全部T語です。
だからごはんを食べるときもねむるときもいつもT語に、T星人に囲まれています。
好きな本たちはみんなT星人が書いたものだし、壁にはってあるポスター。
そこにのっているムービースターはT星人です。
いすも本入れもホロテレもこの家も、T星人がつくったものです。
ぼくは毎日T星人のひとたちにいろいろなことを語って聞かせてもらっていることになります。
でも、ぼくはなにも語れません。
ぼくだけが語れないんです。
ぼくは、いつもひとつの方向だけでつながっていることになります。
T星人の方向からだけ、つながっているんです。
ぼくの方向からは、どこともつながっていません。
ああ、それはちょっとだけ違います。
1本だけつながっていると思います。
もちろんここです。
でもとても弱いと思います。
ここでも時々、顔は見えないけどヘンな顔をされてる気がするんです。
ぼくはもしかすると、書くこともできてないのかもしれない。
そうするとやっぱり、ぼくはどこともつながってないんでしょう。
ぼくは異星人だと思います。
ぼくはこの星では生きられません。
なかには強い異星人もいると思います。
あ、でもその異星人はぼくにとっても異星人だから、二重に異星人で……。
ええっと。とにかく、ぼくは強くありません。
ぼくは弱い異星人です。
この星では生きられません。
だからもう死ぬことに決めました。
だから、絶望的な希望をこめてこれを書いています。
ぼくの言葉が分かりましたか?
分かりましたか?
分からないですよね。どうせ。
いいです。もう。
さようなら。
ーーーー
◼️◇◉◀︎▷◯◯◉⚪︎▪︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます