ある姫君の日誌 #01

私があの方と初めてお会いしたのは私が14歳の夏頃でした。私はお父様達と周りの者たちが魔法陣を囲む物々しい雰囲気が恐ろしくて、ゼノアの後ろに隠れていました。ゼノアはよく私の相手をしてくれる騎士団長です。まばゆい光と様々に虹色の輝きで部屋が満ちるとあの方が現れました。その凛々しい佇まいと私の全く見たことがない簡素でスッキリとした服装は目を見張りました。お父様達はその方のことを勇者様と呼んでいました。勇者様はしばらくの間、私達の住む王城で生活されることになりました。勇者様はゼノアとの訓練を抜け出してよく私の部屋に遊びにこられました。そして勇者様は私に色々と話をしてくださいました。空飛ぶ船の話や馬のいない馬車など私の見たことも聞いたこともないものばかりでした。いつか私も勇者様の居た世界に行ってみたいなぁと思いました。季節を一つまたいだ頃、勇者様はいよいよ仲間と共に魔王討伐へと出発されることになりました。また騎士団長としてゼノアもついていくことになりました。幼い頃からずっと過ごしてきた兄のようなゼノアと私を眩く照らしてくださった勇者様が一度に居なくなると聞いてショックで食事も喉を通りませんでした。王である父に止めるように何度も言ったのですが駄目でした。出発される日の晩、勇者様が私の部屋の窓からこっそりこられました。きっと魔王を倒して帰ってくるので待っていて欲しいと言われました。やさしく囁かれる勇者様の声に私はわがままを言うこともできず、ただ頷くことしかできませんでした。私が静かに黙っていると、勇者様は私をそっと抱き寄せ頬にキスをしてくださいました。そして部屋からお消えになりました。

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