Scene 67. 組み合いと、理解不能。

ミィヤには分からない。


どうして男子って、何というか、こう荒っぽいことが好きなんだろう。


身体を動かすのは好きだし、技が決まったらよっしゃ、って思うし、勝てたらやったぁ!達成感!って思ってたけど。なんか、男子は相手より強くある事への執着が違う。自分がテコンドーの試合で負けた時は、あー、残念、悔しい、勝ちたかったなぁ。でも、相手強かったな凄いなぁ、って感じだけど、男子は何か、もう勝ち負けを自分の存在意義にまで組み込んでしまっている感じがした。いつも思ってたけど、試合で負けた時の悔しがりようは、自分とは比べられないくらいだった。まぁ、もともと自分はテコンドー自体、体力づくりの為にやってたわけだけど、あの、男の人達の争い事に向かって行く時のテンションの高さは本当になんなんだろう……。



そんな感じなので、ミィヤは何故ロブソンがヴァースと対戦できるのがそんなに嬉しいのか分からないし、一方で何故ヴァースが、ロブソンが全力で向かって来るのを楽しそうにしてるのかも分からない。


それらは、番(つがい)を勝ち取るため、そして群れで狩りや争いを受け持って来た雄達が、そう適応した結果の本能とでも言った部分によるものであると、ミィヤはまだ理解してはいない。自分が目標とする相手に少しでも認めて欲しいと思う気持ちは知っていても、それがどうしてお互いをやっつけようとする行為と繋がるのかは、通常身ごもった子を守るために物理的に傷つく事を避けるように出来ている女性の本能の上に成り立つミィヤの頭では、到底理解ができないのだった。



分からないといえば、もう一つ。


ミィヤにはどうして自分がリング場で組み合っている二人を見てこんなに落ち着かないのかも分からない。特にヴァースの方。


今までテコンドーの試合を見ていた時は、強い選手の試合を見てその技術に惚れ惚れしていたり、なんてことはあった。しかし今は何というか、直視できない。のに目が離せない。鼓動が早くて苦しい。微かに乱れた呼吸とか、力を入れて盛り上がる筋肉とか、負荷に耐えて震える身体とか、何故だか見てはいけないものを見ている気がする。別にロブソンは良いのだけど、何故だか先輩の方だけ。


目のやり場に困ってミィヤが視線を泳がせていると、何となくマイクも落ち着かなそうな様子で、口元に手を当てて何処と無くしんどそうに見ているから、あ、別に自分だけじゃ無いのかも、と少しホッとしたりしていた。



殆ど打撃のみが有効になるHAPCOでは組み技は使う機会がないだろうという事で、ヴァースはロブソンにレスリングのルールでの対戦を提案していた。そんな訳で、通常であれば体格差で対戦相手としてはあり得ないだろうヴァースに、ロブソンは果敢に立ち向かっている。ロブソンも背が低いわけではないし、がっしりとした体格ではあったが、いかんせんヴァースは規格外だ。


そして、この種目は特に経験が無いと言っていたはずのヴァースは、明らかに手慣れた様子だった。それどころかロブソンは攻めあぐねていた。歯を食いしばって必死の形相でいるロブソンに対し、ヴァースは笑みを浮かべた余裕の表情だ。


お互いの両手を掴み、頭を肩に付き合わせた状態でしばらく動かなかった後、ロブソンが仕掛けた。背の高いヴァースの懐に潜り込み、膝裏を取ろうと手を伸ばす。しかし背中から胸を抱え込まれ、床に向かって押し付けられた。


「ぐっ……!」


その重さに耐えることができず膝を落とすが、潰されはしまいと肘をついて身体を支える。その腕から逃れようと身体をよじるが、片腕を取られ、あっという間にひっくり返された。


「うおっ!?」


上からのしかかられて、ロブソンは動けない。ビッ、と機械音が響いて、判定システムがヴァースがポイントを先取した事を告げる。


「一本だな。」


そう言いながら、ヴァースは立ち上がってロブソンが起き上がるのに手を貸した。


「俺が三本取る前に一本でも取れたら、一杯奢ってやってもいいぞ。」

「まじっすか!?絶対っすよ!?」


ヴァースの言葉にロブソンは更に戦意を掻き立てられ、構えを取り直したのだった。



「先輩、レスリング以外の寝技のある競技は経験あるのかもね。」

「え?」


リング場の二人が再度組み合い始めたのを見ながら、ミィヤの隣でマイクが呟いた。さっきより、多少落ち着いた様子だ。眉間に皺を寄せて、難しそうな顔をしている。


「そうじゃなきゃ、あんな慣れた返し出来ないよ。軍隊格闘術で組み技があるのか知らないけど、似たようなものって、本当に何をやってたんだろう?」


マイクは、まだヴァースの経験種目に疑問を持っているようだった。

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