DISC No.
エリー.ファー
DISC No.
余りにも退屈なので、ブログを書くことにする。
この町に入ってきた人間を次から次へとディスクに変換する仕事には慣れたが正直、疲れた。余り意味のない行為ではあるのだが、続けているとどうしても精神的に何か損傷を受けたかのような気分になる。
そもそも、この仕事についた時点で。
そんなものありもしないのに。
不思議なもので。
本当に。
私からしたら、この町に入って来る方が悪いと思う。
核爆弾が落ちて、町中が汚染されているのだから入って来るなとあれほど言っているのに、人は次から次へと入って来る。ジャーナリスト、町の元住民、研究者、大学生、子供、それから、この中のことを外にばらそうとして裏切った仲間もいた。
とにかく。
この中のことを秘密にしてしまうために、私はここに居る。
動くこともできない。
動けないようにされているからだ。
この仕事を放棄すると、他の仲間が私の家族を全員、殺すのだそうだ。
ディスクにできるのは私だけなので、どんな人間にも可能な相手を死体に変えるというようなことに関しては、手際のいい者が他の場所に行かされているだろう。
そう、推測する。
連絡手段もないのだ。
おそらく、もう既に私以外は殺されていると考えるべきだろう。
家族も、家族以外も。
そういうものだ。
私はただ、ここで、ありもしない約束を守ってくれていると思いながら人をディスクに変える。
目に向かって右手の人差し指を出す。
その後に、すかさず、口を開いて。
リジェクト、と言う。
そうすると、相手の額からディスクが飛び出し、そこに追従するように相手の体が吸い込まれていく。
影もなくなり、心音もなくなり、人もいなくなる。
私の右手の人差し指には、ディスクの中心の穴がはまる。
しっかりとはまるのだ。
私はこの中に元々は、住んでいた。
そして。
この能力を授かった。
いつしか私は神と呼ばれ、その内、犯罪者として捕まえられて、軍人ということになった。
戦力としてこれほどのものはないのだろう。確かに、それは理解できる。私のような人間がここにいることの意味などそのあたりでしかない。
中では続々と能力者が生まれていると聞く。だが、その反面、死んでもいる、と聞く。
すべては噂止まりだ。
どうしようもない。
どうしようもないのだが。
それでも私は今の自分を捨てたくないと本気で思っている。
何者にもなれない、ということが最も不憫で下劣であることを知っている。
能力者ではあるが、能力者と呼べるだけの力を持ちながらその実、能力を持っていない人間たちよりも不自由である。
ディスクを抱えて、その中にしまう時に、虚しさが残る。
ディスクケースの中には、何百、何千、何万という命が保管されている。その一つ一つが、どれも綺麗に輝いている。
昔、試して不可能であることは分かっているので、最早どうでもいいのだが。
いつか。
いつか、でいいのだ。
私は私の手で、自分のディスクを取り出してみたい。
そして。
眺めてみたいのだ。
どれだけ美しいのかを。
私が今まで見てきたものと比べてどれほどなのかを。
この際、汚くてもいいのだ。
この際、ディスクになれなくてもいいのだ。
自分の立ち位置を確かめたい。
私は。
私は今、どこにいるのか。
その瞬間。
どこかで銃の音がした。
低く伸びやかな音だった。
そして。
誰かの倒れる音が聞こえた。
「町に入れてくれ、頼む。町に帰りたいんだ。頼む、帰らせてくれ。」
男の声だった。
その内、何の叫び声かも分からなくなると。
綺麗に消えた。
無音。
「町に帰りたかったのか。」
私は言葉を吐く。
寒い冬の日のことだった。
北欧の季節を知らぬような汚れのない空だった。
森の木々は、もうピンク色から返ることはない。
私も、もう。
二つの眼球はピンク色に染まっている。
「私も。帰りたいな。」
その瞬間。
DISC No. エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます