Mission03 ダウティング・トマス
cast
[E]イリーナ・ゴルベフ / ♀
[P]プロフェッサー・ヤン / 不問
[A] アニエス・ダール/ テスター1 / ♂
[O] オーティス・ダール/ テスター2 / 不問
[プロフェッサー・ヤン]
よし、はじめよう。
モニタにデータを展開。
被験者であるダール兄弟は……
コステリ群の出身だったか。
[イリーナ・ゴルベフ]
ええ。
二人は紛争孤児の中から
ピックアップされました。
[プロフェッサー・ヤン]
あの辺りは特にひどかった。
貴重な天然資源の宝庫である
アルブ山脈にほど近い戦略上極めて重要な拠点。
そして、高純度のアーラニウムが産出した。
自軍敵軍は無論、どの企業も
あのエリアを狙っていた。
[イリーナ・ゴルベフ]
……テスター
デュアルモニタリングスタート。
テスター1 アニエス・ダール、
聞こえますか。
[アニエス・ダール]
こちらテスター1、通信状態良好です。
[イリーナ・ゴルベフ]
了解。
テスター2 オーティス・ダール
聞こえますか。
[オーティス・ダール]
はい、聞こえます。大丈夫です。
[イリーナ・ゴルベフ]
了解。
今回が最後のテストです。
二人には、模擬戦を行っていただきます。
実戦時におけるNMコネクション…
つまりパイロットの神経系と
FAの関係性を調べる大切なテストです。
模擬戦とはいえ、全力で戦ってください。
[オーティス・ダール]
はい、イリーナ先生。頑張ります!
[アニエス・ダール]
……本当に、このテストが終われば
俺たちは故郷へ帰ることができるんですね?
[イリーナ・ゴルベフ]
はい、お返しします。
厳密にいえばお近くの難民キャンプ地へ…ですが。
救援物資もお渡しします。
困窮するご家族やご友人を
救うことができるでしょう。
[アニエス・ダール]
お気遣いに感謝します。
父も母も先の紛争で亡くなりました。
友人たちの行方もわかりません。
それでも、俺と弟は二人で
生きてみようと思います。
だから、約束してください。
このテストが終わったら
俺たちを、解放すると。
[イリーナ・ゴルベフ]
約束します。
個人的に……お二人の今後の
安寧を心より祈ります。
それでは、テストを開始します。
テスター1 テスター2
セーフティを解除し、
戦闘モードを起動してください。
一旦通信を終了します。
[プロフェッサー・ヤン]
随分と感傷的なんだね君は。
別に悪いとは言わないが
研究者にはあまり向かない気質のようだ。
テストはテスト、サンプルはサンプル。
それ以上でもそれ以下でもない。
余計な私情を挟まないことだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
ご忠告いたみ入ります。
プロフェッサーのご指摘通り
私はどうも研究肌ではないようです。
折を見て、異動願いを出したいと思います。
[プロフェッサー・ヤン]
そうだな、それがいい。
だが君は極めて優秀だ。
くれぐれも、これまでのキャリアを
台無しにするようなことは
しないようにしたまえ。
[イリーナ・ゴルベフ]
そうですか?
私は、しばらく仕事を辞めて
極東のイケバナというアートを
学ぼうと考えていました。
とても、美しいそうですよ。
……入電?
オーティスからだわ。
こちら管理官
テスター2、何か問題が?
[オーティス・ダール]
あ、イリーナ先生
あの、何か、変なんです。
いつもの訓練と、違います。
兄さんの弾が僕に当たると
コックピットが大きく揺れて
機体から、煙が出るんです。
それで、画面には
見たこともない文字が出て、
どうしてしまったんでしょう?
[イリーナ・ゴルベフ]
今調べます。少し待ってて…
テスター2の装甲状態は……大きく劣化?
模擬弾でもペイント弾でも
こんな数字はありえないはず。
[プロフェッサー・ヤン]
あれは模擬弾などではない。
実弾だ。
ダール兄弟にはこれから
本当の戦いをしてもらうのだから。
[イリーナ・ゴルベフ]
プロフェッサー、話が違います。
今回は実戦訓練ではなく、
NMコネクションに関する実験のはず。
何より二人は、
実弾が使われていることを
知らされていません。
危険すぎます。
[プロフェッサー・ヤン]
そうだ、NMコネクションの実験で間違いない。
仲睦まじい二人の兄弟が
自ら兄の手で、あるいは弟の手で
死の淵に立たされたとき
神経系はどのような反応を見せるか。
そしてその狂った神経が
FAにどのような影響を与えるのか。
これほど興味深い対象も珍しい。
[イリーナ・ゴルベフ]
……だとしても相応の準備の上
適切な手順を踏むべきです。
すぐに実験の中止を。
[プロフェッサー・ヤン]
馬鹿みたいなことを言うんじゃない。
管理者権限により、テスター1 テスター2
およびイリーナ・ゴルベフの
通信を制限。
[イリーナ・ゴルベフ]
プロフェッサーヤン、
これは責任問題を問われます。
実験を中止してください。
[プロフェッサー・ヤン]
責任者は私だ。言っただろう。
テストはテスト、サンプルはサンプルと。
[イリーナ・ゴルベフ]
テストを大義名分に事前告知なく
パイロットに殺し合いをさせるのは
研究者としての倫理にもとります。
ましてやまだ、
[プロフェッサー・ヤン]
では伺うが、君の言う倫理とやらは
科学を発展させるのか?
倫理は無駄な血を流させず
人々の暮らしを豊かにするのか?
イリーナ・ゴルベフ
君にはがっかりしたよ。
立場ひとつ、わきまえられないなら
指を咥えてそこで見ていなさい。
[オーティス・ダール]
イリーナ先生、何かわかりましたか?
兄さんの機体も明らかに
壊れてきています。
やっぱり今日はなんか変です。
普段は、こんなことないのに。
[アニエス・ダール]
こちらテスター1。
異常事態発生、機体の損傷拡大。
これは本当にテストなのですか?
まるで、実弾射撃訓練の時と
同じ挙動です。
[プロフェッサー・ヤン]
ほう、さすが高適性パイロットだ。
気にかける点が違う。
兄のNMコネクションは、
64.3に対し弟は59.7…
誤差のうちとも言えるが、
やはり兄の方が高めか。
[オーティス・ダール]
兄さん、聞こえる?
オーティスだよ。
なんだか様子がおかしいんだ。
イリーナ先生に連絡もつかないし、
一旦撃ち合うのをやめない?
[アニエス・ダール]
くッ、FAの動きが不安定になってきたな。
間違いない、これは模擬弾ではなくて実弾だ。
一体、連中は何を考えているんだ……
オーティス、聞こえるか。
返答してくれ。
[イリーナ・ゴルベフ]
アニエス、オーティス
二人ともテストを中止して。
あなたたちが持っているのは訓練用じゃない、
それは本物の武器よ。
[プロフェッサー・ヤン]
無駄だよ。
管理者権限により
君たちの間の通信は遮断した。
彼らに接触できるのはもう、私だけだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
どうして、こんな真似を。
たとえ実弾で撃ち合うにしても
やり方というものがあるはずです。
このやり方は、あまりに酷です。
[プロフェッサー・ヤン]
まるで生娘のようなことを言う。
訓練された兵は、恐怖を克服できる。
前線で研ぎ澄まされた勇気は
死すらも恐るるに足らぬものとしてしまう。
断言しよう、恐怖は退けられる。
だが、疑心はそうはいかない。
[イリーナ・ゴルベフ]
疑う、ということがどれくらい
NMコネクションへの影響するかを調べたい。
そう言うことですか。
[オーティス・ダール]
イリーナ先生、返事をください。
教えてください、僕はテストを続けていいんですか?
イリーナ先生!先生!
[プロフェッサー・ヤン]
そういうことだ。
見たまえ、既にNMコネクションが低下している。
弟の方はさっきの半分近くまで落ちている。
兄の方は……おお、なかなかやるな。ほとんど下がってない。
[アニエス・ダール]
こちらテスター1
応答せよ、至急応答せよ。
オーティスとも通信が繋がらないし…
あまりにも妙だ。
[イリーナ・ゴルベフ]
……そう、そうよ!撃つのをやめて。
たとえ、通信が途切れても
あなたたち二人ならお互いを信じられるはず。
[プロフェッサー・ヤン]
兄の方が勘付き、弟も撃ち止めたか。
問題ない、ここまで全て予想通りだ。
テスター1オートパイロット起動。
[アニエス・ダール]
な、なんだ、この動きは?
ブースターが減速しない…
いかん、オーティス、避けろ!
[オーティス・ダール]
うわッ!
兄さん、どうしてまた撃ち始めるんだ。
[プロフェッサー・ヤン]
一度信じていたものが信じれなくなると
それが何であれ、修復は難しいものだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
プロフェッサー・ヤン
あなたは、人でなしだ。
[プロフェッサー・ヤン]
そうとも。私は研究者だからね。
私の人間性の低さを
ぜひ上層部へ報告してくれたまえ。
君のいう倫理とやらを引き合いにね。
さあ、貴重な実験が始まる。
おしゃべりはここまでだ。
[アニエス・ダール]
ちくしょう、どうなってるんだ。
まるでいうことを聞かない…
このままじゃオーティスを撃ち落としてしまう!
管理室、応答せよ!緊急事態なんだ!
誰か、こいつを止めてくれ!
[オーティス・ダール]
兄さん、撃つのをやめて!
このままじゃ、僕は……
[イリーナ・ゴルベフ]
まずい、テスター2の機体装甲が限界に近い…。
いくら二人の適性が高いと言っても
オートパイロットの正確な狙撃を
かわし切れるほどの技量はない…。
[プロフェッサー・ヤン]
ここまで攻撃されても
やり返さんとは随分と兄思いの子だ。
では……
テスター2回線接続。
ヘッドギア側頭部に等間隔パルス入力開始。
オーティス・ダール君、応答したまえ。
[オーティス・ダール]
はい、オーティスです。
あなたは?イリーナ先生はどうしたんですか?
[プロフェッサー・ヤン]
初めまして。私はヤン。
イリーナ先生の代わりに君に連絡する。
残念だが、イリーナ先生とはもう会えない。
先生は君のお兄さんと暮らすからだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
…何を寝惚けたことを。
オーティス、耳を貸さないで!
プロフェッサー・ヤン!
どういうことだ!
[オーティス・ダール]
あの、すいません……
言ってる意味が、その、わかりません
…ううっ、頭が、痛い……
[アニエス・ダール]
オーティス、避けろ!避けてくれ!
このままじゃ撃墜しちまう!止まれ!
[プロフェッサー・ヤン]
君のお兄さんが君をどうして攻撃するのか。
君は、その手を止めたのに。
それはね、お兄さんは君が邪魔だからだよ。
ずっとずっと付いてくる君が邪魔だから
君をこの場で始末しようとしている。
解放されて、イリーナ先生と二人だけで
暮らすのに、君は邪魔なんだ。
[オーティス・ダール]
僕が、邪魔……?
兄さんは、僕が邪魔なの?
[プロフェッサー・ヤン]
お兄さんだけじゃない。
イリーナ先生も、君が邪魔なんだよ。
ずっとずっと、付いてくる君が。
[イリーナ・ゴルベフ]
オーティス、嘘だ!信じるな!
アニエスはあなたを心から愛している!
……脳波の乱れ?
ヤン!貴様、オーティスに何をしたッ!
[オーティス・ダール]
嘘だ、嘘だよ。
兄さんも、先生も、僕のこと
邪魔じゃなんかないよ。
[プロフェッサー・ヤン]
そう。嘘だ。
今日の日までずぅっと、
先生と君のお兄さんは
嘘をついてきた。
最後のテストを終了させ
イリーナ先生とお兄さんは
遠いところへ旅立つ。
オーティス・ダール
君が、いないところへ。
[オーティス・ダール]
嘘だ!嘘だ!
兄さんは、先生は、僕を…!
[イリーナ・ゴルベフ]
オーティス…。
[プロフェッサー・ヤン]
テスター1 オートパイロット解除
テスター1 - テスター2間の
通信制限を解除。
テスター2 ヘッドギア側頭部のパルス全開。
[アニエス・ダール]
……動いた!
オーティス、やめるんだ。 もう撃つな、
どうして兄弟同士で殺しあう必要がある。
[オーティス・ダール]
兄さんは僕が邪魔になった。
先生は僕が邪魔になった。
兄さんは僕が邪魔になった。
先生は僕が邪魔になった。
[イリーナ・ゴルベフ]
頭部への刺激……
マインドコントロールか?
小賢しい手を使うな!
[プロフェッサー・ヤン]
ああ、古い手だ。
だが、死がちらつく戦場では
短期間で驚くほどの効果を発揮することもある。
見てみなさい。
[イリーナ・ゴルベフ]
オーティスが、アニエスを押している……。
いや、そんなものではない、凌駕している。
あと数発でも被弾したら
墜ちそうなテスター2で
どうしてあんな動きができるというの。
[アニエス・ダール]
オーティス、やめろ。
話を聞いてくれ。
俺はお前を邪魔だなんて思っていない、
イリーナさんだって、お前を心配している。
[オーティス・ダール]
嘘だ、兄さんは僕が邪魔になった。
嘘だ、先生は僕が邪魔になった。
[プロフェッサー・ヤン]
兄の方は防戦一方。
必死に回避するも、ジリ貧だ。
説得に集中力を割いてしまい
NMコネクションも大幅に低下。
ここまでは予想通りだ。
そして…
[アニエス・ダール]
オーティス、目を覚ませ!
俺と一緒にコステリへ帰ろう!
二人で、父さんと母さんの墓を建てよう。
オーティス!しっかりしろ!
[オーティス・ダール]
父…さん?母さん…僕は、僕は
[プロフェッサー・ヤン]
オートパイロット再起動、
敵戦力
[アニエス・ダール]
チクショウ、また勝手に…
避けろ!避けてくれオーティス!
[オーティス・ダール]
ああ、嘘だ!全部嘘だ! 嘘つきだ!もう僕に嘘をつかないで!
[イリーナ・ゴルベフ]
……ヤン、貴様だけは許さん。
絶対に、絶対に、だ。
[プロフェッサー・ヤン]
両機の通信を遮断。
さて、弟のNMコネクションは……
……出たッ!
ついに、出たぞ。
見たまえイリーナ君
99.2%という、ありえない数字だ。
運動神経系はおろか
感覚神経系自律神経系まで
全てリンクさせてもこうはいかない。
彼は、死の恐怖の中、
不信と絶望にまみれて
ついに自分の心を亡くした!
血も心も通わないFAと99.2%の一致。
もはや、オーティス・ダールは人間ではない。
[イリーナ・ゴルベフ]
ヤンッ!お前は、人間をなんだと思っている!
[プロフェッサー・ヤン]
彼の神経伝達速度はもはや
人と機械の壁を超えた。
[オーティス・ダール]
兄さんは嘘つきだッ!
先生も、嘘つきだ……
僕は兄さんが大好きなのに、
先生が、大好きなのに!
[アニエス・ダール]
オーティス……う、うあぁッ!
[プロフェッサー・ヤン]
始まる。
一方的で、
[オーティス・ダール]
兄さん、どうして僕を邪魔だというの。
先生、僕はどうしたらいいんですか。
[イリーナ・ゴルベフ]
オーティス!やめなさい!
[プロフェッサー・ヤン]
相手の横っ面を殴りつけ
腕を掴んで引きずり回し
馬乗りになって何度となく殴りつける。
まるで子供の喧嘩だ。
手加減も引き際も、知らない。
[アニエス・ダール]
もう、止めるんだ。
こんなテストさっさと終わらせて
二人で故郷(くに)へ帰ろう。
[オーティス・ダール]
どうして!どうして!どうしてッ!
[イリーナ・ゴルベフ]
お願いやめて!
このままじゃアニエスが死んでしまうわ!
[オーティス・ダール]
兄さん!先生!兄さん!
お兄ちゃんッ!助けて!
[アニエス・ダール]
オーティス……大丈…夫だ、俺は、お前を…
泣く……なオーティス、お兄ちゃんが…ついて……う、う…
[イリーナ・ゴルベフ]
アニエスッ!
[プロフェッサー・ヤン]
テスター1、
早いな、ほんの数分でスクラップだ。
管理者権限により全機通信を復旧。
オーティス君、実に見事だった。
モニターをご覧、君の素晴らしい戦果だ。
その潰れたトマトのようなものが見えるかい。
アニエス・ダール
君のお兄さんだ。
[イリーナ・ゴルベフ]
ヤンッ!
もう、もうやめてくれ。
頼む。
これ以上、彼を壊さないでくれ。
お願いだ。
[オーティス・ダール]
弟はもういない。
[イリーナ・ゴルベフ]
オーティス……?
[オーティス・ダール]
弟は死んだ。
俺は、アニエス。
アニエス・ダールだ。
[プロフェッサー・ヤン]
くく、実に興味深い現象だ。
オーティス君、いや、
君はもうアニエス君なのかね?
[オーティス・ダール]
ああ。
弟を、オーティスをこの手で殺した男だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます