第659話

 クエストで疲れた体を温泉に入って癒して夜になるまで観光を楽しむという時間を過ごしながら迎えた6日目の夜、晩飯も食べ終えて後は寝るだけの状態になっていた俺達はユキとレミに呼び出されてリビングに集められていた。


「皆、改めてお礼を言わせてもらうわね。本当に感謝してるわ。アンタ達が頑張ってくれたおかげで、どうにか神としての役目を果たせる所まできたわ。」


「ふふっ、どういたしまして。ユキの力になれた様で何よりだよ。さて、そうなると非常に名残惜しいが帰る支度を始めないといけないね。」


「あぁ、御者さんに連絡して馬車の手配をしてもらわないとな……そう言えばユキ、俺達にはもう他に手伝える事って無いんだよな?」


「えぇ、後の事はこっちで勝手にやっておくからアンタ達は気にしなくて良いわ。」


「ふーん……なぁ、神様としての仕事って具体的には何をするつもりなんだ?やっぱ祈りを捧げたりとかそういった感じか?」


「まぁ、簡単に言っちゃえばそうね。祈って街全体に加護を授けてモンスターとかの脅威からノルウィンドを護る……みたいな事よ。」


「なるほど……で、何時頃にその役目を?」


「今日か明日にでもやるわ。だから時間的な心配はしなくても大丈夫よ。」


「了解……いやぁ、それにしてもようやく家に帰れるんだな。」


「そうですね。何だかそう考えると寂しくなっちゃいますね。」


「あぁ、もう少しこの街の温泉を堪能していたかったんだけどね。」


「私も強いモンスターともっと戦いたかった。」


「はぁ……もう充分過ぎるぐらいに戦っただろうが……」


 そんな他愛もない話をしながら就寝時間を迎えた俺達は使い慣れてきたそれぞれの寝室に戻って行くと、そのまま深い眠りへと落ちていき……


「…ぇ………て………」


「………ぁ………?」


「……ぇ……ねぇってば………」


「………だ…れ……………っ!?」


 月明かりしか頼りになる物がない真っ暗闇な部屋の中で突如として目の前に現れたユキに驚いて叫び声を上げようとした次の瞬間、俺の口は小さな手によって塞がれてしまっていた!!?


「静かにしなさい……今何時だと思ってるのよ……」


「っ!そ、それはこっちの台詞だ……!お前っ、こんな所で何を……!?」


「何をって、アンタを起こしに来たに決まってるでしょ。ほら、さっさとベッドから出て支度をしなさい。」


「し、支度って……ハァっ!?」


「だから静かにしなさいっての。レミ、部屋の明かりを点けてちょうだい。」


「うむ。」


 パチンという音が鳴り響いたのと同時に襲い掛かってきた光に耐えきれずに片腕で顔を覆った俺は、頭が真っ白になったまま並び立つ2人の神様の姿を目にして……


「……うぇ……?」


「はっはっは、こんな時間に起こしてしまってすまんのう。」


「……な……なん……はっ?」


「驚いてる暇があるんならサッサと着替えなさい。出掛けるわよ。」


「で、出掛ける?こ、こんな時間にか?つーか、どうして……」


「説明は後でしてあげるわ。それよりも今は支度をしなさい。」


 あまりにも理不尽な要求だが考えるよりも前に言われた指示通りに体を動き出してしまった俺は、何が起きているのか分からないまま神様達と一緒に宿屋を後にするのだった。

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