第635話

 本屋でアシェンさんの書いた本を購入した次の日、所々に雪が残っている平原までやって来た俺達は軽い運動と生活費稼ぎの為にモンスターの討伐をこなしていた。


「あらよっと!……ふぅ、コイツが最後の一匹で間違いなさそうだな。」


「あぁ、これで依頼達成だね。九条さん、ソフィ、お疲れ様。マホ、今なら外に出て大丈夫だから納品作業を手伝ってくれるかな?」


(は~い!分かりました!)


 ポーチの中に入れてるスマホから飛び出して来て妖精状態から何時もの姿になったマホも交えて倒したモンスターの納品を始めてからしばらくした後、周囲がサッパリした事を確認した俺は大きく伸びをしながら辺りを軽く見渡してみた。


「ふぅ、こうして見てみるとそろそろ本格的に冬が終わりそうな感じがするな。」


「うん、暖かい日も少しずつ増えてきたからね。そのおかげで街の中に引きこもっていた冒険者も活動を始めたみたいだし。」


「今日の斡旋所、かなり賑わってた。」


「えぇ、だから掲示板に貼りださているクエストの数も少なくなっていましたね。」


「あぁ、冬眠中に使っちまった金を稼ごうと必死に何だろう。俺達は季節を問わずに頑張ってきたからその手の心配をする必要は無いけどな。」


「ふふっ、それは主にアシェンさんのおかげでだと思うけど?」


「……俺達が働いて手に入れた報酬だ。つまり、俺達が頑張ったおかげだ。」


「えへへ、そうですね!あっ、そうだおじさん。ユキさんから送られてきた手紙ってもう見ましたか?」


「ん?あの手紙か?まぁ、見たっちゃ見たけどさ……」


【九条、マホ、ロイド、ソフィ。


 明日、アンタ達の家に行くから。

 もてなしの用意をしておくように。

                           ユキ】


 頭の中に蘇ってくる何とも言えない手紙の内容……つーかアイツ、知り合いに送るからってもうちょいマシな文面が書けなかったのか?幾ら何でも質素すぎるだろ!


「ふふっ、ユキらしが満載の手紙だったね。」


「いや、それで済ますのもどうかと思うんだが……ってか、明日ってまた急だよな。こっちにも色々と予定ってもんが……ねぇんだけどさ。」


「それなら別に良いじゃないですか。で、どうしますか?おもてなし。」


「どうしますかって言われてもなぁ……ロイドの実家から送られてきたお高い茶葉はあるから飲み物系は大丈夫としても、茶菓子系ってそんなに無かったよな?」


「はい、近くの市場で買ってきたお手頃価格のやつしか置いてませんね。」


「だよなぁ……仕方ねぇ、ユキに文句を言われるのも面倒だから斡旋所で報酬を受け取ったら何か買いに行くか。ロイド、お勧めの店があったら教えてくれ。」


「あぁ、任せてくれ。実はトリアルに新しくお店が出来てね。そこが貴族の間で評判らしいからそこに寄ってみようか。」


「おう……って、貴族の間で評判って中々に怖い話だな……金額的に。」


「まぁまぁ、ユキさんに満足してもらう為と思えば安い出費ですよ。」


「はぁ……そうだと良いんだけどなぁ……」


 後頭部をガシガシと掻きながらため息を吐き出した俺は、自分でもお人好しだなと思いながらユキをもてなす為の準備資金を貰いに斡旋所に向かって行くのだった。

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