第636話
「自分で言うのも何だけど、あんな手紙の言う通りにアタシの事をもてなしてくれた事には驚かされたわ。でもそれ以上にビックリしたのが……アンタがこんなに沢山の女の子と結婚していたって事よね。リリアにどう報告しようかしら?」
「うぐぅ……!一生の不覚……!」
昨日の内に用意しておいた少しお高めの紅茶と菓子を楽しんだユキの手の中には、片付けておくべきだった例の写真が入った木枠のフレームがしっかりと握られている訳でして……!俺のバカッ!どうしてアレを仕舞っておかなかったんだよっ!!
「いやぁ、アタシも運が良いわね。アンタ達に頼み事をする前にこんな物を手に入れちゃうだなんて。」
「ぐ、ぐぬぬ……!こうなったら大事になる前に強引にでも……!」
「ま、まぁまぁまぁ!おじさん、落ち着いて下さい!ユキさんも!あまり挑発をする様な事を言わないで下さい!」
「うふふ、ゴメンゴメン。取り乱したソイツの姿があまりにも楽しくて、ついね。」
「全くもう……それでユキさん、私達にしたい頼み事って何なんですか?」
呆れた様な表情を浮かべるマホにそう問いかけられたユキは、持ってた写真立てをテーブルの上に置くと座っていたテーブにもたれ掛かりながら腕を組み始めた。
「うーん、そうねぇ……簡単に一言で表すなら、アンタ達に私の里帰りに付き合って貰いたいのよ。」
「……は?」
予想もしていなかった方向からの言葉に少しだけ思考が停止していると、ロイドが親指と人差し指で顎を触りながら小さく唸り声を上げた。
「ふむ、里帰り……という事は、ノルウィンドにという事かい?」
「えぇ、その通りよ。アンタ達にはアタシ……と、正確に言うのはもう一人の神様と一緒にノルウィンまで行って欲しいの。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!それってつまり、レミさんの事ですよね?でも……どうしてまたそんな頼み事を私達に?何か特別な事情があるんですか?」
「別にそんなに難しい話じゃないわよ。ノルウィンドを守護する神様としての仕事を果たしに行くだけだからね。」
「神様としての仕事?……そんのがあるのか?」
「当たり前でしょ。温泉にちょっとした加護を与えたり、モンスターが悪さをしない様に睨みをきかせたり……まぁ、色々とあんのよ。」
「そ、そうだったんですか……すみません、知りませんでした……」
「謝らなくても良いわよ。そもそも知らないのが普通なんだからね。って訳だから、アタシの頼みを聞いてくれるかしら?」
「……リリアと一緒には行かないの?」
「うん、今回はちょっと都合が悪いみたい。貴族としてやらなくちゃいけない仕事が色々あるらしくてね。何処かの誰かさんとは違って。」
「ふふっ、耳が痛いね。私もそれなりには、貴族としての役目はこなしているつもりなんだけど。でも確かに、リリアと比べると自由の身ではあるかな。」
「でしょ?……で、どう?返事を聞かせて欲しいんだけど。」
「いや、返事って言われてもなぁ……ノルウィンドに行くのだって時間は掛かるし、そもそも俺としては寒い所にはあんまり行きたくねぇし……」
「安心しなさい。ノルウィンドは冬が訪れるのも終わるのも遅いけど、今の時期なら少しだけ暖かくなってるはずだから。」
「少しだけって……それに問題はそれだけじゃなくて、馬車の準備とか宿屋と予約もしなくちゃだし……うーん、どうすっかなぁ……」
正直な話、付き合ってやりたい気持ちはあるが久しぶりに手に入れた平和な時間を満喫していたいって想いも5割……8割ぐらいある訳で……ユキには本当に申し訳が無いだけど、今回はお断りさせてもらう方向って事で……
「あっ、断るつもりならこの写真をリリアに見せるからそのつもりでね。」
「ははっ!俺達に任せろよユキ!お前が神様としての役目を果たせる様に全力全開で手伝うからさ!!だからお願いします!その写真の事は今すぐ忘れて下さいっ!!」
「うん、それじゃあよろしくね。」
「……おじさん……」
最速で頭を垂れさせて頂いた俺はユキさんの頼みを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます