第626話

「ふーん、とりあえず50ポイントは何とか集めてきたのか。」


「はい!これで私達も楽しい思い出作りを楽しむ事が出来ます!」


 所持金に大ダメージを与える晩飯を食べ終えてセトグリア家にやって来た俺達は、聖堂で起きた事をふわっと説明した後に皆から今日の収穫について聞かされていた。


「うふふ、おめでとうございますマホさん。そう言えば皆さん、もう既にイベントの予約はしてきたんですよね?」


「あぁ、明日の午後2時にね。」


「えっ、明日?本当なのか?少し前に斡旋所で聞かされた話じゃ、ここ数日は予定がビッシリだって言われた気がするんだが……」


「えへへ、それがイベントに参加する予定だった人達に用事が入ってしまったみたいなんですよ。」


「ふーん、運が良かったって事か。」


「ふふっ、そうだね。予約をするのがもう少し遅れていたらイベントに参加する日が何時になっていたか分からないよ。」


「間にあって良かった。」


「うふふ、そうですね。」


 楽しそうに微笑み合っている皆の姿を眺めながら話が一段落した事を感じたので、そろそろ帰る事を告げようかなと考えているとついさっき席を外したアシェンさんがリビングに戻って来た。


「皆さん、楽しくお喋りをしている所を申し訳ないんですがイリスさんをお借りして良いですか?お手伝いをお願いしたい事がありますので。」


「あっ、はい。別に構いませんけど……」


「母さん、手伝って欲しい事って何かな?」


「うふふ、それについては後で説明しますね。さぁ、ついて来て下さい。」


「うん、分かった。それでは皆さん、少しだけ失礼します。」


「あぁ、いってらっしゃい。」


 俺達に向かって小さくお辞儀をしてからリビングを出て行くイリスを見送った後、忘れ物をしてないかを確かめようと思って室内をグルっと見渡そうとしたら……


「……えっと、3人揃ってなんで俺の方をジッと見てるんだ?」


「……おじさん、1つだけ質問させて貰いたいんですけど……良いですか?」


「ん?何だよ、イベントの事だったらさっきも言った通り説明するつもりはねぇぞ?折角の驚きが台無しになっちまうかもしれないからな。」


「うん、それについては安心して欲しい。私達もイベントを楽しみたいと思っているから聞くつもりはないよ。」


「そうか……じゃあ、何を聞きたいんだ?ってか……なんか怒ってるか?」


 1分ぐらい前まであった和気あいあいとした雰囲気は何処へやら……まるで説教をされる直前の様な空気を感じ取った俺は恐る恐るそう尋ねてみた。


「怒ってる……って言うよりも……どういう事なのか説明をして欲しいだけです……どうして……イリスさんに泣いた跡があるのかを……」


「………へっ?」


「2人が帰って来た時からずっと気になっていたんだよね。イリスの目……少しだけ赤くなっていたからさ。」


「……理由、教えて欲しい。九条さんが原因なの?」


「い、いやいやいや!俺が原因ってそんな訳は……あぁでも、責任が無って事も……うーん、説明……説明ねぇ……けど、その……えーっと………」


 あの事について説明をしきゃダメなのか?いやでも、コレに関してはイリスの事もあるから俺の独断で話をする訳にも……ってか、気付いてたならその時に言って欲しかったんですけどもねぇ!?


 何て考えながらまさかの追及に軽くパニック状態に陥っていると、マホがクワッと大きな目を開いて鬼気迫る勢いでこっちへ駆け寄って来た!?


「ご主人様!もしかして……もしかしてですが……イリスさんとお付き合いする事になったんですか!?」


「………は………はあああああああっ?!?!?!?!!ちょっ、おまっ!いきなり何を言い出して!?つーかここでその呼び方はやめい!」


「そんな事はどうでも良いんですよ!それよりもどうなんですか!?ハッキリ教えて下さい!あっ、いえ!すみませんまだ心の準備が……うぅ……まさかこんなにも早くご主人様達の仲が進展するだなんて誰が分かるんですかっ!もう!もうっ!」


「ぐへぇ!ま、待てマホ!理由を……理由を説明するから……!頼むから服を掴んで揺さぶらないでくれぇぇぇぇ……‥…!」


 グワングワン揺れまくる視界のせいで少しだけ酔いそうになりながら必死にマホを説得した俺は、おかしな勘違いをしている皆にはぐらかしていた事を詳しく説明していくのだった……


「……ぐすんっ……それ……本当なんですか……?」


「あ、あぁ……マジだよマジ……俺だって未だに信じられねぇけど……そういう事が本当にあったんだよ……」


「そうだったのか……つまりイリスの涙の後は、これまで積み重なって来た九条さんへの想いが爆発してしまった結果なんだね?」


「そ、そう……なんじゃねぇかな……」


「……九条さん、イリスと付き合ってないの?」


「だからそう言ってるだろ?確かにその……真正面から気持ちはぶつけられたよ……でも、俺はその想いを受け入れる事を断った。」


「……どうして……ですか?おじさんだって、イリスさんの事は嫌いじゃないんですよね……?」


「そりゃあな……けどそれは、恋愛感情とかそういう事じゃなくて……ってか!もう良いだろこれぐらいで!自分で言ってて色々と複雑なんだよ……」


「ふふっ、ごめんね九条さん。分かった、これ以上は追及しない。」


「おう、そうしてくれ……つーか、もしかしてイリスの方も……」


「はい……多分その事について聞かれていると思いますよ……」


「はぁ……やっぱ変に隠し事なんてするもんじゃねぇなぁ……ドッと疲れた……」


 座っているソファーの背もたれに倒れ込んでからしばらくした後、俺達はニヤニヤ微笑んでいるアシェンさんと苦笑いを浮かべているルバートさん、そして普段通りのイリスに見送られながらセトグリア家を後にする事になるのだった。

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