第593話

 異世界ならではの暖房器具で温まりながら数時間近く馬車に乗って王都までやって来た俺達は、雪とイルミネーションで飾り付けられている大通りを目の当たりにして自然と感嘆の声を漏らしていた。


「うわぁ……綺麗ですねぇ……」


「あぁ、これはまた見事だね。思わず見惚れてしまったよ。」


「うん、凄い。」


「……俺としてはこの風景よりも歩きながらイチャついてるカップルが視界に入ってきて何とも言えない気持ちになるんだけどな……ケッ!」


「おじさん!嫉妬心を剥き出しにして私達の感動を邪魔しないで下さい!」


「はいはい、そりゃすんませんでしたねぇ……」


 チィッ……!俺だって一瞬は素直に感動したんだぞ?でもさぁ、どういう訳なのか至る所に腕を組んで楽しそうに通りを歩いている連中が居やがるし……おかしくね?去年の冬はここまで露骨に独り身を痛めつける仕様じゃ無かったと思うんですけど?


「ふふっ、どうやら九条さんの悪い部分が出て来てしまっているみたいだね。コレは急いで宿屋に向かった方が良いかもしれないな。」


「そうですねぇ……そろそろ日も暮れてきましたし、おじさんがあの人達に絡みだす前に行くとしましょうか。」


「うん、九条さんがこれ以上寂しい思いをする前に。」


「……オイ、本人を目の前にしながら随分な言い様だな。少しぐらい言葉を選ぶって事をしてくれないと俺の心は傷つきまくって砕け散るぞ?」


「全く、何をバカな事を言ってるんですか?そんな事はどうでも良いですから、私の後について来て下さいね。間違ってもおかしな行動は取らないで下さいね。」


「……はい……分かりました……」


 呆れているというのが手に取る様に分かる視線をマホから食らってしまった俺は、荷物を持ち直すと皆と一緒に大勢のカップル達で賑わいまくっている大通りの方へと向かって行くのだった。


「いやはや、それにしても凄い活気だね。流石は王都と言った所なのかな。」


「……どうだろうな。それにしたって賑わい過ぎてる気もするけどな。」


「うーん……もしかして何かイベントでもやっているんでしょうか?」


「ふむ、確かにその可能性は考えられるかもしれないね。1つ前の冬と比べて通りに飾り付けられている物が大きく違っているからね。以前はここまで派手では無かった記憶があるよ。」


「もう少し静かだった気がする。」


「あーまぁここまで気合が入った感じでは無かったな。何と言うか、王都全体が盛り上がってるって空気が……嫌でも伝わってきて…………はぁ………」


「おじさん、そのため息はどうかと思いますよ?こんなにも魅力が溢れる女の子達に囲われているって言うのに何が不満なんですか?」


「ふふっ、そうだね。私達では九条さんのお気に召さないかな?」


「……そういう反応に困る事を言うんじゃありません。俺だってその……お前達の?魅力……っつうのは……分かってはいるつもりだし……うおっ!?ロ、ロイド!お前いきなり何してんだよ!!?」


「何?と問われても、腕を組んでみただけだが?」


「だ、だけだがじゃねぇっつの!分かってんならさっさと離れろ!お前、こんな所を誰かに見られでもしたらってうぉい!マホにソフィ!お前達まで何してんだ?!」


「……ロイドだけズルい。空いてる左腕は私の物。」


「ふふーん!良かったですねおじさん!両腕と背中、魅力に溢れてますよ!」


「アホか!んなバカな事を言ってないで!ちょっ!」


「ダメだよ九条さん。絶対に離してあげないからね。」


「えへん。」


「さぁさぁ、このまま宿屋に直行しましょーう!」


「だぁーっもう!一体何だってんだよおおおおっ!?」


 予想もしていなかった展開のせいで体温がグッと上昇して心臓がバックンバックン動きまくって今にも破裂しそうになりながら、3人を振り解く事も出来ないまま俺は変な視線を感じながら大通りを歩き続けるしかなかったのでしたん……!

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