第557話
「皆さん、本日はお疲れ様でした。ご迷惑だとは思いますが、明日も取材を行わせて頂きますのでどうぞよろしくお願いしますね。」
夕陽に照らされたロイド宅の玄関口で皆と一緒にポーラにペコリと頭を下げられたその直後、俺は自分でも知らない内にホッと胸を撫で下ろしているのだった。
「ふふっ、迷惑だなんて事は無いから安心してくれて良いよ。ただ、明日はもう少しだけ遅い時間に訪ねて来てくれると助かるかな。」
「はい、その点については心得ています。」
ニコッと微笑みながら小さく頷いて見せたポーラと何の気なしに目が合った俺は、別れの挨拶を伝える前に頭の中にあったとある疑問について尋ねてみる事にした。
「なぁポーラ、密着取材を続けるのは構わないんだが本職の方は大丈夫なのか?今日だってほとんど俺達に付きっ切りだっただろ?雑誌社の偉い人達に怒られたりとかはしないのかよ。」
「あっ、そう言えばそうですよね。今日みたいに朝から陽が暮れるまで一緒に居るとお仕事の方に支障が出るのでは……?」
俺とマホが揃ってそう声を掛けると、ポーラは少しだけきょとんとした表情をした後にさっきと同じ様な感じで俺達に微笑みかけてきた。
「あはっ、ご心配には及びませんよ。自分で言うのも何なんですけど、私ってかなり優秀な記者なんで自分が担当している分については8割方片付いているんです。後の2割についても皆さんのおかげでどうにかなると思います!」
「そう、なのか……?ってか、密着取材を利用して自分の仕事を片付けてたとは……もしかして最初からそういう狙いで……?」
「いやいや、偶然に決まっているじゃないですか!皆さんがクエストの為に街の外に出るって聞いたので、ちょっとだけ手伝ってもらおうと考えただけですよ!」
「ふふっ、なるほどね。それで私達はポーラの役に立てたのかな?」
「はい、それはもう!本当にありがとうございました!……っと、私はそろそろ失礼させて頂きますね。一応、職場の方に顔を出さないといけませんので。」
「あぁ、そういう事なら今日はここまでだな……ポーラ、念の為に言っとくが俺達の事については……」
「えぇ、分かっていますよ。約束は守りますので安心して下さい!それではまた!」
「うん、また明日。」
別れの挨拶を済ませて歩き去って行くポーラの姿をしばらく見送っていた俺達は、暗くなり始めた空をチラッと見てから全員と視線を交わした。
「よしっ、それじゃあ俺は家に戻らせてもらうぞ。」
「あっ、おじさん。私達はどうすれば良いですか?ポーラさんには私達が一緒の家で暮らしている事がバレてしまっているので、そっちに戻った方が良いですか?」
「あー……いや、しばらくはこのまま様子見だな。ポーラが書く記事を待てないとか言ってファンの子達が押し掛けてこないとも限らねぇからな……用心をするに越した事はねぇだろ。」
「そうですか……おじさん、寂しかったら何時でもこっちに来て下さいね!」
「アホか、こんなすぐ近くに居るのに寂しさなんて感じねぇよ。」
「ふふっ、もしかして強がっているのかい?」
「んな訳あるか!ほら、風邪をひく前にさっさと家の中に入れ!ったく……」
冷たい夜風を浴びせられながら皆に背を向けて誰も居ない家に戻って行った俺は、1人きりの時間を満喫する為の準備に取り掛かってやるのだった……!
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