第556話

「ふぅ、これでクエストは達成出来たかな。ポーラ、撮影の方はどんな感じだい?」


「はい!ロイドさんの力強くて迷いのない斬撃やソフィさんの素早い身のこなし等、素晴らしい写真を沢山撮影する事が出来ました。本当にありがとうございます!ただ残念な事に、九条さんの活躍している所が……ですね……」


「うん……わざわざ教えてくれなくても分かってるよ……」


 この辺りに生息するモンスター如きに2人が手こずるはずもなく、何もしないままクエストが達成されていく様を静かに見守っていた俺は申し訳なさそうな表情をしているポーラさんから目を逸らして苦笑いを浮かべるのだった……


「九条さん、そう落ち込まないでも大丈夫だよ。ポーラの護衛という役目はしっかり果たしてくれたんだからさ。」


「その通り。九条さんのおかげで後ろを気にせず戦えた。ぐっじょぶ。」


「……2人共、そこまで気を遣われると逆にへこんでくるからそれぐらいで……と、とりあえずやる事もやったしそろそろ街に戻るか!今から斡旋所に足を運んで報酬を受け取れば丁度良い感じの時間になるだろうしな。」


 街の外に出てから一回も使う機会の無かったブレードを腰にぶら下げた鞘に入れて皆の顔を見ながらそう言った直後、ポーラがいきなり片手をバッと上げだした。


「すみません!私用で申し訳ないんですが1つだけ調べてみたい所がありまして……ご迷惑でなければ少しだけお付き合い頂けませんか?」


「あ、あぁ……それは別に構わない……よな?」


「うん、問題ないよ。それで何処に行きたいんだい?」


「えっと、それはですね……」


 ポーラは自身の肩に掛かっている茶色いショルダーバッグの中から革の手帳らしき物を取り出すと、俺達をとある場所まで案内してくれたんだが……


「ふむ……ポーラ、本当にここが君の調べたい所なのかい?」


「はい!詳しくお話する事は出来ないんですけど、ここで間違いありません!」


 満足げに頷いているポーラが見上げるその先に存在しているのは……貴族街を護るバカ高い防壁だった訳で………えっ、もしかしてコイツの目的ってそういう事?


「……ポーラ、貴族の家に泥棒するの?」


「なっ!?なな、何を言ってるんですかソフィさん!私は悪事を暴く側に立って居る人間であって、悪事を働く側の人間ではありませんよ!」


「ふむ、という事はここを調べる事で何かしらの悪事が暴けるという事かな?」


「……申し訳ありません、幾らロイドさんと言えどもお教えする訳にはいきません。これは私のお仕事に関わる事ですので。」


「教えられない、か……だとしたら俺達はここで何をしてれば良いんだ?」


「皆さんには私が調べ物をしている間、周囲を警戒していて欲しいんです。後ろからモンスターとかが現れないとも限りませんからね……お願い、出来ますか?」


「……了解。詳しい事は聞かずに護衛をしてれば良いんだろ?分かったら、さっさと終わらせちまってくれ。そろそろ腹が減ってきたからな。」


「は、はい!それでは失礼します!」


 勢いよく頭を下げてから小走りで防壁に近寄って行くポーラの姿をジッと見つめていると、ロイドとソフィがこっちに視線を送って来た。


「九条さん、ポーラは一体何を調べているんだろうね。」


「さぁな……ただ、あんまり無茶しすぎない様に見守ってる必要があるだろうな……何処となくオレットさんと似た雰囲気を感じるし……」


「流石は姉妹?」


「ふふっ、きっとオレットは大好きな姉の背中を追いかけ続けているんだろうね。」


「……だとしたら、それはそれで大変な事になりそうな予感がするぜ……」


 何と言ってもオレットさんはスクープを求めて危険な幽霊屋敷に乗り込んで行った実績があるからな……そんな彼女の師匠的な存在って……なぁ?


「……よしっ、皆さんありがとうございました!もう大丈夫です。」


「ふむ、もう調べ物は終わったのかい?」


「えぇ!……あっ、言っておきますけど……」


「はいはい、何も聞かないから安心しろって。それよりも急いで戻ろうぜ。さっさとしないとマホに怒られちまうかもしれないからな。」


 肩をすくめながら皆にそう告げた後、俺達は昼飯時に間に合う様に急ぎ足で正門に向かって行くのだった。

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