第535話

 わざわざやって来た旅行先で何故か大立ち回りを披露する事になってから数日後、大きな鏡を見ながら慣れない浴衣に着替えた俺は財布とスマホを持って自分の部屋を後にするとそのまま1階に降りてリビングへ向かって行った。


「おっ、どうやら俺が一番最後だったみたいだな。」


「うむ、とは言えそこまで待っておらぬから安心する良い。」


「まぁ、遅刻したお詫びとして屋台で遊ぶお金は払ってもらうけどね。」


「いや、さっき小遣いは渡してやったんだからそれで勘弁してくれよ……」


 波の柄が入った青色の浴衣を着てるレミと綺麗な花柄の入った白い浴衣姿のユキを見ながら苦笑いを浮かべていると、紫色の妙に色っぽい浴衣を着たイリスが小走りでこっちの方に近づいて来て目の前でくるりと回ってみせた。


「うふふ、どうですか九条さん?僕の浴衣、似合っていますか?」


「……あぁ、どう見ても女性物なのに恐ろしいぐらいに似合ってるよ。」


「ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しです。九条さんの浴衣姿も、凄く素敵ですよ。」


「そりゃどうも……って、だから隙があらば体を寄せて来るんじゃねぇっての!」


「もう、そんなに恥ずかしがる必要は無いじゃないですかぁ。僕と九条さんは運命の赤い糸でつながっているんですから。」


「そんな糸で繋がった覚えは無いしそもそも恥ずかしがるとかってそういう問題じゃねぇんだよ!」


 半歩後ろに下がりつつイリスと距離を取ろうとしていると、朱色の浴衣を着ているフィオが呆れながら俺達の様子を見ているのが視界に入ってきた!


「ったく、いい加減に面倒だからとっととくっついちまったらどうだ?」


「アホか!くっつく訳ないだろうが!俺達の性別を考えろよ!?」


「うふふ、性別なんて僕達の前では大した問題ではありませんよ。」


「いやいや、大問題だろうが!」


「そ、そうですよイリスさん!それに貴方はまだ学生なんですから、九条さんの様な大人の方と付き合うのは許しませんからね!」


「そ、その通りだよ!それに九条さんには、もっとしっかりした人の方が……」


 花火柄の刺繍がされた淡い緑色の浴衣を着たルゥナさんと桜色の可愛い浴衣を着たエルアが助け舟を出してくれたその直後、オレンジ色と黄色の派手な浴衣を纏ってるオレットさんとジーナが2人揃って両手をパンパンと叩き始めた。


「はいはいはい!皆、楽しいお喋りはこれぐらいにしましょう!」


「うんうん!これから花火大会に行くって言うのにここで体力を使っちゃうのは勿体ないよ!それに時間は待ってくれないんだから、さっさと大通りに向かおー!」


「っ!そ、そうだよな!ほら、離れた離れた!」


「ん-……残念ですが仕方ありませんね。続きは帰って来てからという事で。」


「続きも何も帰って来たら風呂に入って寝るだけだっつうの!」


「あぁもう、ごちゃごちゃうっせぇな。何でも良いからとっとと行くぞ。」


「あっ、フィオさん!1人で先に行ってはダメですよ!人も多くなっていますから、迷子になってしまいますよ!」


「ハッ、迷子になるのはどっちかってぇとルゥナ先生の方じゃねぇのか?」


「なっ!せ、先生をバカにしないで下さい!」


「はっはっは!それではわし達も行くとするかのう。」


「えぇ、それじゃあ屋台代はよろしくね九条。」


「はぁ……はいはい、了解しましたよ……」


 出掛ける前からドッと気疲れしながらも皆で別荘を後にした俺は、街道を歩いてる人の流れについて行き大通りまで向かって行くのだった。

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