第525話
だだっ広い平原を駆け回る巨大蟹や森の中を泳ぐ巨大魚といった何とも個性溢れるモンスターを順調に狩り続けていった俺達は、陽が暮れる前に別荘へ戻り素材集めの成果を依頼者でもあるジーナに改めて確認してもらっていた。
「いやぁ、皆どうもありがとうね!今日だけで欲しかった素材が8割ぐらい集まってくれたよ!感謝感謝!」
「そりゃ良かったな……って、まだ2割分も欲しい素材があんのかよ……」
「うん!けど、そんなに急いでる訳でも無いから残りの素材はトリアルに戻る2日前ぐらいに頑張ってもらえれば問題ないよ!それよりもさ……九条さん、あっちの方は気にしなくても良いの?」
「……まぁ……アレに関しては俺じゃあどうしようもないだろ……」
小さいテーブルを挟んだはす向かいのソファーに座っているジーナからそっと目を逸らして右後方側にゆっくり視線を動かした俺は、生徒達から面倒なお願いをされている先生の事を静かに見守っていた。
「なぁ、良いだろ?ルゥナ先生だって俺達の実力なら知ってるじゃねぇかよ。」
「確かに知ってはいますがダメなものはダメなんです!ダンジョンに挑むだけならばまだしも、ボスと戦うだなんて……そんな危ない事は絶対に許可出来ません!」
「えぇ~……こんなに頼んでもダメなのかよ?」
「はい、ダメです。そもそも皆さんはまだ学生なんですよ?それなのにボスクラスのモンスターと戦うなんて危険すぎます!」
「……そうは言うけどよぉ、そっちの3人はボスモンスターと戦った事があるみたいじゃねぇかよ。」
「そ、それはですね……九条さん!」
「えっ?!あっ、はい……何でしょうか……?」
「冒険者であるならダンジョンの危険性もボスの凶暴さも知っていますよね?なのにどうして皆さんをそういう所に連れて行ったんですか!」
「あー……ど、どうしてと言われましてもですね……その……色々な事情が重なってしまった結果としか……」
その時の事を詳しく説明しても良いのかどうか頭を悩ませていると、ダンジョンの奥で一緒にボスと戦った覚えのある3人がルゥナ先生に視線を向け始めた。
「ルゥナ先生、その件については僕自身が原因となっていますのであまり九条さんを責めないであげて下さい。」
「うふふ、僕の場合も九条さん達には無理やりついて来てもらった感じですね。」
「……不本意ながら、我に関しては自身の未熟さが招いた結果としか言えんな。」
「そ、そうなんですか?でも、ですね……」
「まぁまぁまぁまぁまぁ!ルゥナ先生が怒りたくなる気持ちも分かりますけど、皆もそれぞれ事情があったみたいですし……ね?」
「う、うーん……分かりました。その件について追及はしない事にします……でも、だからと言って今回の件は別ですよ!教師として生徒が危ない事をしようとするのを許す事は出来ません!」
「えぇ~頼むからそんな固い事を言わないでくれよ!」
「何度お願いされてもダメなものはダメです!諦めて下さい。」
「そんなぁ~……」
フィオの事だからルゥナさんに黙ってダンジョンに挑むとかしそうなものなのに、変な所で律義な奴だなぁ……
そんな事を考えながら小さくため息を零していると、黙って話を聞いていた2人の神様達が急に姿勢を正しだした。
「ねぇルゥナ、危ない事をするのがダメって言うんなら今日だってクリフとフィオの事を止めるべきだったんじゃないの。」
「……え?」
「うむ、素材集めとはすなわちモンスターと戦う事じゃ。お主が教師として生徒達を危険な目に遭わせたくないと言うのならば今日のも許可出来ん事じゃろう。」
「い、いえ、それは……今日は九条さんが2人と一緒でしたから……」
「ふーん……つまり、ソイツが一緒だったら多少の危ない事は大丈夫って事よね?」
「……は?」
「……へ?」
悪役にしか見えない笑みを浮かべながらこっちに話を振って来たユキと目を合わせながら思わず素っ頓狂な声を漏らしていると、今度はフィオの奴がニヤリと微笑んでこっちを見て来やがった……って、コイツ等まさか?!
「ハッ、それじゃあこうすんのはどうだルゥナ先生。ソイツも一緒にダンジョンまで行ってもらってボスと戦うってのはよぉ。」
「は、はぁ!?おまっ、いきなり何を言ってんだよ!」
「そう驚く事はねぇだろ?テメェも腕に覚えのある冒険者だってんならダンジョンの奥に居やがるボスを倒して実力を付けるのも悪くねぇだろ。」
「いや、悪くねぇだろって……!」
「それによぉ……ボスを倒せば……レア物の素材が手に入るんじゃねぇのか?」
「っ!レ、レア物の……素材……!九条さん!」
「うおっ!?きゅ、急に近づいて来んなっつうか何だよ急に!?まさかとは思うが、お前までボスを倒せとか言い出すんじゃ……」
「その通りっ!クアウォートの近くにあるダンジョンの奥深くに現れるボスを倒して手に入れた素材を是非とも手に入れて来て欲しいんだ!ほら、九条さんだってレアな素材が欲しいよね!もしかしたら武器を更に強く出来るかもしれないよぉっ!?」
「うふふふふ……ジーナさん、興奮する気持ちは分かりますけどあんまり九条さんに近づきすぎない様にして下さいね。」
「あっ、ゴメンゴメン!って、そんな事よりもルゥナちゃん!」
「は、はいっ?!何ですか?」
「ここまで来ておいてダンジョンに挑まないなんて勿体ないよ!ボスを倒せれば皆にとっても良い経験値稼ぎになるし、装備品だって良いのが作れるかもなんだから!」
「そ、そう言われましてもですね……やはり教師として危ない事は……」
「大丈夫!ここには数多くの強敵を倒してきた九条さんが居るんだから!心配をする必要なんて何処にもないよ!そうだよねっ!」
「いや、そこで同意を求められても困るんですけど!?」
「ハイ!それじゃあ決定ね!それじゃあダンジョンに挑むのは何時にするかを決める事にしちゃおうか!」
「お、おいジーナ!勝手に話を進めるなって……あぁもう!」
どうしてこんな事になったのか考える間もなくソファーを立ち上がった俺は、暴走しているジーナを何とか落ち着かせる為にルゥナさんと協力するのだった……!
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