第511話

 街の中心地から少し離れた場所にあるウィスリム家の別荘前で馬車から降りた後、荷物を手にしつつ大きく伸びをした俺は後ろから聞こえてくる感嘆の声を聞きながら目の前にある扉を数回程ノックをした。


 その直後、ガチャリと鍵の外される音がしてゆっくりと押し開かれた扉の向こう側から1人のメイドさんが姿を現して俺達に対して深々とお辞儀をしてきてくれた。


「九条様、レミ様、そしてお初にお目にかかります皆様、本日は遠い所からはるばるお越しになって下さいましてありがとうございます。私はこの別荘の管理を任されているメイド長でございます。以後、お見知りおきを。」


「あっ、ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。私は王立学園で教師を務めているルゥナ・マルティスと言います。本日から生徒共々よろしくお願い致します。」


「はい、かしこまりました。それでは皆様、どうぞ中へお入りになって下さい。」


 メイド長さんに促されて屋敷の中に足を踏み入れて行った俺達は、使用人の方達に出迎えられながらリビングまでやって来た。


「こ、ここが今日から僕達がお世話になる別荘……なんですね……」


「いやぁ、やっぱり貴族様の使っている別荘はレベルが違うね!私、こんなに広くて豪華なお部屋は初めて見たよ!」


「はっはっは!そうじゃろう!そうじゃろう!しかし驚くのはまだ早いぞ!ここにはまだまだ凄い所が沢山あるんじゃからな!」


「ちょっと、なんでアンタが偉そうにしてんのよ!……でもまぁ、確かに凄い所って事だけは認めてあげるしかないみたいね。」


「ふーっはっはっは!なるほどな、ここが我らの拠点となる場所という訳か!」


「……フッ、悪くはねぇみたいだな。」


「うふふ、何だか胸がドキドキしてきますね。」


「……九条さん、本当に私達がこの別荘をご利用しても良いんでしょうか?」


「えぇ、エリオさんから許可は貰ってありますから心置きなくご自由に使って頂いてかまいませんよ。それに何かあれば俺が責任を取りますから安心して下さい。」


「……何から何までありがとうございます。」


「いえいえ、どういたしまして。」


 互いに小さく頭を下げながらルゥナさんとそんな会話をしているとメイド長さんが静かに俺達の方に歩み寄って来て、ニコリと微笑みかけてきた。


「皆様、これよりご利用になって頂くお部屋へご案内致しますがよろしいですか?」


「あっ、はい。お願いします。」


「かしこまりました。それでは皆様、こちらへどうぞ。」


 再びメイド長さんに案内されながら数多くの客間がある2階にやって来た俺達は、広々とした廊下を見渡しながら事前に決めていた部屋割りを確認するのだった。


「えっと、男は階段を上がって左側の部屋で……反対側が女性って事だったよな。」


「えぇ、そして真ん中に位置する部屋は私ですね。皆、何か困った事があったら何時でも訪ねて来て下さい。」


「はい、分かりましたルゥナ先生。それでは僕達は自分達が使う部屋を決めてきますので、また後でリビングに合流しましょう。」


「おう、そんじゃあまたな……さてと、どうすっかなぁ……」


「ふっ、我は深奥の部屋を頂くぞ!構わんな、九条透!イリス!」


「うふふ、大丈夫ですよクリフ先輩。僕は九条さんの隣のお部屋であればどこだって良いですからね。」


「……クリフ、俺はルゥナ先生の隣の部屋にするからお前は俺の隣にしないか?」


「断る!我は無駄に命を散らす趣味は無いからな!」


「いや、そこを何とか!」


「ふーっはっはっはっは!貴様も諦めて自らの運命を受け入れるがいい!それではサラバだ!」


「あっ、オイ!……くそぅ、逃げ足だけは早い奴だな……!」


「九条さん、僕のお勧めは両隣に誰も居ない部屋なんですが……いかがですか?」


「……悪いが俺はルゥナさんの部屋の隣を譲る気は無い!という訳なので……何かあった時はマジでお願いしますね……!」


「は、はい……出来る限り頑張ってみます……」


 申し訳なさそうに目線を逸らしたルゥナさんに若干の不安を感じながらも今日から使う事になる部屋の中に入って行った俺は、荷物を床に置くと窓の外に広がっている景色を眺めながら自分の身を必ず護り通すと固く心に誓うのだった……!

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