第456話

 翌朝、ロイドの実家で聞いた話とセバスさんから貰った手紙の指示に従って門番の人達に受け取った書類を渡した俺達は王宮の出入口であるバカでかい扉の前で王都の警備隊を率いている隊長さんを懐かしの再会を果たしていた。


「九条透、また会う事になるとは思ってもいなかったぞ。あれから元気だったか。」


「えぇまぁ、それなりにですが……隊長さんもアレからお元気でしたか?」


「あぁ、それなりに忙しいが充実した日々を送っている。おっと、そう言えば後ろに居る方達に自己紹介がまだたったな。私の名前はオタイン・ルークだ、よろしく。」


「ふふっ、私の名前はロイド・ウィスリム。九条さんと同じギルドのメンバーだ。」


「ソフィ・オーリア。同じく。」


「私の名前はマホです!よろしくお願いします!」


「うむ、元気が良くて何より。それでは早速だが、これから国王陛下達がお待ちしている玉座の間に君達を案内する。分かっているとは思うが、失礼の無い様にな。」


 掛けている眼鏡をクイっと上げながらそう告げた隊長さんの言葉に頷いた俺達は、力強く歩き出した彼の後に続いて王宮内へと足を踏み入れて行くのだった。


「うわぁ……凄いですね……どこもかしこも目を惹かれる物ばかりですよ……」


「壁に掛けられた美術品や廊下にある照明器具、全てが一級品である事はまず間違い無いだろうね。流石は王宮と言った所かな。」


「武器庫、どんなのがあるのか見てみたい。」


「……お前ら、頼むから勝手な行動はしないでくれよ。下手したら俺の首が飛ぶ。」


 傍から見ても興奮しているのが分かりまくりの皆に釘を刺しながら入り組んだ迷路みたいな廊下しばらく進み長くて幅広い階段を上がって行くと、視線の先に圧倒的な存在感を感じさせる扉と並び立っている警備隊の姿が見えてきた。


 彼らは隊長さんと目を合わせた後に小さく頭を下げるとスッと振り返り、2人してかなりの重量がありそうな扉を押し開いていった。


 ……そして胃がキリキリする様な感覚に襲われながら相変わらず緊張感が溢ている玉座の間に深々とお辞儀をしてから隊長さんと入って行った俺達は、部屋の奥にある豪華な椅子に座っている国王陛下達の前に並び立ってひざまずくのだった。


「国王陛下、ギルドナインティアの皆さんをお連れ致しました。」


「うむ、ご苦労だったな。諸君、姿勢を楽にして顔を上げてくれるか。」


「はい……ご無沙汰しております、国王陛下。それと王妃様とミアお嬢様も。」


「えぇ、お久しぶりですね。またお会いする事が出来て嬉しく思います。ミアさんは数日程ぶりぐらいの再会になるのでしょうけどね。」


「はい、そちらにいらっしゃるロイドさんのご実家でお会いしましたものね。」


「えぇ、まぁ……はい、そうですね……」


 お会いしたっていうか不意打ちで襲撃されたって表現の方がシックリするんだが、流石にこの場でそんな命知らずな台詞を吐ける程の根性は無いんですけどもね……


「九条透、それとナインティアの諸君。今日はよく来てくれたな。感謝するぞ。本来ならば自己紹介を交えながら話をしたい所なのだが、色々と予定が詰まっていてな。早速で悪いのだが引き受けて貰ったクエストについて説明しても構わぬだろうか。」


「あっ、はい。大丈夫ですよ。」


「うむ、礼を言うぞ。それではルーク、頼んだぞ。」


「ハッ、了解致しました。」


 国王陛下の指示を受けた隊長さんは目の前にいる側近らしき人に近づいて行くと、薄い紙の束みたいな物を受け取って俺達の方に向き直った。


「それではこれよりクエストの詳細について説明をする。疑問があれば答えるので、気軽に聞いてきてくれて構わない。分かったか。」


「は、はい。分かりました。」


「よろしい。ではまず、クエストをやるにあたり王都に滞在してもらう日数についでだが……コレはおおよそ14日間と考えておいて欲しい。」


「14日間か……随分と長期的に滞在する事になるんだね。」


「もしかして、その日数ずっと働くの?」


「いや、そうではない。コレは講師活動をするのに必要な準備期間を含めての日数になる。実際に王立学園で働いてもらうのは10日程度になるだろう。」


「……あ、あの、それってもう少し日数が伸びる可能性があるって事ですか?」


「あぁ、不測の事態が起きればの話になるがな。」


「……そうですか。」


 オイオイオイ……あんまり不吉な事は言わないで欲しいんですけど……俺の場合はそれがフラグになって、面倒事が発生する確率が跳ね上がっちまうんだよなぁ……


「さて、もう質問は良いだろうか?……それでは続けるぞ。その14日間の内訳だが前半に5日、そして2日休暇で後半に残りの日数を働いてもらう。」


「な、なるほど……それじゃあ余っている2日間が準備期間という訳ですか。」


「その通りだ。正確には明日の話になるがな。それと講師活動の時間等については、学園長が詳しくご説明して下さるそうなのでそのつもりでいてくれるか。」


「は、はぁ……分かりました。」


「うむ。では次に皆さんが王都で過ごす為の場所に次いでなのだが、コレについては既に用意してあるので後で案内する事になっている。すまないが、持ってきた荷物はその時に回収してきてくれ。」


「了解した。しかし、私達の為にわざわざ居住場所を用意してくれていたのかい?」


「ふふっ、皆さんは私達にとってお客人ですからね。宿屋では落ち着かないと思い、勝手ながらそうさせて頂きました。楽しみにしていて下さい。」


「あ、あはは……はい……」


 柔らかな笑みを浮かべる王妃様の言葉に苦笑いを浮かべた後、俺達は隊長さんから頼まれたクエストのついて軽く説明されて行くのだった。


 まぁ、そのほとんどはロイドの実家で教えられたのと似た話ばっかりで詳しい事については学園長から直接聞いてくれって感じだったけどな。


「……これにて説明は以上になります。他に何か聞きたい事はございますか。」


「うーん……どうだ、何かあるか?」


「いや、私は特に無いかな。」


「私も無い。」


「わ、私もです!」


「……了解しました。それでは、これにてクエストの説明を終えさせて頂きます。」


「あっ、はい!ありがとうございました。」


「いえいえ、どういたしまして。」


 綺麗なお辞儀をしてきてくれた隊長さんがまたまた眼鏡を押し上げてからその場を離れた直後、国王陛下が軽い咳払いをしてこっちを見てきたので俺達は改めて姿勢を正して真正面に居る人達と向かい合うのだった。


「諸君、これから忙しくなると思うが未来ある若者の為に頑張ってくれたまえ。」


「ふふっ、それとミアさんの事もよろしくお願い致しますね。特に九条さんには期待しておりますからね。」


「執事として仕えて下さっていた経験を存分に活かして下さいね、」


「は、はい……了解しました……」


 ……おかしいな、俺は学園で講師として働く事になったんだよな?それなのに……どういう訳かパシリにされる映像しか思い浮かんでこないぞぉ……何でだろうな……


 頭の中に浮かび上がって来た何とも言えない苦い思い出に襲われつつ国王陛下達に別れの挨拶をして玉座の間を後にした俺達は、外に出てすぐの所に停まってた馬車に乗り込んで隊長さんに見送られながら王宮を去って行くのだった。

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