第407話

「ロ、ロイド様!あの、こちらをご覧になって下さいませ!」


「……へぇ、心の距離が近くなる効果のある温泉か。ふふっ、面白いね。」


「は、はい!それでその、ロイド様さえよろしければ……わ、私と……!」


「す、すみませんロイドさん!是非とも!是非ともこちらの記事をご覧になってみて下さいませんか!」


「ん?どれどれ……七色に輝く温泉、コレは随分と不思議だね。一体どういう効能があるんだろう。」


「え、えぇ!ですからその……お時間があったら、一緒にこの温泉に」


「ロイド様!少々お時間よろしいでしょうか!こちらに気になる記事を発見しましたので、見ては頂けませんか!」


「うん、分かった。」


「くっ……!ロイドさん!それよりもこちらに非常に興味深い温泉が!」


「……九条、マホ、ソフィ……あの2人はしておるんじゃろうか?」


「うーん……それは……だな……」


「一言で表現するなら……えっと……」


「……女の戦い……だと思う。」


「……そうか……アレが……のう……」


 正座をして幼い見た目の女の子に説教される場面を美少女に見られるという羞恥心溢れる拷問を受けた次の日、俺達は王都の東側に停まっていた馬車に乗り込んで旅の目的地であるノルウィンドへと向かって数時間近く街道を進んでいた。


「はぁ……こんな事になるなら温泉の話題なんて出さなきゃ良かったぜ……」


「ロイドさんが一緒に入れるのが楽しみって言った瞬間、リリアさんもライルさんも目の色を変えましたからね……」


「あぁ……ロイドを溺愛している2人の前で迂闊な事を言っちまったな……」


「……ちょっと怖い。」


「うむ、馬車の中が広くて助かったわい……おかげであの惨状に巻き込まれず距離を取れたからのう……」


「全くだぜ……ってか、あの状況でもニコニコしていられるロイドってマジでどんな精神の持ち主なんだ?絶対に真似出来ねぇよ……」


「……おじさんの場合、まずあの状況になる事がありませんからね。」


「そもそもからして不可能な話……何とも情けない奴じゃな……」


「オイ、深刻そうな顔して何を言ってやがるんだ?マジで泣くぞこの野郎……!」


「大丈夫、九条さんならロイドみたいな状況になれる。」


「……いや、それはそれで勘弁して欲しいんだが。」


 モテモテになれる!って言えば聞こえはいいが、目の前で繰り広げられているのは熾烈な女同士の争いだしな……アレに巻き込まれるぐらいならハーレムとかマジ……勘弁って言いたい所だけど、1回ぐらいは体験してみたいなぁこんちきしょう!!


「……ってそう言えば、ノルウィンドに行くなら厚着をしていた方が良いって御者の人が言ってましたけど……一体どれぐらい寒いんでしょうかね。」


「ん?どうだろうな……時期的にはもうそろそろ春に突入するから、そこまで厚着をする必要は無いんじゃないかとは思うが……」


「……ノルウィンドは冬に愛された街。」


「……だよなぁ……その言葉を信じるなら、風邪を引かない様にしっかりと着こんでおかないとマズいんだろうな。」


「うむ、わしもそう言われてカレンから冬物の服をかなり押し付けられたわい。」


「そうなのか?それじゃあ、やっぱり…………アレ?」


「おじさん?急に窓の外を見たりして、どうかしたんですか?」


「あぁいや、見間違えだとは思うんだが窓の外に雪が……」


「雪?いやいや、この時期にそんな……バカな……?」


「………雪だ。」


「はっ……え、ええええええっ?!?!!!!」


 少しずつ春の暖かさを感じる日が多くなってきた気たというのに……それなのに、真冬なんじゃないかと勘違いするレベルで降りまくっている雪と真っ白に染まってる地面を目にした俺は……久しぶりに……ここが異世界なんだと実感するのだった……

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