第365話

「ん……うぅ………ぁ………?」


「あっ、おじさん!目を覚ましたんですね、良かった~」


「……マホ………ここは………?」


「おはよう九条さん、ここは闘技場内にある医務室だよ。」


「……医務室……ってそうだ!ソフィ……は………サラさんと、何をしてるんだ?」


 ベッドから起き上がった俺の視界に飛び込んできたのは……正座した足の上に石を積まれているガドルさんと、そんな彼に冷たい視線を送っているソフィとサラさんの姿だった訳で……………いや、マジでどういう状況?


「あぁ、どうも九条さん。お目覚めになってくれて本当に良かったっ!?」


「……ぱぱ、話して良いなんて言ってない。」


「うふふ、罰として石を追加しますね。」


「は、ははっ、2人共……そろそろ勘弁してくれないかな……あ、足が……ね?」


「ダメ、絶対に許さない。」


「それに……また勝手に話ましたね。はい、更に石を追加しますね。」


「ぐっ、うううう………!」


「……マホ、ロイド、アレは一体……」


「えっと……一言で表すなら……お仕置き……ですかね?」


「お、お仕置き……?」


「……今回の一件、どうやらガドルさんが仕組んだ事らしくてね。まぁ、この状況は致し方ないとしか言い様がないね。私達も擁護のしようがないよ。」


「ど、どういうこっちゃ……」


 ロイドの言っている事がいまいち理解出来ずに困惑していると、サラさんが両手で抱えていた大きな杖の先端でガドルさんの足に積まれている石をコンコンと叩いた。


「ほら、九条さんも起きましたからどうしてこんな事をしたのか説明して下さい。」


「わ、分かった……だけどその前に……九条さん、本当に申し訳ありませんでした。どれだけ謝っても許せる事ではないと思いますが……本当に、申し訳ありません。」


「あぁ、はぁ……」


 どうしよう……表情から真剣に謝ってくれてるんだろうなって事は分かるんだが、格好があまりにもアレだから……その……どう反応して良いのか迷うんですけど……


「ぱぱ、早く説明してあげて。」


「あぁ……九条さん、私がどうしてそんな事をしたのか……その理由は……」


「………その理由は?」


 ゴクリと喉を鳴らしながらそう尋ねてみると、ガドルさんは真剣な眼差でこっちをジッと見つめてきて………


「……九条さんが、ソフィを任せても大丈夫な男かどうかを調べる為です!」


「………………はい?」


 予想もしていなかった言葉が飛び出てきて思わず周囲を見回してみると……呆れた様な怒った様な……そんな感じの表情を浮かべていて…………えっ、マジ?


「ソフィから貴方達が頼りになる人達だと言うのは聞いていましたが……どうしても私自身で確かめたくなってしまって……」


「それで九条さんの本気を引き出す為に、わざと敵対心を煽る様な言葉を投げかけていたんだそうです。」


「えっ?それって……本当なんですか?」


「はい……九条さんは自分の事では本気にならないが、仲間の為となると本気になる方だとソフィから教えてもらっていたので……」


「そ、そうだったんですか……」


「ふぅ……本当に呆れてしまいますよね。そんな事の為にソフィちゃんや九条さんをあんなにも傷つけるだなんて、到底許される事ではありませんよ。」


「あぁ、心の底から反省しているよ……九条さん、ソフィ、本当にすまなかった。」


「い、いえいえ!そんな……」


 要するに、親バカが暴走しちまった結果って事だろ?まぁな……何処の馬の骨とも分からない様な男に大事な娘を預けるとなるとそりゃ心配にもなるだろうし……


「……ガドルさん、これで九条さん……いえ、私達にお嬢さんを預けても大丈夫だと安心して頂けましたか。」


「えぇ……あの時の九条さんの言葉を聞いて、皆さんにならばソフィを任せられると納得しました。」


「………あの時の言葉?」


 穏やかな笑みを浮かべながら俺達を見てきたガドルさんの言葉を耳にして何の事か分からず首を傾げていると、マホがニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んで来て……?


「もう、忘れちゃったんですか?ほら、アレですよ!アレ!」


「……アレ?」


「……ソフィは俺達にとって大切な仲間です。だからコイツを傷つける奴を前にして一歩たりとも引く訳にはいかないんですよ。例えその相手が実の父親だろうがな。」


「ふぇあっ!?ロ、ロイド……さん?そ、その台詞は……まさか……!?」


「ふふっ、とっても素敵な言葉だったよ。思わず惚れそうになってしまった。」


「あ、あああああああっ!?!?!!!」


「ちょっとおじさん!変な声をあげながらベッドに潜り込まないで下さいよ!」


「ああああああああ!!!??!!!!」


 ぐううううう!まさかこんな所で……こんな黒歴史が生まれてしまうとはっ……!あぁもう……今すぐ消えてなくなってしまいたいいいいいい!!!!


「う、うぅ……」


「……九条さん。」


「……な、なんだよ……ソフィ………」


 ベッドの掛け布団にくるまりながら丸まって羞恥心からくる唸り声をあげていると背中にポンッと手の平が置かれる感触がして………


「……嬉しかった。」


「な、何が………」


「私の事……大事な仲間って言ってくれて……私の為に……怒ってくれて……」


「………」


「本当に……ありがとう………」


「………おう………」


 それからまぁ……何だ……若干の気恥ずかしさが残りながらもベッドを抜け出した俺は……小さく微笑んでいるソフィと目を合わせながら笑みを浮かべるのだった。


「あらあらまぁまぁ、ソフィちゃんったらあんな表情で九条さんを……」


「う、むむ………」


「おじさん!もうそろそろ闘技場が閉まっちゃう時間になるので、急いで帰り支度を済ませて下さい!」


「えっ!もうそんな時間……って、俺はどんだけ気絶してたんだ……?」


「そうだね、ざっと計算して8時間ぐらいかな。」


「そ、そんなにか!?」


「肉体的なダメージが多かったから、回復にも時間が掛かったんだろ思う。」


「な、なるほど……って、納得してる場合じゃねぇや。」


 思いのほか時間が経ってた事に驚きながら忘れ物が何かの確認をした俺は、いつの間にか自由を取り戻していたガドルさんの姿を横目に見ながら使わせてもらっていたベッドと整えて医務室を後にするのだった。


「うわぁ……すっかり暗くなっちゃってますね。」


「あー……こりゃ外で晩飯を食った方が良いかもな。」


「うん、それじゃあそうしようか。皆さんもご一緒にいかがですか。」


「あら、よろしいんですか?それならお言葉に甘えさせてもらいますね。」


「……皆で食べるご飯、楽しみ。」


「えへへ、私もです!」


 ……久しぶりに心が穏やかになるのを感じながら2人のやり取りを眺めていたら、ガドルさんがどういう訳か真剣な表情を浮かべながら目の前にやってきた?


「九条さん……貴方に1つだけ言っておきたい事があります。」


「は、はぁ……何ですか?」


「……試合の最後、ソフィをお願いしますと言いましたがそれは仲間としてであって決してそういう男女の」


「えいっ。」


「がっぱあああああああ!!!!!」


「ガ、ガドルさああああああん!?!?!?!」


 物凄い勢いで廊下を吹っ飛んで行ったガドルさんが奥の方にある壁に激突してから数秒後……俺は可愛らしい掛け声と共にフルスイングをした杖を側頭部にぶち当てたサラさんと目が合って……


「九条さん、あの人がさっき言った事は気にしないで下さいね。これからも、ソフィちゃんの事を……す・え・な・が・く……よろしくお願いしますね。」


「は、はいいっ!」


「……さてと、それでは私はガドルさんに回復魔法を掛けて……って、そうでした。九条さん、明日は何かご予定はありますか?」


「へっ!?な、何ででしょうか?!」


「実はですね、明日は朝からガドルさんにお仕置きを決行する予定なんですよ。」


「お、お仕置きですか!?いや、さっきもやってたんじゃ……」


「うふふ……ソフィちゃんと九条さんを傷つけたのにあの程度のお仕置きで済ませる訳が無いじゃないですか。そうよね、ソフィちゃん。」


「うん、まだ許したつもりはない。」


「そういう事ですので、もしよろしかったら九条さんもいかがですか?」


「え、遠慮しておきます!実はその、色々とやる事がありまして!」


「あら、それは残念。それでは九条さんの分は、私は代わりにしておきますね。」


「は、はぁ……所でその……何をなさるおつもりで……?」


「うふふふ……ただただ……罰を与えるだけですよ……」


「へ、へぇ………」


 瞳の奥にドSが宿っている気がして深く聞くのを諦めた俺は……回復されて戻って来たガドルさんを憐みの目で見つながら闘技場を出て行くと、皆で夕食を食べる為に大通に向かって行くのだった。


 ……その翌日、闘技場から男性の悲痛な叫び声が聞こえてくるとかこないとか……まぁ……アレだ……ご愁傷さまです……!

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