第310話

「おぉ!王都とはこんなにも広い街じゃったのか!それに祭りでも無いのに凄い人の数じゃな!何だか目が回ってしまいそうじゃのう!」


「レミさん、興奮する気持ちも分かりますけど私達の傍から離れない様に気を付けて下さいね。はぐれたりしたら大変なんですから。」


「はっはっは、そんな風に言われずとも……」


「うおっ!?」


「こうしておけば、お主達とはぐれる心配はなかろう?」


 凶暴なモンスターに襲われたり、凶悪な野盗に襲われたり、天変地異に襲われたりせずに何とか王都までやって来れた喜びを1人黙々と噛みしめていたその時、レミが俺の右腕に突然ガシッと抱き付いて来やがった。


「ちょっ、いきなり何してんだよ。」


「いやなに、マホを安心させてやろうと思ってな!」


「ったく……それならお前が落ち着けば良いだけの話だろうが……」


「それは無理な相談じゃな!この様に素晴らしい光景を目の当たりにしては、わしの好奇心も抑えきれぬと言うもの!」


「胸を張って言うこっちゃねぇだろうよ……マホ、俺はどうすりゃ良いんだ?」


「えっと……すみませんけど、しばらくの間はその状態でお願いします。レミさん、目を離したら1人で何処かに行っちゃうかもしれないので……」


「はぁ………了解した………」


 この神様、本当に数百年の時を生きてきたのか?言われてる事が小さな子供と同等レベルな気がするんだが……マジで保護者になった気分だぜ……


「それで九条、これからどうするのじゃ?」


「ん?そうだなぁ……とりあえず予約していた宿に行って、その後は………お前ら、寄りたい店とか場所とかあるのか?」


「うーん、私は特にありませんね。」


「私もマホと同意見かな。街を軽く見て回れればそれで……ソフィはどうだい?」


「……闘技場に行ってぱぱとままが帰って来てるか聞きたい。」


「あぁ、そういや……ってあれから随分経つけど、連絡とか来てないのか?」


「うん、来てない。」


「そうか……」


 確か去年の今頃にBランクの闘技場で王者をやってるってのを聞いて、受付の人に手紙を渡したはずなんだが……まだ帰って来てないのか?いやでも、国王からされていた依頼は王都周辺のゴタゴタをどうにかしてくれ的な物だった気がするんだが……


「うん、そういう事なら宿屋に向かう前に闘技場に行ってみようじゃないか。時間的にもそっちの方が良さそうだからね。」


「そうですね!それじゃあ闘技場に行った後は、皆で晩御飯を食べましょう!」


「おぉ!晩御飯!とびっきり美味しい物が食べたいのう!」


「ふふっ、任せてくれ。お勧めの店に案内するよ。」


「うむ!よろしく頼んだぞ!それでは闘技場に向かうとするか!」


「はいはい……マホ、案内よろしくな。」


「はい!了解しました!」


 ビシッと敬礼して前を歩き出したマホの後に続いて数十分後、ギリギリ明るい内に闘技場に辿り着いた俺達は受付でソフィの父親が居るかどうか尋ねてみたんだが…‥


「えっ、マジですか……」


「えぇ、数日前に開催された試合には参加されていたんですけど……その後、すぐに街を離れてしまったみたいでして……」


「そうなんですか……」


「ソフィさん……その………大丈夫ですか?」


「うん、会えなかったのは少し残念だけど。」


「……ソフィ、母君はこの街で暮らしていないのかい?」


「ままはぱぱと一緒に行動してるはず。だから今は居ないと思う。」


「な、なるほど………そういや、ソフィの母親ってどんな人なんだ?聞いた事が無い気がするんだが……」


「ままは魔法を使って戦うのが得意。昔は冒険者をしていて、今は引退してる。」


「へぇ……それなのに親父さんと一緒に行動してるのか?」


「うん、ままはぱぱが大好きだから。」


「ほっ……ふーん………」


「こ、こう言い切られてしまうと………何だか恥ずかしいですね………」


「ふふっ、仲睦まじい様でなによりだよ。」


「まぁ、娘をほったらかしにしている点は褒められんがな。」


「それは仕方ない。だからあんまり悪く言わないでね。」


「ふむぅ……ソフィがそう言うならば良いがのう……」


 微妙に納得出来てないレミに少しだけ同意しながら腕を組み唸り声を上げた俺は、困り顔で対応してくれていたお姉さんに目を向けた。


「んー……あの、ソフィが残してった手紙は渡してくれたんですよね?」


「あっ、はい!勿論です!手紙を預かってから数日が経った頃にガドル様がお戻りになりましたので、その時にお渡し致しました。」


「そうですか……それから何の連絡も無いって事を考えると……そんだけ忙しくなる様な事を依頼されたって事なのか?」


「多分。ぱぱは凄い人だから。」


「………それならしょうがない、今回も親父さんに手紙を残して晩飯を食いに行くとしますかねぇ。」


「そうですね……外も暗くなってきましたし……ソフィさん、それで良いですか?」


「うん、分かった。書く物、借りても良い?」


「はい、こちらをどうぞ。」


「ありがとう…………はい、お願い。」


「早っ!も、もう終わったのか?」


「うん。」


 戸惑ってる俺の問いかけに小さく頷いて返事をしたソフィは、書き終わった手紙をこっちに手渡してきた。


【会いに来た。でも居なかったから帰ります。 ソフィ】


 どうするべきかと悩んでいる間に読み終わってしまった……って言うか、毎度の事ながらシンプルすぎじゃありませんかね!?親父さん泣いちゃうんじゃない?!


「な、なぁ……本当にこれで終わりなのか……?」


「うん、後はよろしく。」


「は、はい……それではその……お預かりします……」


「ロイド、今日はお肉が食べたい。」


「……ふふっ、それじゃあとびっきり美味しいお肉が食べられるお店に行こうか。」


「はっはっは!それはそれは、何とも楽しみになってきたのう!」


「き、切り替えが早すぎじゃね!?」


「さ、流石ソフィさんと言うべき……なんですかね………」


「あ、あははは……またのご来場……お待ちしております……」


 こうしてまたまたソフィさんの親父さんに会えないまま闘技場を後にした俺達は、ロイドのお勧めだという少しお高めの店に行って晩飯を食べるのだった。

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