第311話

 心地よい満腹感に満たされながら夜になっても明るい大通りをしばらく歩いていた俺達は、エリオさんが予約してくれたと言うかなりのお値段がしそうな宿屋に向かいそこの受付で手続きを済ませると寝泊まりする部屋まで足を運びはしたんだが………


「なぁ、やっぱり俺は別の宿屋を探した方が良くないか?どう考えても俺とお前達が同じ部屋ってのは色々とマズい気がするんですけど………」


「もう、さっきからしつこいですよおじさん!エリオさんのご厚意を無断にするって言うんですか!」


「お、俺だってそうしたい訳じゃねぇけどさぁ……って言うか、あの人は大事な娘がこんなおっさんと同じ部屋で寝泊まりするって事について心配してないのか?」


「ふふっ、私達が一緒に生活をしている事を知っているのに今更そんな心配をすると思うのかい?」


「ロイドさんの言う通りですよ!それともおじさん、もしかして私達に襲い掛かろうとか考えているんですか?」


「い、いや……そんなつもりは微塵も無いけど……」


「それならグダグダ言ってないで、荷物を置いて来て下さい!これから明日の予定を立てるつもりなんですから!」


「あ、はい……」


「はっはっは!どうやら同じ部屋に泊まる事を不安に感じていたのはお主だけだったみたいじゃな!」


「はぁ……何とも言えない複雑な気分だな……」


 エリオさんとカレンさんの事もあるから念の為に確認してみた訳なんだけどさ……信頼はされてるけど男としては意識されてないんだってのを改めて思い知らされて、喜べば良いのか悲しんだら良いのか……どっちが正解なのかもう分かんねぇな……


 そんな事を考えながら静かにため息を零しつつ部屋の隅に荷物を置いてきた俺は、低いテーブルを囲う様にソファーに座っている皆の所に戻って行った。


「それでは早速ですが、明日はどうするのか決めていきましょうか!」


「えっと、確かファントリアスに向かう馬車が出る時間が……」


「14時頃。」


「あぁ、そうだったな。ってかこれまで使ってきた馬車に比べると、出発時間が随分遅いよなぁ。」


「そうですね……一体どうしてなんでしょうか?」


「さぁな……利用者が極端に少ないのか、途中で1泊する為に寄る村がそこまで遠くないからなのか……まぁなんにしても、そのおかげでフラウさんに渡す手土産を買う時間が得られたんだから良かった気はするけどな。」


「ふむ、そのフラウという者に渡す手土産をトリアルで買っておかんかったのか?」


「いや、一応は買ってあるんだけど……王都の店は品揃えが豊富だから、用意をしておいたやつがダメだった時の為に変わりになるのを探そうと思ってな。」


「それと道中で食べるおやつなんかも欲しいですからね!」


「おぉ、それは確かに必要じゃな!今日は途中で小腹が空いてしまったし……うむ、明日はいーっぱいおかしを買って行くぞ!」


「……意気込んでいる所で悪いんだが、その分の金は持ってるのか?」


「ふっふっふ、そんなのあるはずが無かろう!だから九条、神であるわしにおかしを貢ぐのじゃ!さすればお主に幸運が訪れるであろう!」


「結局そういう事かよ!?ったく……まぁ、値段次第だが考えといてやるよ。」


「うむ、よろしく頼んだぞ!」


「おじさん!私のもお願いしますね!」


「はいはい、分かりましたよお嬢さん……」


「ふふっ、これは明日の買い物がますます楽しみになって来たね。」


「私はおかしよりもアイテムが欲しい。」


「……いや、お前達は自分のお金で買いなさいよ。」


「おや、私達は仲間外れなのかい?それは悲しいなぁ。」


「九条さん、私達が嫌い?」


「はっはっは、そんな白々しい演技をされても……ちょ、待て!ジリジリと近寄って来るんじゃない!」


「その調子ですよお2人共!もっとガンガン攻めていきましょう!」


「うむ、九条はおなごに迫られると弱い男じゃからな!簡単に落とせるわい!」


「ぐっ、どいつもこいつも好き勝手に言いやがって!こうなったら絶対に……あっ、泣き真似はズルぞこんにゃろう!嘘だと分かっても罪悪感に襲われるだろうが!」


 ……こんな感じでワイワイしながら楽しい夜を過ごした俺達は、翌日になると少しだけゆっくりしてから宿屋を後にして手土産を買う為に街中に出て行くのだった。

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