第306話

 トリアルで開催された祭りの名残が消えてロイドとソフィの武器が新調されてから数週間が過ぎて、ほんの少しずつだが紅葉が見られる様になり秋の訪れが感じられる気温にもなってきていた。


 ……まぁ、だからと言って普段の暮らしぶりが変わる訳でもないので何時もの様に目を覚ました俺は二度寝したい気持ちを押し殺しながらベッドを抜け出すと洗面所で顔を洗って歯を磨くと朝飯を食べる為にリビングに向かって行くのだった。


「ふぁ~……おはようさん………」


「あっ、おはようございますご主人様!もうすぐお料理が出来上がりますから、少しだけ待っていて下さいね。」


「はいよ……って、何だコレ?」


 エプロン姿でフライパンを振るうマホに促されて自分の席に座ろうとしたその時、朝飯が並べられる所に装飾の凝った綺麗な封筒が置かれている事に気が付いた。


「ふふっ、その裏に書いてある差出人を見てみると良いよ。きっと更に目が覚めると思うからね。」


「なんじゃそりゃ…………う……お……おおおおおおお!?!!!?!」


 ロイドに言われた通り封筒をひっくり返し名前を確認してみると、そこには丁寧で美しく気品すら感じる文字でフラウ・レジアントと書かれていたああああああっ!?


「もう、朝から大きな声を出さないで下さいよ。」


「だ、だってこれは!フ、フラウさんからの手紙じゃねぇですかよ?!」


「ご主人様、驚きすぎて口調がおかしくなっていますよ。」


「し、仕方ねぇだろ!?ってか、お前達はどうしてそんなに落ち着いてんだよ!?」


「私達はご主人様が起きる前に驚き済みですからね。」


「そ、そういう……えっ、つーか何でフラウさんから手紙が?どういう用件で?」


「それは読んでみれば分かりますよ。ソフィさん、朝食を並べるのを手伝ってほしいんですけど良いですか?」


「うん、分かった。」


「ご主人様はその間にお手紙に目を通しておいて下さいね。」


「あ、あぁ………」


 戸惑いを隠せないまま椅子に座り封筒の中から1枚の小さな紙を取り出した俺は、そこに書いてあるシンプルな文章を読んでみた。


【九条さん マホさん ロイドさん ソフィさんへ


 皆さん、ご無沙汰しております。魔術師のフラウ・レジアントです。

 突然の事で驚きかと思いますが、お手紙を送らせて頂きました。

 今度、ファンリアトスという街でイベントを開催させて頂く事になりました。

 もしご予定に空きがある様でしたら、遊びに来て下さると嬉しいです。

 その際は是非、同封したチケットをご利用下さい。


                          フラウ・レジアントより】


「九条さん、コレが同封してあったチケットだよ。」


「お、おう!うーん……何とも神々しい輝きを感じるぜぇ……!」


「それ1枚で5名まで利用する事が出来るみたいだよ。」


「へぇ………そう言えば、ここに書いてあるファンリアトスって何処にあるんだ?」


「ファンリアトスと言うのは王都の西側にある街の名前ですよ。それよりご主人様、朝食が出来ましたのでお手紙を仕舞って貰っても良いですか。」


「ん?おう、分かった。」


 俺は読んでた手紙と渡されたチケットを封筒の中に入れると、邪魔にならない様にテーブルの端に置くと皆と一緒に朝飯を食べ始めた。


「それにしても2週間後ですか……これは、今日から忙しくなりそうですね!」


「そうだな!……ってアレ?イベントの開催日時って手紙に書いてあったっけ?」


「いえ、手紙じゃなくてチケットの裏に書いてあるんですよ。」


「あーなるほどね。」


「そんな訳なので、この後は旅行の準備に取り掛かりましょうね!」


「………了解!」


 ようやく取り戻した平穏な日常を放り出してまで遠出する事にほんの一瞬だけ躊躇したんだが……それより何よりフラウさんにまた会えるという絶好の機会を見逃す訳にはいかないと判断した俺は満面の笑みを浮かべながら親指を立てるのだった!!

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