第307話

「えぇー!?九条さん達、この間クアウォートに行ったばっかりなのにまた別の所に旅行するの?!凄い、そんなお金がよくあるね!」


「まぁ、何かあった時の為に少しずつではあるけど貯金はしてるからな。」


「ふーん……それにしてもファンリアトスか………その、フラウさんだっけ?本当にその街でイベントを開催するの?」


「あぁ、手紙にはそう書いてあったけど……何でそんな事を聞いて来るんだ?」


 旅行の計画を立てる前に本屋で旅行雑誌でも書こうかと思っていた俺達は、武器の使用感を教えて欲しいと言われたのを思い出して加工屋にやって来て報告のついでに色々と話をしてみたんだが……どういう訳だかシーナが訝し気な視線を送ってきた。


「いや、それがさぁ……ファントリアスって閉鎖的な街って噂があるんだよね。」


「閉鎖的?それってどういう事ですか?」


「えっと、本当に噂程度の話なんだけど……ファントリアスに住んでいる人達って、街の外から来た人との交流を極端に避けてるんだって。」


「ふむ、その理由は?」


「それはちょっと分かんないかなぁ……親父は知ってる?」


 俺達の雑談を静かに聞いていた親方はバッと振り返ったシーナにそう問われると、呆れた様にため息を零してこっちに視線を送って来た。


「……俺もそんなに詳しく知っている訳じゃあないが、街に暮らしている人達が外の連中との交流を断ってるのはそれなりに理由があるらしい。だからファントリアスに関する観光向けの本を探そうとしているんなら無駄だぞ。」


「えっ、マジですか?」


「おう、そもそもが観光を目的として訪れる様な街じゃないからな。」


「あー……そうですか……」


 うーん……初めて行く街だから少しでも情報が欲しいって思ってたんだが、まさかそこまで徹底して秘密主義を貫いてるとはな……ほ、ほんのちょびっとだけワクワクしてきちまったじゃないか!街に隠された謎!そこには一体何が!?みたいな!


「……観光向けの本に載ってないなら、何を見れば良い?」


「そうだなぁ……街の歴史を取り扱っている本ならあるかもしれないから、そういうのが置いてある場所を探してみれば良いんじゃないか。」


「なるほど!確かにそういう本なら見つかるかもしれませんし、街の人達が閉鎖的になっている理由についても載っているかもしれませんね!」


「いやいや、そんな簡単に街の秘密が分かる訳が……あっ。」


「ふふっ、それじゃあ本屋でファントリアスに関する本を探してみるとしようか。」


「ですね!それではお2人共、これで失礼しますね!」


「あぁ、それじゃあまたな。」


「ばいばーい!あっ、そうだ!もしファントリアスに行って時間に余裕が出来たら、クエストでも受けて珍しい素材を集めて来てよね!」


「悪いがそんな余裕はない!さらばだ!」


「はぁ?!何それ!ちょっと、待ってよ九条さん!」


 シーナから面倒事を押し付けられる前に全速力で加工屋から逃げ出した俺は、皆と一緒に本屋に行って目的の本を………あっさりと見つけ出してしまうのだった……!


 分かってた……さっきの迂闊な一言のせいでフラグが成立した事は分かってたさ!だけどまだ、まだ街の秘密が解き明かされた訳ではない!だから希望を捨てるな俺!フラウさんとファントリアスで大冒険を繰り広げて素晴らしいラブロマンスが始まるって可能性はまだ残っているはずなんだよぉ!


 そんな希望を込めながら買った本が入っている袋を強く握りしめた俺は、さっきと同じ様に嫌な予感がしながら家に帰って行くのだった。

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