第284話

「人々の心を惑わす悪しき魔術師達よ!今こそ我の前でその正体を現すのだ!」


「おやおや、どうやら私達も悪い魔術師として認定されてしまったみたいだね。」


「私、接近戦の方が得意。」


「うーん、そもそも私は魔法すら使えないんですけどね。」


「いや、そういう問題じゃねぇだろ……ってか、アイツは人の家の前で何を召喚するつもりなんだよ。」


「さぁ?とりあえず呼ばれているんでご挨拶して来たらどうですか。」


「はぁ………面倒くせぇなぁ………」


 1週間の間にエルアが何とか説得してくれるかも!なんて淡い期待は呆気なく砕け散ったんだと理解した俺は、ため息を零し後頭部をガシガシと掻きながら玄関の扉を開けて望んでも無い来訪者と対面するのだった。


「ふっふっふ、我との勝負に恐れをなして逃げ出したりしていなかった様だな!」


「す、すみません九条さん!皆さんが悪い人じゃないって何度も言ったんですけど、クリフ君が全然聞いてくれなくて……」


「ふんっ、この男に心を惑わされているお前の言葉は信じられんからな!」


「だ、だから惑わされてなんかいないって言ってるだろ!」


「あーはいはい、お取込み中の所で悪いが本題に入らせて貰っても良いか?」


 パンパンと大きな音を立てる様に手を叩いて2人の意識をこっちに向けた後、俺はまだまだ夏真っ盛りだと言うのに暑苦しい格好をしている少年と目を合わせた。


「本題……それはつまり、我とする勝負内容を伝える準備が整ったという訳か。」


「うん、それは最初から出来てた訳なんだが……まぁ良い、それじゃあ勝負の内容を伝えて……ってその前に、お前にコレを渡しておくわ。」


 俺はポケットの中から手の平サイズの小さな袋を取り出すと、警戒心を隠そうともしていないダーク………何とかと名乗っていた少年に渡した。


「むっ、何だコレは………もしかして金か?」


「その通り、その袋の中には3000Gが入ってる。」


「ふんっ、我に勝てぬと怖気づいて金で買収しようという魂胆か……情けない男だな貴様は!」


「あぁ、いやいやそうじゃなくて……ソレは最初の勝負をするのに使う材料費だ。」


「ざ、材料費だと?それに最初の勝負とはどういう事だ?」


「まぁそう慌てなさんなって、ちゃんと説明してやるからさ。」


「………っ!」


 ニヤリと笑みを浮かべながら握り拳を顔の前に持ってきた俺は、緊張した面持ちの2人と目を合わせながら人差し指をピンっと立てるのだった。


「その1、勝負は3回。その2、その内のどれか1つでもお前が勝ったら俺の敗北。その3、お前が全敗したら今後は俺に絡んで来ないと誓え。以上だ。」


「え、えぇっ!?だ、大丈夫なんですか九条さん?それだとクリフ君が圧倒的に有利じゃないですか!」


「そうだと!貴様、我を舐めているのか!」


「いやいや、だって勝負内容はこっちが決めてるんだからそれぐらいはなぁ。それにこう言っちゃ悪いが、恐らく俺が完全勝利すると思う。」


「ぐっ!……ふっふっふ、面白いではないか!我の中に流れる暗黒龍の血に恐怖して恐れおののくがいい!」


「……あれ?この間は邪龍の血がどうのこうのって言ってたような?」


「う、うるさい!我の中には2種類の龍の血が流れているのだ!それよりも、最初の勝負とはなんだ!さっさと言うがいい!」


「分かった分かった……それじゃあ最初の勝負内容は……」


「……‥っ!」


「『ぐぅ~!腹ペコ娘達の胃袋を決められた予算内で作れる昼飯で満足させろ!!』ってな感じだ。」


「「…………は?」」


「いやだから、ぐぅ~!」


「く、繰り返さなくても良い!と言うか、さっきのが勝負の内容だと言うのか?!」


「おう。これから市場に出向いてさっき渡した3000G以内で食材を買って来る。そしてそれを使って俺の仲間とエルアが満足する昼飯を作る。簡単だろ?」


「ぐっ、しかし……俺、あっいや、我は料理なんぞをした事は……そ、それに貴様が住んでいる邪悪なる家の中に足を踏み入れるなど!」


「あれあれぇ?もしかしてダーク・ブラッディ・ナイト様ともあろうお方が、勝負を投げ出すなんて事は………あぁ、無理なら良いんですよ!仕方が無いですから、別の勝負方法を考えてあげましょうか?」


「ふっふっふ……ふっふっふっふ………面白い、貴様のその安い挑発に乗ってやろうではないか!料理の1つや2つ、すぐに用意してくれるわ!」


「おぉ、そうかそうか!それは良かった!」


「さぁ、それでは勝負開始だ!エルア、我を市場へと案内するのだ!」


「あ、ちょっと!案内を頼むなら先に行かないでくれよ!クリフ君ってば!」


 行き先も分かって無いのに早足で歩いて行く中二病の後を追いかけるエルアの姿を眺めながら息を吐き出していると背中がトントンと叩かれたので、振り返ってみるとそこには呆れた表情を浮かべながら俺をジトッと見つめているマホが……


「ご主人様、ちょっとやり過ぎなのでは?」


「……こっちだって面倒なのに勝負してやってんだ。アレぐらいしても許されるとは思わねぇか?」


「ふふっ、勝負を挑んできた彼の自業自得……なんて言えるかもしれないね。」


「だろ?……さて、俺もちゃっちゃと買い出しに行くとしますかね。」


「あれ、お家にある食材を使わないんですか?まだ食材は残ってますけど。」


「やるからにはガチで勝負しないと意味ねぇだろ……そんじゃまぁ、行ってくる。」


「うん、行ってらっしゃい。」


「ご主人様、頑張ってくださいね!」


「お土産、期待してる。」


「いや、そんな期待されても困るから。」


 それにしてもこのクソ暑いってのにわざわざ買い物に出なきゃならんとはなぁ……本当なら家でゴロゴロしてる予定だったのに……あー……しんどっ!

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