第275話

 翌日、レミが何を企んでたのか分からないまま朝を迎えた俺は帰り支度を済ませて朝食を食べ終えると皆より先に宿屋を出て馬車が来るのを待っていたんだが……


「はぁ……こんな不思議な事が起きるなんて驚きだよなぁ。」


「うーん、一体どうなってんだか……」


 雲一つない空とぬかるんだ地面を交互に見ながら首を傾げて畑の方に向かって行く昨日の村人達を見つけた俺は、何かが起きたのかと思い声を掛けてみる事にした。


「あの、どうかしたんですか?」


「ん?あぁ、アナタは昨日の……いや実はですね、昨日の夜になるんですがこの村に雨が降ったみたいなんですよ。」


「へぇ、それは気付きませんでした………でも、それがどうして不思議なんですか?この時期ですからそういう事もあると思いますけど。」


「まぁ確かにそう言われればそうなんですが……その雨、どうにも村の中だけで発生していたみたいなんですよ。しかも畑がある場所を中心にして。」


「……え、それって本当ですか?」


「はい、どうしてこんな事が起きたのかと朝から不思議でしょうがないですよ。」


「村の中の地面はびしょ濡れなのに外の方はビックリするぐらい乾いてるからなぁ。マジで悪い事が起きる前兆じゃなければ良いが………」


「そ、そうですね………」


「そんな訳なので私達はこれで、畑の様子を改めて見てこないといけませんから。」


「あ、はぁ……すみません、そんな時にお引き留めして……」


「いえ、それじゃあ失礼します。」


「またいつか、村に訪れてくれる事を心待ちにしてますよ。」


「えぇ、その時はよろしくお願いします……」


 立ち去って行った村人達をしばらく見送った後に宿屋の方を振り返った俺は、既に到着していた馬車の前に集まっていた皆の元に駆け寄って行くと……


「おっ、どうしたんじゃ九条。先ほど村の者達と何やら話をして」


「レミ、犯人はお前だろ。」


「……はて、いきなり何の事じゃ?」


「ちょ、ちょっとおじさん!いきなりどうしたんですか?」


「……詳しい事は馬車の中で説明する。もう出発の準備は大丈夫なんだよな?」


「あぁ、父さんと母さんと他の皆はもう馬車に乗っているからね。後は私達が乗れば良いだけだよ。」


「そうか……レミ、どういう事なのかキッチリ話して貰うからな。」


「むぅ……何を言っておるのかさっぱりじゃが、努力はしてみるとするかのう。」


 腕を組んで何が何やら的な表情を浮かべているレミと共に馬車に乗り込んだ俺は、揺れ動く窓の外の景色をジッと見ながら村の外と中の地面を見比べてみたんだが……


「なるほど、地面にこうも差が出てたら驚くのも仕方ないわな……」


「あの、おじさん?そろそろ何を聞いたのか教えて貰いたいんですけど。」


「……分かったよ。」


 俺は今さっき村の人達から聞いた話を全て伝えると、何故か得意気な表情を浮かべ小さく頷いているレミに呆れながら視線を送った。


「なるほどのう、それでわしを犯人呼ばわりしたという訳か。」


「そう言う事だ……で、どうして雨なんか降らせたりしたんだ?まさかとは思うが、自分は関係ないとか言うつもりは無いよな。」


「うむ、実際に雨を降らせたのはわしじゃからな。」


「え、えぇ?!ほ、本当にレミさんが犯人だったんですか!?い、一体どうして?」


「ほれ、あの者達は畑が荒らされて収穫する作物の量が減って困っておったじゃろ?だからわしの力が宿る雨を降らせて手助けをしてやろうと考えたのじゃよ。」


「ふむ、それはもしかしなくても神様としての力という事かい?」


「その通りじゃ!今すぐには難しいかもしれんが、秋になる頃には沢山の作物が実るはずじゃよ。」


「うふふ、困っている人を助けるなんて流石は神様ですね。」


「はっはっは!そう褒めるでない!わしはやるべき事をやっただけじゃからな!」


「あらあら、それでは心優しい神様にご褒美として淹れたての紅茶を……どうぞ。」


「おぉ!これはこれは……う~ん、体に染み渡るのう………これ九条!何をボサッとしておるんじゃ!さっさと昨日の菓子を用意するんじゃ!」


「いや、何で俺が……」


「村の者達を救おうとした神を犯人呼ばわりした罰じゃ!ほれ、ほれほれ!」


「あぁもう、分かったから体を押すなって!ったく、本当に神様ってのは……」


 良い事をしていたと分かった以上どうとも言えなくなってしまった俺は、その後も調子に乗った暴君レミに良い様にこき使われてしまうのだった……

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