第10・5章
第272話
「ふぁ~……………ねみぃ…………」
まさか花火大会の後に深夜過ぎまで飲み回に付き合わされるとは………とりあえず酒は口にしなかったから二日酔いはしてないけど、寝付いたのが遅かったからマジで辛いんですけど………
「…………はっ……やべぇ………ボーっとしてると意識が飛ぶ…………」
こっちの世界に来てから規則正しい生活をする様になったせいで夜更かしが本当にキツイ………って、俺が歳を取ったせいだとかそういう訳じゃ断じて無いからな!
「……いやいや、誰に言い訳をしてんだよ。」
本格的に思考がバグっている事に危機感を覚えてゆっくりとベッドから抜け出して洗面所で顔を洗い無理やり目を覚ました俺は、出発時刻に合わせて早くなった朝飯を食べる為に部屋を出てリビングに向かって行くのだった。
「あっ、おはようございますおじさん!」
「はっはっは!一番最後にやって来るとは情けない奴じゃのう!」
「はいはい、そりゃすいませんねぇ………ふぁ~………」
「ふふっ、どうやらまだ完全には起きていない様だね。」
「一応、眠気覚ましはしてきたつもりなんだけどな………」
「九条さん、昨晩は遅くまで付き合わせてしまい申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、それはエリオさんとカレンさんも一緒………のはずですよね?どうしてそんなにシャキッとしてらっしゃるんですか?」
「うふふ、私達はお仕事の関係で睡眠時間が少ないので慣れているだけですよ。」
「な、なるほど………」
俺も数年前ぐらいは余裕で夜更かし出来てたんですけどね………まぁ、だからってその生活に戻りたいかと言われると返答に困っちまうが。
「九条様、もう間もなく朝食のご用意が出来ますのでお席にお座り頂けますか?」
「あ、はい……」
早朝にも関わらずテキパキと働いているメイド長さんにそう促されていつも座っている椅子に腰を下ろした俺は、しばらくして最後の朝食が並べられたのを見て思わずため息を零していた……
「九条さん、どうかしたの?」
「いや、こうやって朝に楽が出来るのも最後だって考えるとな……」
「あー確かにお家に帰ったら朝食の準備は当番制に戻っちゃいますからね。」
「そうなんだよなぁ……マホ、しばらく朝食を作り続けてくれたりは……」
「しません。」
「……ですよねぇ……レミ、しばらく俺と住む家を交換してみる気は……」
「ない!わしはエリオとカレンの家で世話になる!美味い飯の為にのう!」
「……欲望が出すぎだろうが。」
「はははっ、どうやら交渉も決裂したみたいなので朝食にすると致しましょうか。」
手を合わせたエリオさんが挨拶をしたのを合図に朝飯を食べ始めた俺達は、雑談を交えながら全ての料理を頂いて別荘での最後のごちそうさまを告げるのだった。
「ふぅ、それじゃあ出発する前に部屋に戻って忘れ物が無いか確認してこようか。」
「そうだな……大丈夫だとは思うが念の為に確かめておくか。」
「それじゃあ皆さん、準備が出来たらリビングに集合という事で!」
「うん、また後で。」
「お主達、ちゃんと見て来るんじゃぞ!」
「はいはい……」
荷物が1つも無い気楽な神様に見送られながらリビングを出たその直後、廊下の影からメイド長さんが姿を現して俺達の方に向かって歩いて来た。
「皆様、お客様がおいでになっていますので玄関まで来て頂けますでしょうか。」
「お客様?……って、俺達にですか?」
「はい。アリシア様とシアン様でございます。」
「おや、こんな朝早くからどうしたんだろうか。」
「何でも、皆様が出発をする前にご挨拶に
「……そう言えばあの2人は、ラウザさんの仕事関係でもうしばらくクアウォートに滞在する予定になってるんだったっけか。」
「皆さん!待たせるのも失礼ですし、早く行きましょう!」
「そうだね。」
「それでは、私はこれで失礼させて頂きます。」
綺麗にお辞儀をして廊下の奥に歩いて行ったメイド長さんを見送ってから玄関まで足早に向かって行くと、大きな布の包みを持ったアリシアさんとシアンが待っていたので俺は片手をあげながら2人に歩み寄った。
「よぉ、おはようさん。」
「あっ、おはようございます。申し訳ありません、出発前のお忙しい時間に。」
「いえ、まだ少しは時間はありますから気にしないで下さい!それよりもこちらこそすみません。わざわざご挨拶に来て頂いて……」
「そんな、私達がご挨拶に来たくてお邪魔しちゃっただけなので謝らないで下さい!そうですよね、お姉様。」
「えぇ、特に九条さんにはシュダールの件でお世話になってしまいましたから。」
「お世話って程の事でも無いと思うんだが……まぁ、来てくれて嬉しいよ。」
「あっ、そ、そうですか……うふふ………」
「……ん?」
あれ、何か笑える様な事を言ったかしら………もしかして……え、何コイツ?マジちょーし乗ってんじゃね?ウケる―!とでも思われて……いやいや、アリシアさんがそんな………ねぇ?……うーん、年頃の女の子の思考はよく分からんな。
「……はぁ、これだからおじさんは。」
「えっ、何でいきなり呆れられたんだ?」
「ふふっ、その理由に気付ける日が来る事を祈っているよ。」
「な、なんじゃそりゃ………ソフィは2人の言ってる意味が分かるか?」
「……さぁ?」
ソフィと揃って首を傾げていると……おほん!とアリシアさんが咳払いをする声が聞こえてきたので俺達が再び目線を2人の方に戻すと……
「そのですね!皆様にお渡ししたい物がありますので少々よろしいでしょうか!」
「うおっ!?え、どうして急に大声を?」
「そ、その……ロイドさんが眠そうだったので、意識をハッキリさせてあげようかと思っただけですわ!えぇ、ただそれだけの事です!」
「おやおや、それはどうもありがとう。」
「れ、礼には及びませんわ!それよりも九条さん、こちらをお受け取りになって頂けませんか?!」
「お、おう!ありがとう………な?」
グッと急接近して来たアリシアさんに包みを押し付けられる様に手渡された俺は、困惑しながら何気なくシアンと目を合わせてみた。
「そちらは帰りの道中で食べて頂こうと思って買ってきたお菓子です!お口に合うと思いますので、是非召し上がって下さい!」
「そうなんですか?!わざわざわありがとうございます!」
「い、いえ!……それでは私達は、そろそろお暇させて頂きますわ。」
「おや、もう行ってしまうのかい?」
「はい。お姉様がリリアさんとライルさんにもご挨拶をしたいと仰ってましたので、ご迷惑にならない内にお邪魔したいと考えているんです。」
「なるほど、そういう事ならば引き留める訳にはいかないね。2人共、このお菓子はありがたく頂くとするよ。」
「えぇ、それでは失礼させて頂きますわ!」
「それでは皆さん、またお会いしましょうね!」
「はい!それではまた今度です!」
「そんじゃあな。」
「ばいばい。」
何とも慌ただしい感じで立ち去った2人を見送った後にリビングに戻った俺達は、お菓子の入った包みをカレンさんに預けて部屋に向かうと忘れ物をしてないか最後の確認をして出発の準備を終えた。
それから数十分後、メイド長さん達に別れを告げて別荘を後にした俺達は運搬用の馬車に荷物を預けて皆が合流するのを待ってから馬車に乗り名残惜しい気持ちを感じながらもクアウォートを後にするのだった。
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