第219話

「そう言えば、九条さん達はクアウォートではどの様に過ごすご予定なんですか?」


 街道を走る馬車に揺られながら窓の外をボーっと眺めていると、さっきまで家族で楽しそうに話していたカレンさんがこっちを向いてそんな話題を振ってきた。


「予定ですか?うーん……知り合いから頼まれた事をやるってのはきまってるんですけど、それ以外の予定は特に決めてませんね。」


「あら、そうなんですか?」


「はい。そもそもクアウォートに関して知っている事と言えば、珍しい物を扱ってる店が多いって事と海が凄く近いって事ぐらいですから。」


「おや、もう少し詳しくお調べになったりしなかったんですか?」


「えぇ、とりあえず現地に着いてからのお楽しみって感じにしてたので。」


「なるほど、そう言う事でしたか……それならば私達から余計な情報を与える訳にはいきませんね。」


「あはは……お気遣い感謝します。」


「いえいえ。」


「……あの、私からも聞きたい事があるんですが良いですか?」


「勿論、どうかしましたか?」


「エリオさんとカレンさんはどういう風に過ごす予定なんですか?もしロイドさんと一緒にって事だったら、お邪魔する訳にはいきませんし……」


 マホが人差し指で頬を触りながら小首を傾げてそう尋ねると、エリオさんは何かを思い出したかのように小さく頷いて俺達に向き直った。


「そう言えば、ロイド以外の皆さんにはまだ説明してませんでしたね。」


「……説明……ってどういう事ですか?」


「実は今回の旅行はバカンスと言う意味合いだけではなく、仕事の意味合いもあるんですよ。」


「えっ、クアウォートで仕事があるんですか?!」


「はっはっは、流石に2週間ずっと遊び回る訳にもいきませんからね。」


「そ、そんな……じゃあカレンさんも?」


「はい。エリオさんのお手伝いをするつもりです。」


「クアウォートを治めている者達と懇親を深め、意見交換等をする予定になっているのですよ。」


「あ、え?ちょ、ちょっと待って下さい!もしかしてディオスさんやファーレスさんも一緒に?」


「えぇ、彼らも私と同じで仕事があります。」


「マ、マジですか……何か物凄く申し訳ない気持ちになってきたんですけど……」


「はっはっは、あまり気になさらないで下さい。」


「そ、そういう訳にも……なぁ?」


「はい……皆さんがお仕事をしているのに、私達だけ楽しむ訳には……」


「大丈夫ですよマホさん。お仕事と言ってもそこまで忙しくはありませんし、それに少しだったら皆さんと一緒に遊ぶだけの時間は作れますから。」


「うーん……でもですね……」


「まぁまぁ、九条さんには九条さんの役割があるんだからさ。」


「……は、俺の役割」


「そう、私達の面倒を見るって役割。」


「…………はぇ?」


「いやぁ、本当に貴方が来てくれて助かりました九条さん。」


「そうですね。警護の方達が一緒だとロイドちゃん達ものびのび過ごせないでしょうから、本当に九条さんが来てくれて助かりました。本当にありがとうございます。」


「あ、いえ、こちらこそ……………え?」


「……おじさん、私にはどうする事も出来ないので後は頑張ってください。」


「ふふっ、そう言う事だから頼んだよ。」


「……応援してる。」


 何が起きたのかも分からないまま絶対に失敗できない頼み事をもう1つ引き受ける事になってしまった俺は、昼飯を食べる所に到着するまで胃がキリキリするのを感じながらただただ現実逃避を繰り返すのだった………

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