第191話

 色々と精神的に疲れたりしながらとりあえずそれぞれが目当ての本を買って街中に戻った後、またまたイリスの提案を聞いて何故か俺の服を買いに行ったり晩飯の食材を見繕ったりしていると曇っているせいなのかあっと言う間に陽が暮れてしまった。


 俺達は買った荷物を抱えて家に帰ると早速晩飯の準備を始めた……とは言っても、基本的に作ってくれてるのはイリスなんだけどな!俺達は役割はその手伝いをしつつ怪しい物が飯にぶち込まれてないか監視する事だ。


 ……それから何やかんやありながらも美味そうな料理が並ぶ食卓を囲う様に椅子に座った後、手を合わせて頂きますと挨拶をした俺達は晩飯を食べ始めた。


「うーん!やっぱりイリスさんが作ってくれたお料理は美味しいですね!」


「うふふ、ありがとうございます。」


「……これでもう少しまともに料理を作ってくれたら良いんだけどな。」


「おや、九条さんはどうやらお疲れの様だね。」


「そりゃイリスが意味も無く何度も引っ付いてきたせいでな……」


「すみません、ずっと歩き回っていたせいで疲れてしまったみたいなんです。」


「……はいはい。」


 白々しく頬に手を当てて微笑むイリスを見て何かを諦めた俺は、目の前に並ぶ料理を食べながら斡旋所で言われた事を思い出して思わずため息を零していた……するとそんな俺を見ていたマホが、きょとんとした表情でこっちを見てきた。


「おじさん、どうかしたんですか?もしかして本当に疲れちゃったんですか?」


「いや、そうじゃないんだが……実は今日、斡旋所で面倒な頼まれ事をされてな。」


「へぇ、それってどんな内容なんですか?」


「まぁ簡単に言っちまえば、街の東側に広がってる森の奥にある遺跡型のダンジョンの調査だな。変な鳴き声が聞こえてくるから調べてきて欲しいんだと。」


「変な鳴き声って……もしかしてボスって事ですか?」


「それがそうだって断言出来るだけの材料が無いんだよ。」


「え、どうしてですか?ボスがいるかどうかは最近ダンジョンに行った事がある人に聞いてみれば良いだけなんじゃ……」


「確かにそうなんだが、数週間前にそのダンジョンが変動してから行ったという人は居ないらしいんだ。」


「そうなんですか……じゃあどうして鳴き声が?ダンジョンの入口付近にモンスターが潜んでいるって事ですか?」


「それが変な鳴き声がするって報告した人によると、ダンジョンの入口付近にはそれらしいモンスターは1匹も居なかったらしいぞ。」


「変な鳴き声はダンジョンの奥の方から聞こえたらしい。」


「うーん、それじゃあやっぱりボス?でもダンジョンに行った人が居ないんじゃそうとも言い切れませんし………んー?」


 腕を組んで小首を傾げてるマホを横目に見ながら料理を口に運んでいると、こっちを見て何やら怪しく微笑んでいるイリスと目が合った。


「……どうした、俺の顔に何か付いてるか?」


「うふふ、そうでは無いんですが興味深いお話をされてつい………それで九条さんはその依頼を引き受けるおつもりなんですか?」


「いや、それについては考え中だ。」


「私は引き受けたい。」


「はいはい分かってるっての……ただなぁ……ボスが出現してるってなら面倒だし、居ないならそれはそれでヤバそうなのが潜んでそうだし……ったく、どうして俺達のギルドを名指ししてわざわざ依頼するかねぇ。」


「ふふっ、それだけ私達の実力を認められていると言う事なんじゃないかい。」


「実力って……俺のレベルは17だし、ロイドとソフィだってまだ15と16だろ?それで認められてるって言われてもなぁ……」


「でもおじさん、この街でそのレベルは結構な高レベルですよね?」


「……まぁ、ほとんどの奴らはレベル10を超えると王都の方に行っちまうからな。そう考えると依頼されるってのも分からなくは無いんだが………ぶっちゃけあんまり危険な事はしたくねぇんだよなぁ。」


「それでは九条さんは、その依頼をお断りになるんですか?」


「……そうだって断言出来たら楽なんだけど、もし聞こえて来た変な鳴き声がボスのじゃ無くて変異種のモンスターだったらって考えるとそれはそれでなぁ。」


「え、変異種のモンスターって普通の個体の中に突然出現する危険なモンスターの事ですよね?それがダンジョンの内部に居る可能性があるんですか。」


「あくまで可能性の話だけどな……それを調査する為にもダンジョンに行って欲しいって事らしいんだが、マジでどうすっかなぁ………」


 調査するダンジョンの推奨レベルはそこまで高い訳じゃないからそこまで危険では無いと思うけど、ボスに関してはそう言い切れないし変異種のモンスターもこれまで戦った事が無いから何とも言えないし………あーあー誰か代わってくれねぇかなぁ。


「……九条さん、少しよろしいですか?」


「んぐっ……どうかしたのか?」


 誰に言う訳でも無く心の中でバカな事を考えながら料理を口に入れた瞬間、こっちを見て微笑んでいたイリスが小さく手を上げた……


「その依頼ですが、もしお引き受けになるなら僕も連れて行ってくれませんか?」


「………は?どうしたんだ急に?」


「うふふ、ちょっと気になる事がありまして。」


「気になる事?って、何なんだ?」


「それは……秘密です。」


「な、なんじゃそりゃ………」


「それでどうでしょうか。連れて行ってもらえませんか?」


「いや、急に言われても………」


「イリス、ダンジョンに行くにしても武器や防具は持っているのかい?それに戦闘に関する知識や技術はどうなんだ?」


「うふふ、それについては大丈夫ですよロイドさん。武器や防具は宿屋の方に置いてありますし、戦闘に関する事も学園での訓練や父さんに教わっていますから。」


「え、イリスさんのお父さんってイラストを描いているあの?」


「はい。実は僕の父さんはイラストを描く仕事をする前は冒険者として各地を転々としていたんです。」


「そ、そうだったんですか?!」


「えぇ、そしてその道中で母さんと出会い今に至るという訳ですね。」


「なるほど……それじゃあイリスさんのお母さんも冒険者の方だったんですか?」


「いえ、僕の母さんはずっと作家として活動しています。」


「おや、それじゃあどうやってイリスのご両親は出会ったんだい?作家と冒険者では接点が全く無さそうに見えるんだが。」


「うふふ、母さんと父さんの出会い方なら皆さん既に知っていますよ。」


 ………知ってる?そんな話をイリスから聞いた覚えなんて無いんだが……そもそも両親の話を聞いたのだって本屋で………って、まさか?!


 俺がある考えに辿り着くのと同時にマホも何かを閃いたらしく、興奮しながら食卓に両手を付いて身を乗り出しながらイリスの方を見た。


「も、もしかしてですけど!妄想乙女はおじさん騎士に命を懸けるの2人が出会ったシーンって!?」


「はい、あの場面は母さんと父さんが初めて出会った所が参考になっているんです。その時の心情などもほとんど同じだそうですよ。」


「うわぁ!何だかもう一度そのシーンを見たくなってきました!」


 ……自分たちの出会ったシーンを元にして書くって色々と凄すぎるだろ!?ってかその時にイリスの母親は運命だって感じて、最終的には親父さんを捕まえた訳だろ?そんな人の血がイリスの中にも流れているのか……しかもメチャクチャ濃い感じで。


「うふふ、どうかしましたか九条さん。僕の事をジッと見つめて。」


「い、いや……何でもない……それより以来の事だけど、引き受けるかどうかはまだ分からないが先にイリスの実力を確かめさせてもらっても良いか?」


「えぇ、是非とも確かめて下さい……色々と……」


 ……何とも言えない恐怖心を感じながら晩飯を済ませた俺は、宿屋に帰って行ったイリスを見送った後に色々と明日に備えての準備をしてから眠りにつくのだった。

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