第162話

 どう立ち回ればこの場を乗り切れるのか考えようとした直後、一瞬にして間合いを詰めて来たお姫様が一切の容赦なくブレードの切っ先を俺の顔面に突き刺そうとしてきやがった!


「うおっ!?」


 反射的に頭をズラし何とか初撃を避ける事に成功したが、次の瞬間にはブレードで首元を狙われている事に気付いたので俺は慌ててソレを下から弾き上げた!


 そうしたらお姫様の上半身が少し逸れてくれたので反撃に移ろうとしたんだが……俺が攻撃を仕掛けようとした時にはもうお姫様は後方に身を引いていて、それはもう余裕たっぷりな感じで微笑んでいやがった。


「ふふっ、流石は冒険者をやっていらっしゃる九条さんですね。危うく負けてしまう所でした。」


「……そう思ってるんだったらもう少しぐらい焦ったりする素振りを見せてほしいんですけどもねぇ……」


「ごめんなさい、姫として弱い所は簡単に見せられないんです。さてと、準備運動も終わりましたしコレからは本気で行かせてもらいますね。」


「っ!」


 小首を傾げたお姫様が武器を構え直してこっちを見てきたんだが、俺を見る視線があまりにも冷たすぎるんですけど!?マジで冷や汗が止まらねぇぞオイ……!


「九条さん……お願いですから、一瞬で終わらないで下さいね。」


 そんな声が耳に届いたかと思った次の瞬間にはお姫様の姿が視界から消えていて、全身に悪寒が走ったのと同時に身体が勝手に動いて防御の体勢を取っていた俺の目の前には身を低くしながらブレードを振り上げようとしてる姿があって!


「ぐうっ!?」


 咄嗟にブレードの刃をぶち当てて攻撃を防ぐ事が出来たが、そっから怒涛の斬撃が凄い勢いで襲い掛かってきた!一瞬たりとも気が抜けないそんな攻撃を必死になって防ぎ続けていたら、お姫様の表情がどんどんギラギラしてきてっ!?


「ほらほら!防御ばかりじゃなくて反撃しないと私には勝てませんよ!」


 いや、それはもう悪役の台詞だろが!?って、そんな事よりもマジでどうする?!太刀筋の正確さはロイドと同等、速度はソフィと同等のこのチート性能お姫様相手にどうやって反撃しろって言うんだよ!?


 経験値10倍のチート能力のおかげで攻撃パターンは少しずつ読めてきたんだが、力以外のステータスに差がありすぎて反撃の隙が見つからねぇ!だが……!


「ほらほら!はやく反撃してきて下さい!このままだと負けてしまいますよ!」


「それは、どうかなっと!」


「っ?!」


 不規則に入れ替えられちゃいるが繰り出される斬撃には幾つか法則がある事を発見した俺は3連撃中の2番目の攻撃に合わせて全体重を乗せたブレードを振り下ろし、お姫様の動きを一瞬だけだが止める事に成功した!


「うおおおおっ!!」


 ビリビリと痺れる様な痛みに襲われながらも気力を振り絞って一歩前に踏み込んだ俺は、苦悶の表情を浮かべながらこっちを睨み付けているお姫様の胸当てに目掛けて今度はブレードを斬り上げようとした!


 だがその瞬間、またしてもお姫様が視界から消えてしまい直後にドンッという強い衝撃と痛みが胸部に伝わって来た!


 何が起こったのか把握する前に大きく後ろに飛んで距離を取ってみると、お姫様が片足を上げている姿が目に映り込んで来た……!


「……酷いですね九条さん、おかげで右手が痺れてしまったじゃないですか。」


「……俺も、シャツに靴跡がついちゃったんですけども。」


「あら、それは申し訳ございません。ですが、服の変えはありますのでご安心を。」


「そうですか……でしたらえっと、着替えにいきたいのでそろそろ降参して頂けると助かるんですが……右手、痺れて使えなさそうですし。」


「ふふっ、ごめんなさい。その提案は聞いてあげられません。何故なら……私、左手でも武器を扱える様に訓練を受けていますから。」


「……マジ、ですか……」


 うわぁ、なんて得意げな顔で俺を見てるのかしらね!これだから優秀なお姫様って嫌なんだよ!そんなのは例のラノベの中だけにしといてくれよ!!


「さて、時間も惜しいですし勝負を決めると致しましょうか。」


「あぁいや!そ、その!た、隊長さん!時間は後どれぐらい残ってますか!?」


「5分程度だ。」


 つ、つまりそれだけの時間耐えきれば勝つ事は出来ないが負ける事は無い訳だな!それなら引き分けを目指してやるしかねぇな!負けるのだけは絶対に許されない!


「あらあら、どうやら引き分け狙いの様ですが……それは甘い考えですよっ!」


 お姫様はギラついた笑みを浮かべて一気に俺との距離を詰めて来ると、さっきよりも激しい攻撃を仕掛けてきた!?ってかどんだけ俺を打ち負かしたいんだよ?!


 クソッ、そう何でもかんでも思い通りにならねぇぞ!俺だってかなりの経験を得てきたんだ!!絶対に引き分けてやるからな!


 そう意気込んでお姫様との戦闘を再開したんだが、攻撃の仕方がこれまでと違って荒々しくなり過ぎじゃないですかね?!そのおかげで反撃する隙が何度か生まれてはいるんだが、ブレードを持つ手がヤバいぐらい痺れてきたんですけど!?


 まさかとは思うがさっき俺がやった事と同じ事をやるつもりか!?そりゃあ冗談がキツ過ぎるぞ!一瞬でも片腕が潰されちまったら俺に訪れるのは敗北の二文字だっ!こ、こうなったら先にお姫様の左手をどうにかするしかねぇ!!


「おおおおおおっ!!!」


「はあああああっ!!!」


 ほとんど意地の張り合いみたいな感じで互いの全力を出し尽くす様に攻防を何度も繰り返していたら、いきなりお姫様が再び距離を取る様に後ろへ下がって行った。


「ふぅ、残り時間も後少しですので……そろそろ終わりにすると致しましょう。」


「は、はは……言ってくれますね……すみませんが、俺としてはここまできて負けるつもりはありませんよ……残り時間も後少し、粘って引き分けに……」


「ふふっ、残念ですがそれはあり得ません……だって、私が勝利する為の条件はもう揃っていますから。」


 お姫様は振り払う様にブレードの切っ先を右下に向けると、獲物を狙うハンターの様な目付きで俺の顔面をジッと見つめてきた。


「……それは面白いですね。それじゃあ、やれるもんならやってみて下さい。」


「はい、それは遠慮なく……行かせて頂きますね。」


 ゴクリと喉を鳴らして静かに息を吸い込んでブレードの持ち手を握り直した直後、文字通り目にも止まらぬ速さでこっちへと突っ込んで来たお姫様が繰り出した斬撃に合わせて俺も持てる力の全てを注ぎ込んでブレードを振り下ろしていった!……が!


「う、うぇええっ!!?!?」


 ブレードがぶつかり合い鍔迫り合いが起こりそうになった次の瞬間、俺の持ってたブレードの刃がバキィッという音を鳴らしながら真っ二つにへし折れて剣先が後ろの方に吹き飛んでいて……呆然としてしまっていると……


「九条さん……この試合、私の勝ちですね。」


「……はい……参りました……」


 木製の刃を首元に当てられながら優雅に微笑みかけられた俺はガクッと肩を落としながらため息を吐き出すと、訓練所中に聞こえる様に敗北を宣言するのだった……


「勝者!ミアお嬢様!」


 隊長さんが手を挙げて大声で勝者の名前を告げた直後、訓練所に警備兵達の歓声が響き渡った……それを聞いたお姫様は俺の首元からブレードを離すと、スッと右手を差し出してきた。


「九条さん、訓練にお付き合いして頂きありがとうございました。」


「……どういたしまして……で、どうして俺と模擬戦闘をしようと思ったんですか?納得したら教えるって話でしたけど……負けたからダメですかね?」


「いえ、そんな事はありませんよ。今回の模擬戦闘はとても素晴らしい物でした。」


「それじゃあ理由を教えて貰っても?」


「……すみません、今は教える事が出来ません。」


「えっ?」


「時期と準備が整い次第お教えしますので、それまで待っていて下さい。それでは、私はまだ訓練が残っていますので失礼させて頂きますね。九条さんは汚れてしまった服を着替えて来て下さい。」


「あっ、ちょ……行っちまった……ったく、何だったんだ一体?」


 後頭部をガシガシと掻きながらお姫様が去って行く姿を見つめていたが、この場に居ても仕方ないと判断した俺は隊長さんと目を合わせて軽く頭を下げてからその場を離れて行くのだった。

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