第163話
午後7時を回った頃、全ての予定を無事に終えてお姫様を私室まで送り届けた俺とセバスさんは執務室に戻って来ると部屋の中にあったソファーの上に向かい合う形で腰を下ろしていた。
「セバスさん、本日はお疲れ様でした。」
「ほっほっほ、九条殿もお疲れ様でした。いかがでしたか、奉仕というものは。」
「ははっ、中々に忙し過ぎて部屋に戻ったら速攻で眠っちゃいそうです。」
「おや、それでしたらこちらに長々とお引止めをする訳には参りませんね。九条殿、明日の予定表をお渡し致しますので少々お待ち下さい。」
そう言って立ち上がったセバスさんは自分の仕事机に近付いて行くと、引き出しを開けてその中から一枚の紙を取り出してこっちに戻って来るとソレを手渡してきた。
「ありがとうございます。これも手帳に書き写しておいた方が良いですよね?」
「はい、明日からの予定は本日のものとは大きく変わっていますのできちんと手帳に書き写して頂いた方が良いかと存じます。」
「……大きく変わる?」
セバスさんの言葉に引っ掛かりを覚えて渡された予定表に視線を落としてみると、そこには俺が若い頃に嫌っていう程に見た覚えのある文字が幾つか書かれていて……
「本日までは休日でしたので城内でお過ごしになられておいででしたが、明日からは学園に通う事になっております。課題に取り組んでおられたのもその為です。」
「あぁ、そうだったんですか……って、ちょっと待って下さい。まさかとは思いますけど俺も一緒に学園に付き添う事になっているんですか?」
「勿論でございます。九条殿はお嬢様に奉仕する義務がございますので。」
「いやいや、確かにそれはそうなんですけど……大丈夫なんですか?」
「ほっほっほ、不安に思う気持ちは分かりますが問題はありませんよ。それよりも、明日は本日以上に立ちい振る舞いや礼儀作法に注意を払って行動して下さい。私達の行動1つ1つがミアお嬢様の姿となって映し出される事になりますので。」
「わ、分かりました……」
礼儀のなってない従者を連れている奴はその程度の人間なんだって思われるって事なんだろうけども……あれ?それじゃあもしかして今日の予定に付き合わされたのは明日、学園に行く事が決まってたから?
……いや、それは流石に考えすぎだな。だって俺が怒られてる時のお姫様の表情は物凄く楽しそうだったからな!あれは確実にただの嫌がらせだ!うん!間違いない!
今日一日のお姫様の姿を思い出しながら静かに納得していると、セバスさんが壁に掛けられていた時計に視線を向けた。
「九条殿、他に何か聞きたい事が無ければそろそろ解散すると致しましょうか。」
「あっ、はい。明日も今日と同じ時間帯にこちらに伺えば?」
「はい、そうして下さいませ。」
「分かりました。それじゃあ俺はこれで、お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。また明日もよろしくお願い致します。」
セバスさんに深々と頭を下げて執務室の外に出た俺は、周囲に誰も居ない事を確認した後に両手を思いっきり上げて背伸びをしながら廊下を歩き始めた。
「ふぅ………やっと終わったぁ………」
あーマジで疲れた……まさか今日だけでこんなに体力を持ってかれるとは考えてもなかったなぁ……
「明日は学園に行くのか……やれやれ、まさかこんな展開が待ち受けているとは……一体どうなる事やらって感じだわ……」
学園でもやっぱり猫を被ってるのか……それとも親しい相手、つまり惚れた主人公みたいな奴の前では素の自分で接したりしてんのかしら?
だとしたら非常に楽しみ……ではあるんだが、ぶっちゃけ学園には行きたくないと思っている俺もいる訳で……
だってそんな若くてキラキラして希望にあふれた青春真っ盛りの連中が集まってる学園に行くなんて俺にとっては地獄でしか無いからな!何が悲しくてまたそんな所に行かなくちゃいけないんだよ!?
……なんて思ったりしたものの絶対に口には出せないし、学園でお姫様が主人公とラブコメするシーンも見たかったりする訳で……
「しゃあない、グダグダ考えてみた所でどうにかなるもんでもないしここはいっちょ覚悟を決めるとしますかねぇ。」
とりあえず今後もモチベーションを保つ為、明日はお姫様のラブコメシーンを必ず拝んでやるぜ!
……そんなバカな事を考えながら借りている部屋に戻って来た俺は、メイドさんが運んできてくれた夕飯を食べてシャワーを浴び汗を流して部屋着に着替えると、机に向かって座りながら予定表を手帳に書き写していった。
「うーん、こうしてみると明日は待機時間が多いみたいだな……まぁそりゃそうか。授業中に出張って代わりに回答するとかあり得ないし……って、そう言えば手紙ってもう届いたのかな?」
昨日の今日だからまだ届いてないとは思うけど……だとしたら、明日か明後日には届くんだろううか?
「……返信、来るのかしら?」
あいつ等の事だから手紙を読んだだけで終わりそうな予感もするけど、期待せずに待ってみるとしますかね。
ため息を零しながら予定表を書き写し終えた手帳をパタンと閉じた俺は、目の前にあった目覚まし時計のアラームに問題がない事を確認するとベッドに潜り込み明日に備えて就寝する事にするのだった。
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