第160話
「九条殿、先程の接見時にされていた噂話についてどう思われますか?」
「……うわさ、ばなし?」
セバスさんの執務室で昼食を取り終えて午後からの業務について簡単に確認作業をしていたその時、急にそんな事を言われた俺は咄嗟に忘れた振りをしてどうにかその話題から逃げられないかなーって思ったんだけど……
「覚えておりませんでしょうか?少女のすすり泣く様な声と森の奥に突如として出現したお屋敷の事、九条殿は気にはなりませんか?」
「……いやまぁ、気になると言えばそりゃそうなんですけど……あまりにも現実離れし過ぎていてどう考えたらいいものやらって感じでして……」
本音を一切隠さずに言うと、メチャクチャ怖いから話題にしたくありません!……って言えたら誰も苦労はしないんだよねぇ……セバスさん、俺の返答を聞いて何故か穏やかに微笑んでいらっしゃるし……
「ほっほっほ、それでしたらお嬢様をお迎えに行くまでにはまだ時間がありますので少しだけ頭を働かせてみませんか?」
「あ、頭を働かせる……ですか?」
「はい、報告に会った噂話に遭遇するにはどの様な条件が必要なのか……時間を潰すには丁度良い議題かと思います。」
「そ、そうですね……」
時間を潰す為とは言え、心霊現象としか思えないもんにどうすればどうすれば遭遇する事が出来るのかとかマジで考えたくないんですけど……なんて言えたらどれだけ良かったかパート2……あぁもう、覚悟を決めてこの話題に乗るしかねぇか……
「それではまず、少女の声をどうすれば聞く事が出来るのかについて考えを巡らせてみると致しましょうか。」
「わ、分かりました……えーっと、だとしたらまず考えるべきは……何処に行ったら聞こえたのかって所ですかね。」
「はい、その点につきましては商人さんが気になる事を言っておりましたね。覚えておりますでしょうか。」
「えぇ、確か街道……でしたっけ?近くに大きな森があるって言う……だけどそんな所は大陸中にいっぱいあると思いますけど……」
「九条殿の仰った通り、その条件に当てはまる街道は数多く存在しているでしょう。しかし、今回の噂話が他の街の領主ではなく国王陛下にされたという事を考慮すればその範囲は絞られるかもしれません。」
「……他の街の領主じゃなくて国王陛下に……あぁ、噂話の元になった場所が王都の近辺だからそういった報告があったって言いたいんですか?」
「ほっほっほ、ご理解が早くて助かります。それでは次に少女のすすり泣く様な声が聞こえて来た時間帯について考えてみましょうか。」
「時間帯……詳しい事は言ってなかったのて何時かまでは分かりませんが、真っ暗な街道って言ってましたから結構夜遅いんじゃないですかね。深夜とか……日が変わる直前ぐらいとか。」
「私も同じ考えでございます。次はお屋敷の方について考えてみると致しましょう。九条殿、黒い屋敷が出現する際の条件は一体何だと思いますか。」
「えっと、考えられるとしたら少女の泣き声じゃないですか?報告された噂話じゃあ声が聞こえた後に屋敷が見えたって事でしたから……それと森の奥に現れたってのも気になる点の1つですかね。」
「はい、そういった場所に現れる様になっているのか……それとも、その場所にしか出現しないのか……ほっほっほ、分からない事だらけでございますね。」
「いやいや、笑い事じゃないと思いますけど……実際、護衛の人が居なくなっている訳ですし……つーか、本当に何処に行っちゃったんでしょうかね。」
「ふむ、屋敷の養分となってしまったのか……はたまた捕らえられたまま、身動きが一切取れずにいるのか……そして消えてしまったのは本当に1人だけなのか……」
「養分って……恐ろしい事を随分サラッと言いますね……それに消えたのが1人だけなのかって……他にもまだそういった方が居るかもしれないって事ですか?」
「可能性は、否定出来ないかと。」
「…………」
「まぁ、これもまた素人の考えでしかないので真実は闇の中でございます。九条殿、もしその屋敷を見つけても中に入らない様にお願い致しますよ。」
「い、言われなくてもそんな事はしませんよ……」
セバスさんはそう言って満足そうに目を閉じて頷いた後、執務室の壁に掛けられている時計に目を向けて今の時間を確認した。
「おや、もうこんな時間ですか。少々話し込んでしまったみたいです。遅れてしまう前にミアお嬢様を迎えに行くと致しましょうか。」
「……です、ね。」
心の中にちょっとした不安を抱きながらセバスさんと一緒に執務室を後にした俺は考えたくない方向に動こうとしている思考を無理やり曲げると、午後の予定について改めて思い出して行くのだった。
苦手な事についてお喋りをしていたせいで奉仕義務期間が延長されましただなんてあまりにも情けなさ過ぎるからなぁ……それにアイツに弱みを握られるってのも……いや、心霊現象以上に恐ろし過ぎて身体が震えてくるわ……!
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