第159話

 それからしばらくした後、玉座の間の扉が重々しい音を鳴らしながら開かれていき俺をこの場所まで連れて来た隊長さんが数名の部下らしき人達と共に姿を現した。


「接見の者達を連れて参りました!その者達の入室許可を願います!」


「うむ、分かった。その者達をここまで案内してくれ。」


「ハッ!かしこまりました!」


 ビシッと敬礼をした隊長さんが玉座の間を出てから数十秒後、彼はその……物凄い特徴的な格好をした4人の男女を連れて戻って来た。


 彼らは慣れた感じで国王陛下の前に横一列に並んで行くと、スッと跪いてシッカリ頭を下げていった。


「お久しぶりでございます、国王陛下。接見の機会を設けて頂きました事、心よりの感謝を申し上げます。」


「いや、礼は不要だ。それよりも早速で悪いのだが、お主達が集めた民からの言葉を聞かせて貰えるだろうか。」


「かしこまりました。それではまず私から報告をさせて頂きます。」


 そう告げて顔を上げたのは斡旋所の制服を着た男性で彼から報告をされた内容は、王都周辺の街道を補修する為の費用と人材の手配をして欲しいという事と近辺にあるダンジョンの内部変動が起こる頃合いなのでクエストを出して欲しいとの事だった。


「分かった、後程ではあるが必要となる書類と人材の手配をしておこう。斡旋所への報告を頼めるだろうか。」


「了解致しました。ありがとうございます、国王陛下。」


 感謝の言葉を述べて男性が深々と頭を下げた後、今度はその隣に居たいかにも職人って感じの格好をした男性が顔を上げた。


「それでは国王陛下、次は俺の方から報告をさせて貰います。」


 仕事着のまま来たのであろう筋肉隆々のおっさんが国王陛下に伝えたのは、仕事で使う鉱石が不足して来ている事と警備隊用の新しい装備を開発する為の資金と素材の援助の申し出だった。


「うむ、鉱石に関しては採掘現場の取り締まりに報告をあげておこう。それと装備に関する話だがそちらは余裕が生まれ次第ではあるが考えておこう。」


「はい、よろしくお願いします。」


 厳ついおっさんの報告が終わると、その次は白衣姿の綺麗なお姉さんが顔を上げて国王陛下と顔を合わせた。


「それでは次に私から、報告をさせて頂きたいと思います。」


 そう言って白衣のお姉さんがしてくれた話を要約すると、冒険者になったばかりの人達が怪我をして病院を訪れる機会が増えた影響で薬草等の備蓄が少なくなってるという事、それと最近見つかった新種の薬草を手配して欲しいとの事だった。


「分かった、急いで各病院と診療所に薬草の手配をしよう。そして新種の薬草だが、そちらについてはクエストで発注する様にしていこう。」


「よろしくお願い致します。」


「……さて、それでは最後に私が報告を始めさせて頂きたく存じます。」


「うむ。」


 小太りの人の良さそうな商人風のおっさんがした報告は、大陸の外から入って来る物を使って詐欺紛いの事をする者が増えたので取り締まりを強化して欲しいみたいな事で……


 それについて対応を検討しておこうと言った国王陛下の言葉を耳にしながら、俺はようやく午前中の予定が終わるんだなとホッと胸を撫で下ろしていた……


「……国王陛下、最後に1つだけ我々商人の間で流れ始めている噂話についてお伝えさせて頂いてもよろしいでしょうか。」


「噂話?何かあったのか。」


「いえ、まだ具体的な問題が起こった訳では無いのですけども……それでも構わないでしょうか?」


「うむ、構わぬ。話をしてみよ。」


「かしこまりました……これは、私の知り合いの商人から聞いた話なのですが……」


 接見の終わり間際、商人のおっさんが声のトーンを落として何やら語り始めようとしているんだが……あれ、何だか空気がおかしくありませんか?コレって俺がとても嫌いなタイプな流れが起こっている気がするんですけども……


「アレは季節が変わり始めて暖かい日が続く様になってきた頃……知り合いの商人は急ぎの品を届ける為に雇った護衛と共に真っ暗な街道を走っていました……」


「……おや、どうかなさいましたか九条殿。」


「へ、へっ?な、何がですか?」


「いえ、お身体が震えている様でしたので。」


「そ、そんな事は無いですよ?べ、別に震えてなんか……」


「そうでございますか?それならばよろしいですが。」


「は、はは……」


 そ、そんな震えてるなんてある訳ないって!か、仮に震えてたとしてもきっとこの部屋が寒いからだな!……だって、物凄い背筋がゾクゾクしてるんだもの!さ、さぁあの商人の話を聞く事に集中しようじゃないか!


「王都を出発してからしばらくすると、商人と護衛達の耳元に少女のすすり泣く様な声が聞こえて来たのでございます……」


「少女のすすり泣く声?」


「はい……こんな時間に一体どうして?……そう思った商人は路肩に馬車を止めると雇った護衛と共に周囲を見渡してみました……しかし、何処に目を向けてみても声の持ち主を見つける事が出来ませんでした……」


「ふむ、という事はそれは風の音だったのではないか?」


「えぇ、その商人も国王陛下と同じ考えに至って不気味に思いながらも馬車に戻って目的地に向かって街道を進もうとしました……ですがその時、何処からともなくその少女の声で寂しい…悲しい…という言葉が聞こえて来たのです……」


「……なんと……」


「驚いた商人は再び護衛と共に周囲を見渡してみました……す、すると…すぐ近くに月明かり1つ届いていない森の中に……」


「……森の中に、何かあったのか?」


「はい……ゆらゆらと揺らめく様にして、古ぼけた漆黒の屋敷が商人達の視線の先に現れたのでございます……」


「そ、そんな物が!?」


 興奮した様子の王妃様の言葉にゆっくりと頷いた商人は、両手で自分の身体を抱きしめる様にしながら大きく息を吐き出した……


「一体どうしてそんなものが……不思議に思った商人は護衛の1人に頼みその屋敷を調べに行ってもらったのですが……その者はどれだけ待てど戻って来る事は無かったそうでございます……」


「……その話、本当なのか?」


「分かりません……しかし、知り合いの商人は恐怖のあまり外に出るのが恐ろしいと言って家から一歩も出られなくなってしまいました……」


「…………」


「そして知り合いの商人以外にも同じ様な屋敷を見掛けたという報告が、数件ですが入ってきておりまして……国王陛下の心に留めておいて頂ければと……」


「……報告、感謝する。後程、その者達が屋敷を見掛けた場所について情報を貰えるだろうか。」


「かしこまりました……国王陛下、もしも何かありましたらその時は対処の程を。」


「分かった、出来る限り何とかしよう。」


 その後、報告を終えた4人は玉座の間を訪れた時と同じく警備兵と一緒にその場を離れて行ったんだが……


「九条殿、顔が青白く先程よりも身体が震えているみたいですが大丈夫でしょうか?もし具合が悪いのでしたら医務室へご案内いたしますよ。」


「だ、大丈夫ですよ!全然平気です!あ、あれかな!ちょっと肌寒くなってきたから温まる為にちょっと体を揺らしていたんですよ!」


「あぁ、そういう事でしたか。しかしこの部屋は一定の温度に保たれていますので、そこまで肌寒くは無いと思うのですが。」


「そ、そうなんですか!じゃ、じゃあ俺の勘違いでしたかね!あっはっはっは!」


「ほっほっほ、勘違いでしたか。てっきり先程のお話が恐ろしくて震えている物だとばかり思っていました。」


「いやいやいや!あんな話で怯える様な子供じゃありませんから!あっ、そう言えばもうすぐお昼の時間ですね!俺、何だか腹が空いてきちゃいましたよ!」


「ほっほっほ、それではミアお嬢様を食堂へご案内した後に私達も執務室に移動して昼食と致しましょうか。」


「は、はい!いやぁ、楽しみだなぁ!」


 あぁもう!あのおっさんマジでふざけんじゃねぇよ!あんな話を聞かされたら夜に眠れなくなっちまうかもしれねぇだろうが!


 幽霊なんて居ない?心霊現象なんて嘘っぱちだ!?バカ野郎!ここは異世界なんだから何が起きても不思議じゃねぇんだよ!くぅ……!マジで最悪だぜ……!


 心の中で思いつく限りの文句をおっさんに言ってる間に接見の時間が終了したので俺達は午後の予定に移る前に、昼食の時間を取る為に行動していくのだった。

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