第156話
厨房に居た料理長さんから陶器製の純白のティーポットと凝った装飾のされているカップが乗ったトレーを受け取った俺は、廊下ですれ違う使用人さん達から何故だか暖かい声援を送られながら何とか自習室まで戻って来ていた。
「ハァ…ハァ……た、ただいま戻りました……!」
「セバス・チャン、時間は?」
「9分43秒となっております。」
「ふーん、やるじゃない。セバス・チャン。」
「かしこまりました。九条殿、トレーをお受け取りしてもよろしいですか。」
「は、はい……よ、よろしくお願いします……」
「ありがとうございます。すぐにハーブティーのご用意を致しますので、少々お待ち下さいませ。」
最後に残されていた力を振り絞って手渡したトレーを受け取って微笑みかけて来たセバスさんが一歩後ろに下がった直後、疲れのせいで全身の力が抜けてしまった俺はガクッと膝から崩れ落ちていた。
「ハァ……ハァ……マ、マジで疲れた……」
「ほっほっほ、お疲れ様でございます。九条殿、どうぞこちらを。」
「ど、どうも……って、これは……」
「九条殿が持って来て頂いたハーブティーでございます。きちんとした手順で淹れた物ではありませんので味は落ちてしまいますが喉を潤すには充分かと。」
「あ、ありがとうございます…………ぷはぁ……生き返りました………」
「それならば良かった。九条殿、もう動けますでしょうか?」
「えぇまぁ、一応は冒険者なんてそこそこ体力には自信がありますし……」
「あぁ、確かにそうでございましたね。では、こちらをどうぞ。」
「……えっと?この紙は……」
有無を言わさずに渡された文字がビッシリと書き込まれている大量の紙束を右手に持ちながらそう尋ねてみたら、セバスさんの後ろからお姫様がひょこっと顔を出して来て……?
「そこに書いてあるのは課題に必要になりそうな本のタイトルよ。アンタが厨房まで行ってる間にアタシが書いておいたの。」
「そ、そうなのか?なんでまたそんな事を…………ま、まさか………」
「ふふっ、察しの通りよ。アンタには今からそこに書いてある本を見つけてアタシの所まで持って来てもらうわ。あぁ、念の為に言っておくけどそれで全部じゃ無いからそのつもりでね。それはあくまでも第一段階だから。」
「………」
「ほら、何をボーっとしているのよ。指定されちゃった時間まで余裕が無いんだからサッサとそこに見えてる本棚の中から書いてある本を持って来なさい。」
「も、持って来なさいって……冗談だろ………」
パッと見た感じ本が100冊近くが収められてる棚が20以上……その中からこの紙に書いてある本を見つけて来いってのか?いや、いやいやいや……
「ふんっ、このアタシが冗談なんて言う訳ないでしょ。あっ、言っておくけどもしもアタシの課題が間に合わなかったら作業の遅かったアンタの責任になるからね。で、そうなった場合の説明しなくても分かると思うけど……」
「了解致しましたミアお嬢様!ただちに本を探し出してまいります!」
「……結構。ふふっ、期待していますから頑張って下さいね。」
「は、はい!かしこまりました!」
「九条殿、私もお手伝い致しますよ。」
「よ、よろしくお願いします!」
こうして俺とセバスさんはお姫様が求める本を探す為に本棚に向かったのだが……見つけ出した本はどれもこれも分厚くて難しい事ばかり書いてありそうで見てるだけでも頭が痛くなりそうな……ってこんな事を考えてる暇はねぇっての!
急いで紙に書かれた本を見つけ出さないと、俺の奉仕期間が延長される!そんなの絶対にゴメンだ!だってさっきので分かったけど何時までもコイツに仕えてたら俺の身体がマジでもたないだろうからな!!
「セバスさん!一枚目に書かれていた本の半分を見つけたんで、ミアお嬢様の所まで持っていきますね!」
「はい、よろしくお願い致します。私は残りの本を探しておきます。」
かなりの重量がある分厚い本を重ねて抱えた俺は、バランスを崩さない様に勉強机に向き合っているお姫様の元に運んで行った。
「ミアお嬢様、紙に書かれていた本の半分をお持ちしました!」
「ご苦労様。そこの上に置いといて頂戴。」
「分かりました……っと………」
お姫様の指示に従って机の横に置かれていたミニテーブルの上に本を置いた俺は、本を探しに行く為にそっと離れようとしたのだが……
「……なによ?」
「あっ、いや……ちゃんと課題に取り組んでるんだなーと思ってさ……」
「そんなの当然でしょ。ステラ先生が私の為に用意してくれた課題なんだから、手を抜くなんてそんな失礼な事が出来る訳ないでしょ。」
「そ、そうか……」
「納得したんならさっさと残りの本を探してきてよね。まだまだ他に必要な本がありそうなんだから。」
「わ、分かった。」
俺に対する態度とかはまぁ色々と文句が無い訳じゃないんだが、与えられた課題に真剣に向き合っているお姫様の迷惑にはなりたくないと思ってしまった俺はその後はセバスさんと協力しながら黙々を本を運んで行くのだった。
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