第149話

 今後の展望にちょっとした不安を抱きながらもセバスさんの城内案内は数時間近く続いて行き、気付いた時にはどっぷり日が暮れ始めて来ていた。


 それだけの時間を掛けて何とか城の内部についてある程度は把握出来たかもなんて考えていた頃、セバスさんがこちらが最後となりますと告げて案内をしてくれたのは王城1階にある大きな噴水の設置された綺麗な中庭だった。


 そこにはまさしく絵本でしか見ない様な光景が広がっていて、丹精込めて手入れがされているのであろう花壇や生垣、そして年代物だと感じられる一本の大樹とその下には純白のテーブルと年季の入った椅子が置かれていて……うん、凄いなマジで。


「さてと、城内の案内をこれで終わりとなります。九条殿、お疲れ様でした。」


「あっ、いえ、案内ありがとうございました。セバスさんのおかげで何とか迷子にはなったりしないと思います……多分。」


「ほっほっほ、お役に立てた様で何よりです。」


 俺は髭を撫でながら穏やかに微笑んでいるセバスさんを見ながら案内してもらった使用人専用の食堂や警備兵が使う訓練所、それから立ち入り禁止となっている宝物庫とかの事を思い出して……


 うん、こんだけ時間を掛けた割にはあんまり見て回れなかったってのが現実なんだけどそれを言うのは野暮ってもんだよな!後で自分で確認しておくとするか!だってちょっとした間違いを犯したせいで命を取られたくは無いからな……!


「……ふぅ……セバスさん、もしかして何ですけど最後にここを教えてくれたのって俺に気を遣ってくれたりだったりとか……します?」


「さぁ、それはどうでしょうか。ともかく、明日からは本格的な奉仕をして頂きますので九条様はどうか心構えの方をしっかりして下さいませ。」


「……はい、分かりました!」


「よろしい。それでは、そろそろ九条殿が使うお部屋に参りましょうか。」


「い、いよいよですか……本当に外で寝ろとかって訳じゃないですよね?」


「ほっほっほ、それは着いてからのお楽しみと言う事で……それでは、向かうと致しましょうか。」


「は、はい……」


 セバスさんに届くか届かないぐらいの小さな声で返事をした後、俺は階段を上がり何故か3階まで戻って来ていた。


「あの、セバスさん。この階って確か……」


「はい、この階は玉座の間の他に国王陛下達にとって重要なお客人様やお知り合いの方々が利用する為のお部屋。そして私の私室があるだけの階となっております。」


「ですよね……え、まさか……」


「ほっほっほ、そのまさかでございます。九条殿にはそのお客様用のお部屋をご利用して頂きます。」


「え、えぇっ!?ちょっ、冗談ですよね?だって俺は奉仕義務を課されたってだけのただの一般人で……まさか後でとんでもない請求が来るとかってオチじゃ……!」


「ご安心下さいませ。その様な事は致しません。それにこちらの客間を九条殿に利用する様に言われたのは、他でもない国王陛下自身ですのでどうかご遠慮なさらず。」


「こ、国王陛下が?」


「はい。奉仕義務を突然課せられた者に対して、なるべく不自由を感じさせない様にせよとのお達しです。また、この階には私以外の使用人は滅多に立ち入りませんので変に気を張う必要もございませんよ。」


「……………」


 あれあれ?もしかしてだけどさ……奉仕義務って最高の罰なんじゃないのかしら?だってこんなにも至れり尽くせりの状態で豪勢と言っても余りある客間がタダで使えたりすんだからさ!これは奉仕義務の期間を延長してもお釣りがくるのでは?!


「ただ1つ注意して頂きたいのですが、居心地が良いからと奉仕義務の期間をわざと延長する様な事が無い様にお願い致します。もしもその様な事が起きた場合、すぐにお部屋を移動してもらいます。」


「……い、どう?えっと、それはどういったお部屋に?」


「そうですね……一言で申すのならば、訓練所のすぐ近くにある鉄の格子で囲われた質素なお部屋でしょうか。」


「な、なるほど分かりました!奉仕義務をきっちり期間内で終わらせて見せます!」


「はい、お願い致しますね。」


 穏やかな微笑みの奥の歴戦の猛者が出す様な圧を感じた俺は、セバスさんに若干の恐怖心を抱きながら奉仕義務の期間を延長する事なく無事にやり遂げると心に誓うのだった!!

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