第145話

「失礼致します。国王陛下、手配された容姿と酷似している者達をトリアルから連行して参りました!」


「うむ、ご苦労だったな。それでは全員、こちらに来てくれるだろうか。」


「ハッ!……皆さん、私の後について来て下さい。。」


 国王陛下達の方に向かって行く隊長さんの後に続いて前の人達が歩き始めたので、俺はサッと下を向いてなるべく顔を見られない様にしながら室内に足を踏み入れた。


 あの時のちょっとしたやり取りの間に顔を覚えられたとは考えられないけど、念の為に警戒はしておかないとな……って、なんだ?さっきから変な視線が……えっ?


「……ふふっ。」


 お、おかしいなぁ……あのお姫様みたいなドレスを着ている美少女、こっちに目を向けながら見ながらニコッと微笑んでいる気が……!


 あ、あぁそうか!俺の隣に運命の居るから喜びのあまり笑ってちまったって訳か!いやはや、つい勘違いをしちまう所だったぜ!あ、あっはっはっは!


「皆さん、こちらに整列してお立ち下さい。」


 隊長さんの指示に従い玉座から少し離れた場所で俺達が立ち止まると、国王陛下が豪華な椅子からゆっくりと立ち上がって一歩前に出た。


「諸君、本日は遠い所から我が城までよく来てくれた。礼を述べさせてもらう。」


 うっわ、近くで聞くと凄いセクシーな声だわねぇ…それに見た目もかなりダンディだし渋いし大人の色気もあって……同じおっさんのはずなのに格が違いすぎじゃね?


 ……って、ここにマホが居たらご主人様があの人と同じおっさんとか冗談は止めて下さいよね!とか言われるんだろうなぁ……うんまぁ、ごもっとも過ぎて反論なんか出来やしねぇぜ!


「これから諸君らの顔を順番に拝見させてもらい、数ヶ月前にステージから逃亡した男性を探し出したいと考えている。」


 国王陛下がそう告げた瞬間、俺の心臓の鼓動がドンドン激しくなっていった!いやだってしょうがないよね!今まで逃避してた現実が間違いじゃなかったってアッサリ言われちまったんだからさ!


 で、でもきっと大丈夫!俺の正体がバレるその前にヒイロが運命を掴み取るはず!だってさっき、お姫様がヒイロを見ながら微笑んでいたから!……た、多分!


「しかし事が起こってからかなりの時間が流れてしまい、私達の記憶も曖昧になってきている。なのでmこの場に心当たりがある者が居るなら正直に名乗り出てほしい。決して悪い様にはしないと約束するのでな。」


 はい!逃亡したのは俺です!……と、ここで名乗り出れたらどんなに楽な事か……でも無理なんだよ!だって凄く怒られそうだからな!いい歳して怒られるとか絶対に嫌なんですけど!


 だから絶対に名乗り出ない!それに記憶が曖昧だって言うんならヒイロがお姫様と運命的な出会いを果たさなくたって逃げ切れる可能性が生まれるだろうからな!


「……分かった、心当たりがある者は居ないみたいだな。それならばこれから順番に確認をしていこう……ルーク。」


「ハッ!……それでは全員一歩前に出て、国王陛下達の前で跪いて下さい。その後、顔を上げる様に言われた人物は指示に従う様にお願いします。」


 隊長さんがそう言って眼鏡を押し上げた直後、前列の人達が一歩前に出て指示通りひざまずき始めた。


 ……さて、いよいよクライマックス突入だな!ここを乗り切れば、明日には暖かい我が家に帰れるはずだ!よし、気合を入れて学生時代の記憶を呼び覚ますぞ!そしてあの当時使っていた、気配を消すというスキルをもう一度我が身に宿すのだ!


 ……席替え……体育祭……家庭科実習……修学旅行……班決め……そしてお情けでよく分からないオタクグループにぶち込まれてそして……お、思い出してきたぁ!!


 過去のトラウマと共に気配の消し方を思い出した俺は、そのスキルを活用し順番が回って来るのをひたすら待ち続けた……しばらくして前列のイケメンがひざまずいたのを確認した俺は、これから起きるであろうイベントの妄想を膨らませていた!


「……次の者、顔を見せてくれるか。」


「は、はい……」


 国王陛下に声を掛けられたイケメンが顔を上げてくのを横目でチラ見しながら息を殺して俺より先に居るヒイロの様子を伺おうとしたら……急に周囲がザワザワと騒ぎ始めた様な気配がしてきた?何事かと思っていると……


「おや、どうしたのだ?」


「……申し訳ございません。お父様、役目を少々変わってもらえますでしょうか。」


 おぉ、足音をコツコツと鳴らしながら恐らくお姫様がこっちに近づいて来たぞっ!きっとこの後の展開は……そこのお方、顔を上げて頂けますでしょうか?とか言ってヒイロの顔を上げさせて、やっぱり貴方はあの時の!とかって感じだなんだろうな!


 へへっ!こんな画面や文字でしか見れなかった展開を目の当たりに出来るとか……異世界に来れてマジで良かったぁ!!


「そこのお方、お顔を上げて頂けますでしょうか。」


 はいはい予想通り来ましたよっと!それでは、思う存分テンプレートをどうぞ!!

……って、あれ?ヒイロが顔を上げる気配が無いぞ?おいおい、呼ばれてるんだからちゃんと反応してあげないとダメだぞって……あれ?


「もう一度お願い致します……そこのお方、お顔を上げて頂けますでしょうか。」


 ……う、嘘だよね?だ、だってお前……主人公だろ?お、お姫様と感動的な対面を果たす為にわざわざ王城に連れてこられたんだろ?そうだよな?そうだよね?ねぇ?


「はぁ、仕方ありませんね……」


 お姫様がそう呟いた直後……パチンと指が鳴る様な音が部屋の中に響き渡った……その瞬間、俺の首元には駆け寄って来た警備兵達が手にしたブレードが2本俺の首に触れていた訳でして……


「……………」


「うふふ、お久しぶりですね……逃亡者さん。」


 冷たい視線で俺を見下ろしながらニッコリと微笑むお姫様の姿が………なるほど、つまりフラグを建てていたのは俺の方だったという訳ですね!あっはっはっはっ!

………やっぱりこの異世界は俺に全然優しくねぇなこんちきしょうがぁああああ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る