第132話

 滅多にお目に掛かれないらしいレアなダンジョンを攻略してそれなりの報酬を手に入れる事に成功した次の日、朝から訪ねて来てくれたエルアを家に招き入れていた。


「皆さん、おはようございます!お体のお加減はいかがですか?」


「あぁ、特に問題はねぇよ。エルアの方はどうだ?痛い所とか、昨日の怪我とかもう大丈夫なのか?」


「はい!ちょっとした体の疲れや筋肉痛みたいなものは感じますが、動けない程ではありません。それと首にあったすぐに手当てをして下さったおかげで朝にはもう傷跡1つ残っていませんでした!」


「ふふっ、ソレは良かった。九条さんの安心しただろう。」


「おう、マジで心の底からホッとしたわ……」


「えへへ、エルアさんに何かあったらおじさんが責任を取ってあげないといけませんからね!」


「せ、責任!?いや、そんな……!」


「ったく、お前は朝っぱらから変な事を言ってんじゃねぇっての……つーか、そんな事を言ったらエルアに失礼だろうが。なぁ?」


「えっ!あっいえ、失礼だなんて事は決して……」


「はぁ~本当におじさんってば……そんなんだから色々と逃しちゃうんですよ。」


「ん?何を言ってんだ?って、こんな話をしている場合じゃないだろ。エルアも来た事だし、とっとと今日の予定について軽く決めちまおうぜ。」


 エルアが疲れていたから早々に解散する事にした昨夜の事を思い出してそう告げたその後、俺達は食卓のテーブルを囲う様に椅子に座っていくのだった。


「エルア、今日の主役も君だ。何処に行きたいとか、何を買いたいとか意見があれば教えて欲しいな。」


「え、えっとそうですね……でしたら僕、今日は皆さんと一緒にまずは本屋さんまで行ってみたいんですけど……良いでしょうか?」


「本屋に?それって俺とマホが案内して行ったあの店に全員で行きたいって事か?」


「はい、そうです。2人にお勧めして頂いた本が凄く面白かったので、ロイドさんやソフィさんからも本の事を教えて頂きたくて……それと出来ればお料理に関する本も幾つか欲しくて……」


「ふーん、料理の本か……もしかして料理作りが楽しくなってきたのか?」


「え、えぇ……自分が作った物を美味しそうに食べて貰えるのはその……とっても、嬉しいですから………」


「っ!」


 少しだけうつ向きながら耳を出す様に髪をかき上げて恥ずかしそうに微笑んでいるエルアの表情を目にした瞬間、あまりの可愛さに胸がトキメキまくって言葉を失ってしまった……俺だったんではあるんだけども……


「ぐ、ぐぅ……!な、なんて破壊力だ……!だ、抱きしめたい……今すぐに……いやダメだ!最後の最後でエルアにみっともない姿を見せる訳には……だ、だが……!」


「ロ、ロイドさん!?ってうわっ!マホさん?!」


「もう!エルアさんってば可愛すぎますよ!思わず抱きしめちゃいました!えへへ、本の事でしたら私達にお任せ下さいね!気に入ってくれる様な本を絶対に探し出してみせますから!」


「あ、あっ!マホ、自分だけズルいぞ!えいっ!」


「あ、あわ、あわわっ!ロ、ロイドさんまで!?あ、あのあの、えっと、これは一体どういう状況で?!」


「……まぁ、何だ……ちょっとした発作みたいなもんだから、少しだけそのまま我慢しててくれ……」


「え、えぇっ!?」


 そう言えばそんな設定あったなー……とか思いながらマホとロイドに抱きしめれら頭を撫でられまくっている頬の赤いエルアをしばらく見守った後、何とか解放されたそのタイミングを見計らって俺はわざと咳払いをして部屋の中の空気を入れ替えた。


「うおっほん!……とりあえず聞いておくけど、大丈夫かエルア?」


「は、はい……大丈夫です……」


「す、すまなかったエルア。つい、自分を押さえられなくなってしまって……本当に申し訳ない……」


「い、いえそんな!謝らないで下さいロイドさん!嫌では無かったですから……そ、それよりも皆さんはもう準備は出来ているんですか?」


「あぁ、エルアが家に来る少し前ぐらいには出来てたよ。だからそろそろ街の方まで出掛けるとするか。何時までも家の中に居たんじゃ時間が勿体ないからな。」


「そうですね!本屋さん以外にも色々と寄りたい所はありますし、案内してあげたい所もありますもん!時間を無駄にしない内に早く行きましょう!」


「ったく、誰のせいで出発が遅れたと思って……いや、言っても仕方ねぇか……」


「あ、あはは……それじゃあ皆さん、今日はよろしくお願いします。」


「えへへ、はい!あっ、本屋さん以外にも行きたい所を思いついたら何時でも言って下さいね!」


「えぇ、分かりました。実は昨日、宿屋に戻ってから色々と考えて来たんでその時が来たらお伝えさせてもらいますね。」


「はいよ。」


 そんなこんなで出発前から色々と慌ただしい思いをしながら家を後にした俺達は、まずはエルアにお勧めの本を買ってやる為に本屋まで向かって行くのだった。


 いやはや、ダンジョンを攻略してきたおかげで金銭的には余裕があるから買い物について心配する事は無さそうだが……エルアとニックさんの関係については……力になるかどうかは分からないが、少しだけ俺に出来る事を考えてみるとしますかねぇ。

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