第117話

「これが僕が使っている武器と盾になります。いかがでしょうか?」


 ここから宿屋まではそれなりにあるはずだが10分弱ぐらいで戻って来たエルアにショートとロングの中間ぐらいの刀身があるブレードと父親から入学祝に貰ったって言う盾を見せて貰ったんだが……


「うーん、武器の方はまだ何とかなるとして……その盾、さっき言ってた通りかなりデカいみたいだな。聞いておきたいんだが、それって普通に扱えたりするのか?」


「あーどうでしょうか……片手で持つ事ぐらいは問題無く出来ますけど、コレを手にしながら戦闘となると……」


「重量に振り回されてしまって厳しい……と言った所かな?」


「はい……」


「なるほど……ロイド、ソフィ、どうだ?コレの扱い、教えられそうか?」


「……すまない。今日、これからすぐにと言うのは少し難しいかもしれないな。」


「私も同じ、ごめんなさい」


「そうか……」


「あ、謝らないで下さい!無理を言っているのはこちらの方なんですから!ですが、だとしたらコレから先の事は……」


 強くなる為の修行を始める前にまさかの障害が立ち塞がった事にどうしたもんかと頭を悩ませていると、ロイドが座っていた椅子からスッと立ち上がった。


「九条さん、悪いけれど今日1日だけで良いから時間を貰えるかな。それとエルアはその盾を貸してくれるかい?」


「え、えぇ構いませんけど……」


「ロイド、一体どうするつもりだ?何か考えがあるのか?」


「うん、実家に戻ってカームを頼ってみようと思うんだ。彼だったらこの盾の扱いもイケるだろうからね。」


「あぁ、確かにカームさんだったら何とかなるかもな……でも、大丈夫なのか?急にそんな事をお願いしたりしても……」


「ふふっ、きちんと事情を説明すればきっと協力してくれるはずあぢょ。そう言う訳だからエルア、大口を叩いた割に情けない話ではあるんだけれど修行については明日からで問題無いかな。」


「あっ、はい!勿論です!と言うよりも、ご迷惑をお掛けしてしまって本当に申し訳ありません……」


「良いんだよ。私達がやると決めた事なんだからね。」


「ロイド、私もついて行って良い?」


「うん、むしろ同行をお願いしようと思っていた所だよ。1人より2人の方が効率も良いだろうからね。それでは九条さん、私達は実家に向かわせてもらうよ。」


「お、おう……何か悪いな、一応は俺が師匠的な立場だってのに……」


「えぇ、本当にそうですね。って言うか、ロイドさんの役目は本来はおじさんがやるべきなんじゃないですか?」


「うぐっ……!」


「まぁまぁ、九条さんには九条さんでやらなければいけない事があるだろう?」


「……やらなきゃいけない事?」


 武器と盾の扱い方を学んで来てくれる2人を差し置いて師匠って立場を早々に失いかけている俺にそんなもんあったっけか……?


「エルア、さっき話をしている時に思ったんだけれど君はこの街に来たばかりでまだ何処に何があるのか把握していないんじゃないのかな。」


「は、はい。確かに僕は昨日トリアルに着いたばかりでこの街の事については詳しくありませんけど……」


「それなら今日は九条さんとマホにこの街を案内してもらったらどうかな。しばらくトリアルで過ごす事になるんだから、食料品が買える場所が飲食店がある場所ぐらい覚えておいて損は無いと思うよ。ね?」


「お、おう!そうだな!」


「……これじゃあどっちが師匠なのか本当に分からなくなっちゃいますね。」


「シッ!余計な事は言わんでよろしい!」


「あ、あはは……お気遣いありがとうございます。それじゃあ九条さん、マホさん、案内のお願いをしても大丈夫ですか?」


「はい!お任せ下さい!」


「ふふっ、それでは後の事は頼んだよ。あぁそうだ、多分だけど夕食は実家で食べる事になると思うから私達の分は要らないよ。」


「はいよ。それじゃあ色々な意味で申し訳ないんだけどそっちもそっちで頼むな。」


「了解。では行こうか、ソフィ。」


「うん、行ってきます。」


「えぇ、いってらっしゃいです!」


 元から外出着だったロイドとソフィをリビングで見送った後、自室に戻って寝間着から着替えて来た俺は2人と合流すると……


「さてと、それじゃあエルア。まずは何処に行きたいとかって意見はあるか?」


「い、いえそんな!案内して頂く身で意見だなんて……」


「もう!遠慮なんてしなくて良いんですよエルアさん!ほら、私達としてもそういう意見がある方が案内しやすいですもんね!」


「あぁ、何もないよりは助かるな。」


「……でしたらその、本屋さんに行ってみたいんですが……」


「本屋?」


「はい。実はトリアルに来る事ばかりに考えがいってしまって必須課題に使うつもりだったら本を家に忘れて来てしまって……」


「あーなるほど……それはマズいな。」


「えぇ……学生として与えられた事はきちんとこなさいと進級にも響いてしまいますので……だから良いですか?」


「えぇ、課題が難しくて現実逃避をする方も何処かに居ますからねぇ~」


「フーン、ソンナヒトイルンダー……よしっ!そうと決まれば早速出掛けるとしますかね!」


「はい!よろしくお願いします!」


 その後、目的地が決まった俺達は我が家から出発するとエルアが行きたいと言ってくれた本屋に向かって歩いて行く事にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る