第116話

「なるほど、九条さんのご自宅は皆さんにとって活動拠点も同然なので日頃からこの場所に集まるのが習慣になっているんですか!」


「そ、その通りだ!理解してくれたみたいで何よりだよ!はっはっは!」


「……………」


 マホからジトッとした視線が向けられている気がするがそんな事は無視して何とか誤魔化せたという事実に対してホッと胸を撫で下ろした後、クスクスっと微笑んでたロイドと目が合った。


「さてと、エルアが無事に弟子となってソフィの協力も得られる事が決まったけれど九条さんはコレからどう動くつもりなんだい?手を貸すのは良いけれど、今後の方針だけでも聞かせてくれないかな。」


「あぁ、方針ね……うん、実はその件について初っ端から相談したいだが……」


「相談?一体何だい。」


「……そもそもとして、俺は師匠として何をすれば良いんだ?」


「……え?」


「いやだから、俺はエルアの師匠として何を教えたら良いんだ?まずは、それを俺に教えて欲しいんですけども……」


「えぇ!?おじさん、それって師匠を名乗る身としてはどうなんですか……」


「ど、どうなんですかって言われても仕方ないだろうが!こちとら人様に何かを教えられる様な人生を送ってないんだ。で、どうだ?何か良い案はあるか?」


「ふむ、だったらまずはエルアが九条さんに何を教わりたいのかを詳しく尋ねてみるべきじゃないかな。」


「な、なるほど!確かにそうだな!ってな訳だエルア。お前、俺に何を教わりたいと思ってるんだ?」


「教わりたいと思っている事ですか?それは……撲、強くなりたいんです。今よりももっと……だから、戦い方とかを教わりたいです!」


「……って事みたいですけど、いかがですか?」


「た、戦い方か……俺の場合ほとんど我流みたいなもんだから、それが参考になるかって話になるんだが……あっ、そう言えばエルアは自分の武器とかはあるのか?無いならまずは自分に合う武器探しから始めようと思うんだけど……」


「あっ、自分の武器なら一応あります。重量があって少し持ち歩くのが大変なので、今は宿泊している宿屋に置いて来ているんですが……」


「ふむ、その条件から考えるにエルアの持ち武器はロングソードかい?」


「いえ、僕が使用しているのは普通のブレードです。でも、使っているのはそれだけじゃなくて……実は盾も使っていまして……それが少し大きくて重たくて……」


「なるほど、だから宿屋に置いてきたのか。」


「はい、父から入学祝いにって貰ったんですが僕にはまだ扱いが難しくて……だから九条さんには武器と盾、両方の扱い方を教わりたいんです。」


「んー……そうか………ロイドとソフィは使えるのか?ブレードと盾の両方。」


「うん、一通りの武器に関しては扱い方を習っているからね。問題無いよ。」


「私も闘技場の試合で使う必要があるから扱える。」


「よしっ、それなら大丈夫か……ってかエルア、さっきしてくれた自己紹介の時から気になってたんだけどお前って王立学園の生徒なのか?」


「はい。王立学園の4年生です。」


「へぇ!それじゃあエルアさんは冬期休暇を利用してこちらに?」


「えぇ、その間だけトリアルに滞在しようと思っています。」


「は?その間だけって……まさか冬期休暇中はずっとこっちに居るつもりなのか?」


「はい!弟子入りをお断りされたらすぐにでも王都に帰るつもりでしたけど、折角の機会を頂いたのでこのままトリアルに滞在するつもりです!」


「ふふっ、随分と熱心なんだね。これは私達も気合を入れないとね。」


「いやいや、気合どうこうの話じゃなくてだな……エルア、良いのか?学生にとって冬休みってそれなりに大事なもんだろ?友達とかに遊びに行こうとかって誘われたりしなかったのか?」


「誘われはしました。ですが、僕にとって九条さんの弟子になって色々と教わる事の方が大切だったので断らせてもらいました。」


「マ、マジかよ……」


 ちょっと待って……俺が悪い訳じゃないのに変な罪悪感みたいなのが襲い掛かってきたんですけども……!エルアの友人達、俺のせいでごめんな……いや本当に……!


「冬期休暇期間は大体20日前後になるから、様々な要素を考えるとトリアルに滞在出来るのはおよそ14日ぐらいかな。」


「はい、宿屋の利用期間もそれぐらいにしています。実は必須課題というのがあってそちらもこなさないといけないので……」


「ふふっ、私も王立学園に通っていた生徒だったから分かっているよ。エルア、もし良ければ必須課題で困った所があれば私が教えてあげるよ。」


「えっ!い、良いんですか?」


「うん、勿論だよ。可愛い後輩の為、力を貸させてもらうよ。」


「あ、ありがとうございますロイドさん!その時は頼りにさせて下さい!」


「あぁ、待っているよ。」


「……おじさん、師匠としての立場が早速危うくなっていますね。」


「や、やかましいわ!……そんじゃあエルア、まずは宿屋に戻って使っている武器と盾を持って来てくれるか?俺達はお前が戻って来る間に何をするのか簡単に決めとくからさ。」


「は、はい!分かりました!それではちょっと失礼します!」


「えぇ、いってらっしゃいです!」


 小走りでエルアがリビングを去って行った後、俺達はそれぞれの役目について軽く話し合う事になった訳なんだが……師匠としては恐らく完璧レベルの2人が居るって言うのに俺の出番はあるのでしょうか……?

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