第114話

「……うーんっと……今、聞き間違いじゃなかったらさ……弟子になりたいって……そう言ったの……かな?」


「は、はい!そうです!どうかお願いします!僕を、弟子にして下さい!」


 腰を直角に曲げて頭を下げてくれている美少年……もしかして、俺はまだ夢の中に居るんだろうか?そもそもの話としてこの子は一体誰なのか……ついでに言うと俺の弟子になりたいとかそんなのあり得ないって言うか……


「おや、どうしたんだい九条さん。その子は?」


「ロイド、帰って来たのか。いや、実はその……」


「ロ、ロイドさん!?ど、どうも初めまして!」


「うん、初めまして。それで九条さん、コレはどういう状況なのかな?」


「いや、それがその……何という…か…………あっ、なるほど。」


「ん?」


 いやはや、俺ってば朝飯を食べたばっかりだってのにまだ寝ぼけてたのかもな……そうだよ、この子の格好をよく見たら分かる事じゃねぇか。危ない危ない、後少しで激痛な勘違いをしちまう所だったぜ……


「ロイド、悪いが後は頼んだぞ。その子、お前の客人だったみたいだからな。」


「えっ?」

「へっ?」


 ロイドと美少年を玄関前に残してその場を離れる事にした俺は、そのままリビングまで戻って行くのだった。


「あっ、お帰りなさいご主人様。何だか大きな声が聞こえてきましたけど、一体何があったんですか?」


「おう、実はロイドに弟子入りしたいって奴が現れてさ……」


「で、弟子入り!?そ、それってあの……えぇっ!?」


 読んでたラノベから目を離して驚きの声をあげながらガバッと立ち上がったマホに座る様に促した後、俺はさっきまで居た椅子に腰を下ろしながら数分前にあった事を説明していくのだった。


「ビックリだろ。いや、俺もマジで驚かされたわ。玄関を開けてみたらいきなり僕を弟子にして下さいって言われちまったからなぁ……」


「玄関を開けたらいきなり!それは驚きますよ…………んん?」


「ふぅ、とりあえず弟子入りがしたいって言ってた子はロイドに任せてきたから俺は部屋に戻らせてもらうな。何かあったら呼びに来てくれや。」


「いや、ちょ、ちょっと待って下さいご主人様!さっき言ってた事が本当だったら、その人が弟子入りをしたい相手って言うのは……」


「うん、その通りだよマホ。やれやれ、九条さんには本当に困ったものだね。」


 そう言ってため息を零し肩をすくめながらリビングに入って来たロイドは、何故か俺に対してジトっとした視線を送って来た……?


「おいおい、どうしてそんな目で俺を見て来るんだよ?ってか、あの子はどうした?外で待たせてるのか。」


「いや、さっきの彼ならそこで待っているよ。ほら、入っておいで。正真正銘、君が弟子入りしたいと思っている人がここに居るよ。」


「は、はい……失礼します……」


 おずおずと言った表現が似合う仕草を見せながらリビングに入って来た子は静かに顔を上げてくると、真っすぐ俺の事を見つめてきて……


「おじさん……もしかして……やっちゃいましたか?」


「いや、やっちゃいましたかって何だよ人聞きの悪い!俺はただ、その子が弟子入りしたいって相手をきちんと紹介してあげて」


「だから、その前提が間違っているんだよ九条さん。貴方は紹介する側では無くて、受け入れてあげるかどうか検討する側に居るんだから。もしかして分かっていながら勘違いしたフリをしているのかな?」


「うぐっ……!か、勘違いしたフリって別にそう言う訳じゃなくて……」


「く、九条透さんっ!」


「は、はい!……何で、しょうか……?」


 両手をグッと握り締めている美少年がメチャクチャ緊張しているのが伝わってきてさっきの考えが間違っていた事を嫌って言うぐらい理解してしまった俺は、これから何を言われるのか分かっていながら自然とそう口に出していた。


「も、もう一度お願いします!どうか……どうか僕を貴方の弟子にして下さいっ!」


「…………」


「わ、わぁ……うわぁ……!こ、これは……ビックリな展開ですね……!」


「ふふっ、そう言えば君。九条さんに自己紹介は済ませたのかい?弟子入りをお願いするんだったらまずは名前ぐらいは名乗っておかないと、ね?」


「あっ!そ、そうですよね!ありがとうございますロイドさん!えっと、僕の名前は『エルア・ディムルド』って言います!王立学園に通う学生で、年齢は16歳です!改めてになりますが九条透さん、僕を貴方の弟子にして下さい!お願いします!」


「……マ、マジかよ……」


 さっきと同じく腰を直角に曲げ勢いよく頭を下げてきた美少年の姿を目の当たりにした俺はもうどうやっても現実逃避が出来ない状況に追い込まれてしまった事を自覚すると、完全に思考がフリーズしてしまいただ固まる事しか出来ないのだった……


 そんな俺を置き去りにしたままクスクスと微笑みながらキッチンに向かって行ったロイドが朝の残り物をつまみ食いしたりしていたが……うん、今この状況においてはだからどうしたって感じですよねぇ……!!あぁもう、どうしてこんな事に……!!

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