第112話
思い出話に花を咲かせながら馬車に揺られて街道を数時間近く進んで来た俺達は、何度かモンスターの襲撃に遭いつつも無事に帰って着く事が出来たトリアルの広場に夕陽に照らされながら降り立つのだった。
「んー……!ふぅ……たった数日この街を離れただけだったってのに、随分と久々にこの景色を目の当たりにしている気がするな。」
「えへへ、そうですね。」
「九条さんは特に濃い時間を過ごして来たからそう感じるんだと思うよ。まぁ、私もその意見には同意しかないけどね。」
こっちを見ながらクスッと微笑んでいたロイドがそんな事を言った直後、すぐ近くからぐぅ~というコレまた古典的な表現方法が似合う音が聞こえてきて……
「……お腹空いた。」
「はぁ、開口一番に出て来る言葉がそれとは……」
「まぁまぁ、確かにソフィさんの言う通りお腹は空いてきたんじゃないですか?お昼ご飯を食べてからそれなりに時間が経っていますし。」
「うん、途中で足止めを受けたせいで予定されていた到着時間よりも少しだけ遅れてしまったから空腹感を覚えるのも無理は無いね。九条さんもそうじゃないかい?」
「いや、俺もそれについては否定するつもりはねぇけど……」
「ふふっ、それだったら今日はこのまま何処かに食べに行かないかい?ほら、今から家に戻ったとしても料理を作れるだけの食材は残っていないだろうからさ。」
「あぁ、そう言えば旅行をするにあたって食材は全部使い切っちゃったんでしたね。それにコレから市場に行って買い物をするって言うのも大変だと思いますし、ロイドさんの言う通り今日は何処かに食べに行きませんか?」
「……そうだな。長旅で疲れ切った身体にムチを打ってわざわざ晩飯を用意するのも面倒だし。」
こんな時、ライトノベル的な展開が起きると見知らぬメイドさんが家の中に居たりするんだけど……残念な事にこの異世界においてはそんな素敵イベントが発生しないのは分かり切っている訳でして………うん、だからってあのメイドだけは勘弁だが。
「おじさん?遠い目をしてどうしちゃったんですか?」
「ん?あぁ、ちょっと移動の疲れがな……まぁ、気にしないでも大丈夫だ。それより何を食いに行くのかさっさと決めるとしようぜ。時間的には多分余裕があるだろうが意識したら俺まで腹が減ってきちまったからさ。」
「はいはい!それじゃあ私、ハンバーグが食べたいです!ミューズの街で頂いたのが凄く美味しかったので、食べ比べをしてみたいんです!」
「ふーん、良いんじゃないか。2人は?何かあるか?」
「そうだね、私はオムレツを食べたい気分かな。それなりに好物なんだけどミューズでは口にする機会が無くてね。」
「へぇー初めて知ったな……了解、オムレツな。で、ソフィは……」
「お肉。焼いたのが食べたい。」
「な、なるほど……分かりやすくて結構……」
「おじさんは何かないんですか?どれを食べたいとか。」
「あー……俺は特にねぇな。あんまり食にこだわりがある訳じゃねぇし。」
「おや、そうだったのかい?その割にはコレまで作ってくれた料理は手が込んでいた気がするけれど。」
「それはほら、お前達におかしな物を食べさせる訳にはいかないだろ?それに食う事にはあんまり興味が無いけど、作る事自体はそれなりに楽しいからな。」
「ふむ、それでは今後の料理当番は九条さんに任せるという事で。」
「いや、それとコレとは別問題だっつうの。ってか、バカな事を言ってないで移動をするとしようぜ。マホ、とりあえず近場にある店に案内してくれるか?」
「あっ、はい!分かりました。」
その後、全員が食べたい物を出してくれるファミレスっぽい飲食店に運良く一発で巡り会う事が出来た俺達はそこで腹を満たすと日が完全に暮れてしまう前に我が家に帰って行くのだった。
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