第92話

「良いですかご主人様、何度も言ってますが武器の形をしたアクセサリーとかお土産としてはあり得ないんですからね!」


「わ、分かったってば!……でもさ、どの店に行っても商品として置いてあったもんなんだから需要としては悪くないと思ったんだけどなぁ……」


 宿屋に戻る直前に立ち寄った雑貨屋でそれなりに精巧な作りをした武器のアクセをどうかと提案してみたら部屋に戻って来るまでこんな調子で責められて……そんなにおかしいか?俺の選んだお土産ってのは?昔から結構買ってたんだけど俺……


「確かにアレを貰って喜ぶ人はそれなりに居ると思うよ。ただ考えるにその年齢層はかなり低めだと思うけどね。」


「子供向け。」


「うぐっ……!そ、そこまで言われるもんなのか……?」


「えぇ、言います!全くもう、名前付けのセンスに加えてお土産物のセンスも残念な感じだとは思いもしませんでしたよ。少しは私達が選んだ物を見て学習して下さい。そうすればちょっとぐらいはまともになると思いますし。」


 グサグサっと人の心を言葉のナイフで刺しまくりながらテーブルの上に置いてある紙袋の1つを開けたマホは、その中から手の平サイズのストラップみたいな物を2つ取り出すと見せつける様に俺の前にぶら下げてみせた。


「……えっと、コレは……」


「忘れちゃったんですか?これはテーマーパークのマスコットキャラクターでもあるカイちゃんとトウくんのストラップです!」


 シルクハットにマント、そして色違いの仮面を付けたネコっぽい風体でふさふさのストラップ2つを自慢げに掲げているマホの言葉を聞いて俺は立ち寄った店で聞いたこのキャラクターの説明を思い出すのだった。


「あぁ、華麗なる盗賊を略してカイトウだっけか……つーか、よくよく考えてみるとそんなもんをよくもまぁマスコットにしたもんだよな。」


「そんなもんって何ですか!カイちゃんとトウくんに失礼ですよ!ほらほら、もっとしっかり見て下さい!可愛いと思いませんか?」


「いや、確かに可愛いっちゃ可愛いけど……」


「でしょう!そしてこのサイズ感、お土産と言うのはこういう物の事を言うんです!分かりましたか?」


「……そのサイズ感だったら別に武器でも良いんじゃ……」


「…………」


「あーはいはい何でもゴザイマセン……で、マホはそれをとりあえずのお土産として選んだと……」


「はい!言ってしまえばこの街の象徴とも言える存在ですからね!だからこそ何処のお店にも人気商品って書かれた張り紙が一緒にあった訳ですし。」


「ふふっ、手触りも良くて毛の質感も素晴らしい逸品だからね。キャラクター自体を知らなくても万人受けはするんじゃないかな。武器のアクセサリーとは違ってね。」


「……一言余計だと言ってやりたい所だが、その前にロイドは何を買ったんだ?」


「私かい?ちょっと待っててね……うん、コレだよ。」


「それは……もしかして菓子か?」


「あぁ、日持ちもするらしいからついつい買ってしまったんだ。それにここに書いてある文字にも心惹かれてしまってね。」


 ロイドはそう言いながら両手に持っている四角い形の梱包用紙の表をこっちの方に見せて来たんだが、そこに書いてあったのは……


「苦しみを味わった後、貴方は幸せを知る事になるでしょう……えっ、こわっ。」


「まさに天にも昇る気持ちになる事が間違いなしの一品ですって!うわぁ……どんな味がするお菓子なんでしょうか!」


「ふふっ、私達が食べる分も買ってあるから後で試してみようか。」


「あっ、ありがとうございますロイドさん!是非!で、次はソフィさんですが……」


「……買ったのか?」


「うん、一応。」


 ソフィは置いてある紙袋の中でも一番小さいヤツを開いてそこに手を入れると……俺が否定されまくったのと似た様な物を取り出してみせた。


「ソ、ソフィさん!?そ、それはもしかして……」


「まさか、武器のアクセサリーか?」


「ちょっと違う。コレはペーパーナイフ。」


「ペーパーナイフ?って、封筒とかを開ける時に使うアレか?」


「そう。マホが買ったキャラクターが持っている武器と同じ形らしい。」


「えっ?……あ、本当です!確かに腰に差してある武器と同じです!」


「ふむ、そんな物が売っていたのか……私も父さんの為に1つ買っておけば良かったかもしれないな。」


「……あれ?同じ武器でもどうしてこんなに反応に違いが?」


「やれやれ、そんなの決まっているじゃないですか。ご主人様が選んだのは実用性も何もない正真正銘ただのアクセサリーだからですよ。理解出来ましたか?」


「……はい、わざわざ説明してもらってすみませんでした……」


 呆れた表情のマホにそう言われてただただ納得するしかなかった俺は、ほんの少しだけ自分のセンスのなさを自覚させられて静かにため息を零すのだった……


「さてと!ご主人様のお土産選びのセンスを鍛えるのはまた後でにして今からは明日から行くテーマパークでの過ごし方について話し合いを始めちゃいましょうか!」


「は?話し合いって……そんなの別に適当で良いんじゃ……」


「何を言ってるですかご主人様!適当で良いなんて言ってたらアトラクションを遊び尽くす事なんて出来ませんよ!そもそもテーマパークの盛況ぶり、覚えてますよね?何の計画も立てずに行ったら1日が無駄に終わっちゃう事は間違いなしです!」


「確かにソレは言えてるかもしれないね。予定通りに進ませるのは困難にはなるかもしれないけど、それでも無計画に動くよりは良いと私は思うよ。」


「事前準備は大事。」


「そう言う事です!なので、今から案内所で貰った地図を皆で眺めながら明日の事を話し合いましょう!何か言いたい事はありますか?」


「……無いよ。お前の提案に従います。」


「ありがとうございます!ではまず、出発時間からになりますけども朝食を何処かのお店で食べる事を前提として…………」


 その後、ノリノリで明日の行動予定を立てて行くマホとロイドと話を合わせながら夜を過ごしていく事になった俺は疲れのせいもあってか部屋に備え付けてある無駄に豪勢な風呂に入ってからすぐに寝室に向かい眠りについてしまうのだった。


 ……あっ、説明しておくとこの部屋には2つの寝室があって俺は皆とは違う部屋で寝ているのであしからず……って、誰に言い訳してるんだか……なぁ……

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