第78話
予想外の展開を目の当たりにしてどうしたもんかと反応に困っていると、シアンが小走りでこっちに走り寄って来ていきなり俺の腰に手を回して抱き着いてきた!?
「シ、シアンさん!?何をしているんですかいきなり!」
「えへへー!見て分かりませんか?九条さんに抱き着いているんですよ!」
俺の腹部に頭をグリグリと押し付けながらシアンがそう言ってのけた直後、マホが彼女の肩を掴んで後ろに引っ張り始めた。
「抱き着いているんですよーじゃないですよ!シアンさん!早くおじさんから離れてくーだーさーいー!」
「いーやーでーすー!」
「お、おいマホ!一緒に、なって、俺も、揺さぶられて、るからぁ!」
「ふふっ、随分とモテモテだね九条さん。羨ましい限りだよ。」
「羨ましいなら変わったろうか!?うおっとっと!」
「非常に魅力的な提案だけどここは遠慮しておくとしようかな。その熱い抱擁は九条さんだけの特権だからね。」
「ぐふっ!ちょ、調子の良い事ばっかり言いやがって……あいたたたっ!」
マホに抵抗しているシアンが腰に巻き付けている両腕の力を更に強めた結果、俺は腹部を圧迫される様なちょっとした痛みを感じるまでになっていた!
「ほらシアンさん!おじさんが痛がっていますから離れて下さいよ!」
「それはマホちゃんが私を引っ張るからいけないんですよ!?九条さんを助けたいと思うんだったらマホちゃんが私から離れて下さい!」
「どうして私が離れるんですか!?私はおじさんの仲間なんですよ!」
「それを言うなら九条さんは私とお姉様にとって命の恩人です!」
「「むぅー!」」
「いや、頬を膨らませてないでお願いだからどっちも離れてくれませんかね!?」
そう叫んではみたものの俺の言葉が一切届いていないらしい2人は唸り声を上げて睨み合ったままその場から動こうとしなかった!
ロイドとエリオさんとカレンさんは微笑ましい物を見る目でこっちを見つめていてソフィは何時もの如く無表情のまま、どう考えても助けてくれなさそうだと判断して身動き取れずに困っているとアリシアさんがこっちに歩み寄って来てくれて……
「シアン、何時までもそうやっていたら九条さんにご迷惑でしょう?今日は何をする為に来たのか忘れちゃったの?」
「忘れてませんよ!でも……九条さんを会えたら嬉しくなってついつい抱きしめたくなっちゃったんですもん……」
「うん、気持ちは分かるわ。だけど、ね?」
「……はい。」
お姉さんとしての顔を見せるアリシアさんにそう言われたシアンはしょんぼりした表情を浮かべると、俺の腰に巻き付けていた両腕をそっと離してくれた。
「九条さん、妹がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」
「えっ、あぁいや!突然の事で驚きはしたけど迷惑だなんて事は……なぁ?」
「あっ、はい!私としてはもう何の問題も!」
「そう言って頂けると助かります。」
丁寧にお辞儀をしてきてくれたアリシアさんのおかげで執務室の空気が落ち着きを取り戻したので、俺達は改めてエリオさんとカレンさんに挨拶をするのだった。
「今日はわざわざお時間を作って下さりありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそご足労して頂きありがとうございます。本来ならば私達の方からお伺いするべきだったのですが、後処理が色々とありまして。」
「事情は理解しています。ただその……えっと……」
「おや、どうかいたしましたか?」
「あぁはい、どうかしたと言いますか……何と言いますか……」
チラッと視線を横に向けるとそこにはニコニコと微笑んでるシアンと気まずそうにしているアリシアさんの姿があって……まぁ、気持ちは分からんでもないわな……
「なるほど、彼女達がここに居る理由が知りたいんですね。」
「……えぇ、ぶっちゃけるとそんな感じです。」
「お姉様、聞かれてますと。答えてあげないと。」
「そ、そうですわね……すぅ……はぁ……」
「……えーっと……?」
深呼吸を繰り返しているアリシアさんを見つめながら小首を傾げていると、彼女は俺の方に向き直ってカッと両目を開いていった。
「く、九条様!」
「は、はい!」
「……先日は、その……無礼な事を言ってしまい……大変、失礼を致しました!」
「え、は、へ?」
腰を直角に折り曲げながら部屋中に響き渡るぐらいの大きな声で謝罪をされた俺は突然の状況に対して、驚きの声をあげながら上半身を後ろに仰け反らせていた。
「九条様の事をよく知りもしないで自分勝手な思い込みで失礼な事を言ってしまった事についてはお詫びもしようも無いと思います……ですが、本当に……本当に申し訳ございませんでした……!」
「……」
ゆっくりと頭を上げたアリシアさんが瞳に涙を浮かべながら謝って来てくれた事に更に驚き戸惑って、どう声を掛けるべきなのか悩んでいると……
「それと……私と……シアンを助けて頂いて……本当にありがとうございました。」
声を震わせながらそう告げてくれたアリシアさんと視線を交わす事になった俺は、届いてきた言葉によって心の中にじんわりとした暖かさを少しずつ感じるのだった。
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