第58話

 襲撃事件があった次の日、特に何も起きず無事に目覚める事が出来た俺は一足先に出掛ける準備を済ませいた皆とリビングで話をしていた。


「そう言えば、結局アレから変わった事は何も無かったみたいだな。」


「うん。さっき外にいる警備兵に昨夜から今朝に掛けての状況を尋ねてみたけれど、新たな不審者を見かけた等の話は出てこなかったよ。」


「襲撃、失敗したからすぐには新手は来ないと思う。」


「やっぱりそうだよなぁ……ったく、こうなってくると安心して暮らせる日が延々とやって来ないんじゃないかって不安になってくるわ……」


「ご主人様、心配する気持ちも分かりますが今は出掛ける準備を進めないとですよ。大丈夫ですか?忘れ物はしていませんか?」


「はぁ、マホは俺のお母さんかっての……何時襲われても平気な様に装備はシッカリ身に付けてるし、いざという時に連絡を取れるようにネックレスも付けてるよ。」


 服を軽く引っ張って首元を見せてやると、マホは満足そうにうんうんと何度も頭を上下に振ってみせた。


「ふふっ、私もきちんと指輪を付けているよ。」


「私も忘れてない。」


 ロイドは右手の人差し指に付けた金色の指輪、ソフィは左手首にはめている銀色のブレスレットを自身の顔の横に掲げて見せてきた。


 ソフィがギルドメンバーになってから数日後にお祝いとしてマホがプレゼントした訳なんだが、頭の中で会話が出来るなんて突拍子も無い説明をすんなりと受け入れたアイツには本当に驚かされたもんだよな……いやぁ、懐かしいわぁ……


「えへへ!皆さん私があげたアクセサリーを身につけてくれていて嬉しいです!いいですか?何かあったらすぐに連絡を取り合う様にして下さいね!特にご主人様!」


「はいはい、念押しされなくても分かってますよ……なぁ、ちょっと聞きたいんだがコレって距離的の制限とかって存在してないのか?例えば離れすぎていたら、会話が届かなくなるとかさ。」


「あっ!すみません言い忘れていました!ご主人様の言う通り、このアクセサリーの効果は一定の距離内でしか発揮しません。」


「ふむ、なるほどね。大体どれくらいの距離で届かなくなるんだい?」


「えっと、街の半径よりも少し長いくらいの感じですね。」


「そうか……ロイド、お前の実家ってどの辺りにあるんだ?」


「あー街の北側かな。そんなに奥まった方ではないけれどね。」


「ふーん。で、マホ達が今日リリアさんやライルさんと買い物する場所ってのはどの辺なんだ?」


「多分、広場の十字路から見て若干南側になると思います。ほら、以前ロイドさんと一緒に私の服をお買い物した場所です。」


「それじゃあギリギリ俺達の声が届かなくなる可能性が出て来るって事か。」


「そうだね。でも、きっと大丈夫さ。街中でいきなり襲って来る様な真似をするとは思えないし、何と言ってもソフィとリリアとライルが居るんだからね。」


「うん。任せて欲しい。皆の事は必ず護る。」


「……その台詞にはメチャクチャ安心させられるが、だからってあんま無茶したりはするんじゃないぞ。」


「分かった。」


 頼りがいがあるって言えるのは嬉しいが、大人として思う所が無い訳じゃないから少しだけ複雑な心境になりながら俺は力強く頷いたソフィと視線を交わすのだった。


「さてと、アクセサリーの効果範囲も分かった事だしそろそろ出掛けるとしようか。2人を約束の時間に遅れさせる訳にはいかないからね。」


「はい!ソフィさん、今日はいーっぱい可愛い服を買いましょうね!」


「……任せる。」


「ふふっ、そっちに関してはマホ達に頼るとしようか。」


「だな……あっ、そうだソフィ。悪いがコレはお前が預かっておいてくれるか?家に置いといて盗まれるのも避けたいからさ。」


「うん。」


 マホの本体とも言える大事なスマホが入ったポーチをソフィに手渡した後、室内の戸締りを確認した俺達は家の外に出て来るのだった。


「あっ、ご主人様!ロイドさんのご両親に渡すお土産はどうしましょうか?」


「ヤベっ、そう言えば何にも準備してなかったな……うーん、どうするか……」


「九条さん、そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ。」


「いやいや、流石に手ぶらってのはマズいだろに。そんな訳だからロイド、手土産として喜ばれそうな物を何か教えてくれるか?」


「ふむ……実家に向かう途中に老舗のお菓子屋さんがあったと思うんだけど、そこの品物なら私の両親も好きだから喜んでくれるはずだよ。」


「……もって事は、要するにお前も好きな菓子屋さんって事か。」


「ふふっ、バレてしまったか。」


「ご主人様!ロイドさん!私達もそのお菓子を食べてみたいので余裕があれば買って来て下さい!」


「はいよ。流石に行きに買うのは無理だから、帰りに時間があれば買って来るよ。」


「えぇ、お願いしますね!」


 そんなやり取りをしてから足並み揃えて大通りまでやって来た俺達は、服を買いに向かうマホやソフィと別れてまだ訪れていない王都の北側に歩いて行くのだった。

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