第4章 約束の闘技場

第42話

 翌朝、今度開催されるイベントに応募する為に俺はロイドと一緒に閑散としている闘技場の前までやって来ていた。


「……やっぱりこの前来た時みたいに賑わってはいないみたいだな。」


「まぁ、特にイベントもやっていないからね。今ここに来ている人達は恐らく私達と同じでイベントに参加する意思のある人だけじゃないかな。」


「ふーん、って事はこの先の展開次第じゃ敵になる可能性があるって訳か。」


「うん、参加資格を得られればの話にはなるけどね。それでは行くとしようか。」


「おう、そうだな。」


 以前とは違い関係者用の出入り口ではなく真正面から闘技場の中に足を踏み入れていくと、広々とした空間と壁際に並べられた機械みたいな物が俺の視界に映り込んできた。


「九条さんはこっちから入るのは初めてだったよね?だから簡単に説明をするけど、あの壁に面して置かれている幾つもの機械は賭け事に使用する物なんだ。」


「賭け事?あぁ、そう言えば選手の勝敗で賭けをするって前に教えて貰ったな。」


「うん、アレがその為の機械。予想が当たったら反対側にある機械に購入をした券を入れると勝ち分が払い戻されるんだ。」


「なるほどね。まぁ、説明をされても俺は一生使わないと思うけどな。」


「ふふっ、確か九条さんは賭け事は弱いんだっけ?」


「あぁ、自分でも引くぐらいにな。だから俺は絶対に賭け事はやらない。」


「ふむ、それは残念だね。是非とも闘技場の運営に貢献してほしかったんだが。」


「別に賭け事じゃなくても貢献なら出来るだろうが。例えば、選手として試合を盛り上げるとかの方法でな。ほら、受付でお姉さんがこっちを見てるから行くぞ。」


 無駄に響き渡っている俺達の会話を聞かれていたのかニコニコと微笑んでる受付のお姉さんの方に向かって行くと、ペコリと丁寧にお辞儀をしてきてくれた。


「闘技場へお越し頂きありがとうございます。本日は数日後に開催されるイベントの参加応募に来て頂いたという事でよろしいでしょうか?」


「あ、はい。実はそうなんですけど……」


「かしこまりました。それではイベントに関するご説明を幾つかさせて頂きますのでそちらの座席にお座り下さい。」


「はい、分かりました。」


 お姉さんに言われるがまま目の前にあるカウンター椅子に腰を下ろした後、俺達の目の前に一枚の紙がスッと差し出された。


「既にロイド様からご説明を受けているかもしれませんが、まずはレベルに関してのご説明をさせて頂きます。当闘技場ではどれだけレベルが高かったとしても、最大で10にまでレベルが下げられます。その点はよろしいでしょうか?」


「えぇ、大丈夫です。今の俺のレベルが12でロイドは……」


「レベル8だね。」


「それではそちらの方はレベルが2下がった状態で試合をする事になりますが、問題ありませんでしょうか?」


「えぇ、覚悟の上です。」


 流石にレベルが5下がるとかだと動きに不調みたいなものを感じるのかもしれないけど、たった2だからな。それぐらいなら何とかなるだろう……多分。


「かしこまりました。それでは試合で使用して頂く武器に関するご説明なのですが、こちらについてもご存じでしょうか?」


「はい。痛みは本当に斬られたのと同等だけど、傷は無いとかそんな感じですよね?それって魔法とかも同じ感じなんですかね?」


「そうですね。試合会場は特別なフィールドで囲われていますので、武器と魔法では怪我をする事はないかと思います。ですが試合中に壊れたりした床の破片等では傷を負ってしまう可能性もありますのでその点に関してはご了承下さいませ。」


「分かりました……あの、防具ってどうしたら良いんですかね?それも闘技場側から支給されたりするんですか?」


「いえ、防具の有無は参加者様の自由となっております。」


「えっ、そうなんですか?」


「はい。闘技場で使用されている武器は防具を付けていても関係なくダメージを受けますので、こちらから指定する事はございません。」


「つまり、敵の攻撃に関しては防ぐか避けるしかないって事だね。」


「その通りです。ですから避けやすい様に動きやすい防具をお勧め致します。」


「……分かりました。参考にさせてもらいますね。」


 まぁ、メチャクチャ上等な防具を持っているヤツが居たらそいつが有利になるのは 当然の話だからなぁ……闘技場ではそんなのは求めてないって事なんだろ。


「それでは最後に応募方法と当選発表の事をお知らせしますね。まず応募する為にはギルドに参加している事が必須になっていますが……」


「ふふっ、心配しなくてもきちんと私達は共に同じギルドへ所属しているよ。」


「かしこまりました。それではお二人の冒険者カードにイベントへの応募情報を入力させて頂きますのでそちらをお預かりしてもよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします。」


 斡旋所や加工屋の時と同じで受付に置かれてる機械に俺達が渡した冒険者カードが差し込まれてしばらくした後、お姉さんはニコッと微笑みながらソレを返して来た。


「ありがとうございました。これでギルド・ナインティアの応募が完了致しました。当選発表はイベント開催日の3日前となりますのでよろしくお願い致します。」


「分かりました。あの、もし応募が外れたら冒険者カードに入れられた情報ってどうなるんですか?」


「応募情報はイベント当日に自動的に消去されますのでご安心下さい。」


「なるほど……あっ、もう1つ聞きたいんですけど今現在でイベントに応募している人ってどれくらいですか?」


「そうですね、今現在ですと大体30組程になりますかね。ただ、この後も応募者は増えると思いますので最終的には40組程にはなると思います。」


「……その内の何組がイベントに参加出来るんですか?」


「次回のイベントに関しては、参加出来るギルドは8組ですね。」


「8組!?それは何と言うか……凄い倍率ですねぇ……これは当選するのは、かなり難しいかもしれないなぁ!」


「九条さん、何だか声が嬉しそうな気がするけど?」


「えっ?そんな事はないさ!でも、これだけ応募者が多いと?やっぱり?外れちまう可能性がグッと高くなっちまうなと思ってな!」


 うんうん!そうなったら、ソフィには申し訳ないけどご縁が無かったという事で!正直ここまでなし崩し的にやってきたけど、俺は痛いもツラいのも勘弁だからなぁ。一応、応募をするって義理は果たしたから後は神のみぞ知るって所で


「それでは、他に質問したい事はございますか?」


「あ、いえ大丈夫です。」


「かしこまりました。それではまた何かありましたらよろしくお願い致します。」


 お姉さんに見送られながら闘技場を後にする事にした俺達は、これからどうするか話し合いでもしようかと思っていたんだが……


(うーん!このライトノベル凄く面白いですね!読んでいるだけで冒険をした気分になっちゃいましたよ!あっ、ご主人様!イベントへの応募は終わったんですか?)


(あぁ、ついさっきな……ってか、お前はずっとスマホの中でラノベを読み漁ってた訳か?)


(いやぁ、主人公の王女を想う心がとても素晴らしくって!先の展開がどんどん気になって手が止まりませんでした!)


(……そりゃ良かったな。)


 スマホの中に書籍情報をぶち込む事が出来るって教えられた時は感動したんだが、まさか俺じゃなくてマホが一番活用しているとはな……全く、良い御身分だ事。


「ふむ、マホがそこまで言うだなんて興味が湧いてきたな。九条さん、家に戻ったら私も借りて良いかい?」


「あぁ、それは別に構わないけど……それよりも今は、これからどうするかって話をするぞ。」


(え?クエストを受けたりって事じゃダメなんですか?)


(残念ながらダメだな。そもそも武器を預けてるからクエストには行けないし、俺のレベル的にも戦闘は避けたい。下がった時の反動がデカくなるから。)


(九条さん、そういう事なら私は知り合いの女の子を誘ってレベル上げをしてきても良いかな。どうせだったら上限までレベルを上げておきたいからさ。)


(了解、それじゃあ俺はしばらく家でのんびりしておくか。)


(あっ!でしたらご主人様、今からこの本の続きを買いに行きませんか?)


(あー……そう言えば最初の1巻しか買ってなかったか。分かった、今から本屋まで行ってみるとするか。ロイドも一緒に来るか?)


(うん、勿論。)


 その後、人通りがマジでない裏道でマホを外に出した俺は2人と本屋へ足を運んで続きの気になったライトノベルを何冊か購入する事になるのだった。

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