第31話

 異世界ではお馴染み?なイベント、決闘を申し込まれると言う経験をした次の日、マホが朝食作りの当番なのでベッドの中でまったり二度寝をしようと思ってたんだが俺の耳に扉がノックされる音が聞こえてきた。


 ……どうせだったらもう少しだけこの気持ち良さを体験していたいと考えてしまいノック音に返事をせずに布団を頭まで被った直後、扉がゆっくりと開けられて足音がベッドのすぐ近くまで来てしまったので俺は渋々起きる事にした。

 

「はぁ……おはよう……マ………ほっ?」


「ふふっ、おはよう九条さん。」


「…………うおおっ!?いってぇっ!」


 爽やかに微笑んでいる金髪の美少女が寝ぼけ眼に映り込んできてから数秒後、俺はあまりにも現実離れした光景に驚いてしまい反射的にベッドから転がり落ちていた!


「おや、大丈夫かい九条さん。ごめんね、もしかして驚かせてしまったかな?マホが朝食作りで手を離せないから私が代わりに起こしに来たんだけど。」


「……ありがとうな。すぐに支度するから、先にリビングに戻っといてくれ。」


「うん、了解。」


 楽しそうに笑いながらロイドが部屋を出て行ったその後、体を起こしてカーテンを開けた俺は今日やる事を思い出して深々とため息を零してからリビングに向かった。


「ご主人様、今日は勝つ自信はあるんですか?」


「……断言は出来ねぇけど、負けるつもりはないな。俺だって折角結成したギルドをたった数日で解散したくはないからな。」


「ふふっ、その言葉が聞けて安心したよ。九条さん、頼りにしてるからね。」


「あぁ、そっちこそ相手が知り合いだからって手加減したりするなよ。」


「当然、私も最初から負けるつもりなんて無いよ。」


「えへへ、頑張って下さいね2人共!」


「おう、それじゃあさっさと飯を食って待ち合わせ場所に行くとするか。」


「うん。」

「はい!」


 決意を新たにして我が家を後にして身支度を整えた俺達は、リリアさんから指定をされた正門前にやって来るのだった。


「ロイド様おはようございます!本日も凛々しいお姿でとても素敵ですわ!」


「ありがとう。そう言うリリアも素敵だよ。今日の格好はきちんと冒険出来る服装になっているみたいだね。」


「はい!一流の職人に仕立てさせた装備なんですのよ!……あぁ、九条様もおはようございます。」


「うん、取って付けた様な挨拶をしてくれてありがとうリリアさん……ってか、1つ聞きたいんだけど君の隣に立っている子は……?」


「あ、おはようございます。本日はどうぞよろしくお願い致します。」


 そう言いながら俺達に対して丁寧にお辞儀をしてきてくれたのは、ロイドと一緒に行ったダンジョンのボス部屋までわざわざ俺に謝りに来てくれた女の子だった。


「ご紹介致しますわね。彼女の名前は『ライル・スティリア』。今回私とパーティを組んで頂く事になっている方ですわ。面識はおありですわよね?」


「あ、あぁまぁ……名前は初めて知ったけど……」


 いやはや、コレはちょっとマズい事になったかもしれないな……彼女はボス部屋で何があったのかを知っているからロイドの噂についても真相を知ってる訳で、それをここでバラされたりしたら色々と面倒なんだが……


 なんて事を考えていたらライルさんが静かにこっちの方へ歩み寄って来て、リリアさんには聞こえないぐらいの声量でおずおずと話しかけてきた。


「あ、あの……街で流れているロイドさんの噂について、私は余計な事は言いませんから安心して下さい。」


「……え?」


 真剣な眼差しを向けてきながらソレだけ告げてきた彼女はそそくさとリリアさんの所に戻っていったが……


(ふむ、事情は分からないが理解はしてくれているという事なのかな。)


(……どうだろうな。まぁ、何にしても今は感謝しておくとするか。)


 頭の中でロイドとそんな会話をしていると、リリアさんが不可思議そうな顔をしながらライルさんに話しかけている姿が視界に入って来た。


「ライルさん、お二人と何を話していたんですの?」


「い、いえ。何でもありません。以前お世話になったので、そのお礼をしていただけですから。」


「そう、なのですか?それならば私から言う事は何もありませんわね。さて九条様、早速ではありますが勝負を始めたいと思いますがお覚悟はよろしいでしょうか!」


「あぁ、まぁ覚悟は出来ちゃいるけどさ……リリアさん、疑問なんだが彼女は本当に戦えるのか?確かこの間までレベルが2とか3だったと記憶してるんだが……それと昨日一緒に居たお付きの人みたいなのはどうしたんだ?」


「おーっほっほっほ!今回は私と九条様の勝負ですので付き人はここには連れて来ていませんわ!そして彼女の事ならばどうぞご安心を!リリアさんはロイド様と冒険へ出掛けた後に己を鍛え直しレベルが6にまで上がりましたので!」


「そ、そうだったのか……じゃあついでに聞きたいんだけどさ、2人はどういう関係なんだ?」


「ライルさんの家と私の家は古くから付き合いがありますのよ。そして彼女もまた、ロイド様のファンクラブのメンバーなので自然と仲良くなっていたんですのよ!」


「へぇ……って、え?ファンクラブ?今、そう言ったのか?」


「えぇ、言いましたわよ!ロイド様はとても素敵な方なのです。ファンクラブが存在するのは当たり前。いえ、結成しなくては天罰が下ると言うものですわ!」


「……つまり、リリアさんが作ったのか?その、ロイドのファンクラブを……」


「その通りです!当然ですがライルさんも入っていますわよ。」


「えへへ……ロイド様は私達にとって憧れの方なんです。だからリリアさんからそのお話を聞いた時に迷わず入会させて頂きました。」


「……ロイドはこの件については承知してる……のか?」


「うーん、承知も何も気付いたら出来ていたからね。」


「つまり無許可って事か……良いのか、それで?」


「ふふっ、悪い気はしないよ。私の事を慕ってくていれる人が居るのは純粋に嬉しいからね。まぁ、その会合には顔を出した事はないんだけど。」


「えぇそうでしたわね……何度お誘いしてもお断りされてしまい……ですが!今回の勝負で私が勝ちさえすれば正式にロイド様をファンクラブの集いにお越し頂ける!!ですので絶対に、ぜぇったいに負ける訳にはいかないんですの!良いですわね!」


「は、はい!精一杯頑張ります!」


 これまた美少女と呼んでも差し支えないレベルの可愛さを誇っているライルさんは身の丈程ある大きな杖を両手でギュッと握り締めつつライルさんと視線を交わした。


 そんな2人の気迫を目の当たりにしてロイドと揃って肩をすくめていると、リリアさんがこっちに体を向けておほんとわざとらしく咳ばらいをした。


「それでは皆様、斡旋所に行きダンジョンに入る為の手続きを致しましょう。その後再びこちらに集合し、正式に決闘を始めたいと思います。マップを確認すればボスの部屋に辿り着けたのかすぐに分かりますので、不正はしません様に。」


「はいはい、念押しされるまでもないよ。」


「うん、それでは行くとしようか。」


「は、はい!」


 それからしばらくした後、手続きを無事に終わらせて集合場所に戻って来た俺達は気合の入った表情をしているリリアさんの方を見ていて……


「それでは私が合図をしたら勝負開始ですわよ!よーい……ドンですわ!」


 有無を言わさず勝手にスタートの合図を鳴らしたリリアさんは勢いよく街の外へと飛び出していき、ライルさんも驚きつつその後を追い掛けていくのだった。


「……さてと、それじゃあ出発しますかね。」


(ちょ、ちょっとご主人様!何をのんびりしてるんですか!私達も急がないと負けてしまいますよ!)


(いやいや、今から張り切り過ぎたって後半になってスタミナ切れを起こすだけだ。ダンジョンがある場所はここから結構離れてるし、内部に入ったってすぐにボス部屋まで辿り着けるとは限らない。それに厄介なモンスターも居るだろうからな。)


(もう!だからってゆっくりして良いって事にはならないと思いますよ!だってこの勝負に負けちゃったらロイドさんが!)


(ふふっ、心配してくれてありがとうマホ。だけど大丈夫だよ。絶対に勝ってみせるからね。)


(むぅ~!本当にお願いしますからね!)


(うん、任せておいて。)


 こうして始まったロイドとギルド解散を懸けての決闘、俺達は強い決意を胸に抱きながら街を出発していくのだった。

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