第3章 熱烈ファンと決闘を

第30話

「リリア?私の帰りを待っていたって……一体どうしたんだい?」


「どうしたもこうしたもございませんわっ!ロイド様!風の噂で耳にしたのですが、ギルドを結成したというのは本当なのですか?!」


「ギルド?うん、その噂は本当だよ。」


「そ、そんな!!?私が何度お誘いしても首を立てには振って下さらなかったのに、そのロイド様がギルドを結成だなんて……!何故その様な事になったのですか!?」


「ふふっ、決まっているだろう?ギルドを組みたいと思った相手と出会ったからさ。紹介するよ、私の所属するギルドのリーダーで九条透さんだ。」


「……ど、どうもぉ……ぐうぇ!?」


 まさに早業、気付いたらレベルの速度で一瞬にして距離を詰めてきた美少女は俺の胸倉を勢いよく掴み上げると狂気に満ちた表情で俺の事を睨み付けてきた!!


「どういう事ですの!貴方の様などこの馬の骨とも知らない様な男がどうしてロイド様とギルドを結成できますの!?どの様な汚い手段を使ったのは白状なさい!!!」


「つ、つかっ、使ってない!断じて、そんな手は、使って、ない、から!頼むから、この手を放してくれえぇえぇえぇ!!」


 視界が激しく揺れ動きまくるせいで酔いそうになってきたその時、ロイドが俺達の間にスッと入ってきて美少女の事をどうにか落ち着かせてくれた……


「ロイド様!どうしてその方を庇うんですか!やはり何か弱みを握られているのではありませんか?!」


「いや、別に弱みなんて握られていないよ。それと誤解を解く為に言っておくけど、ギルドの結成を頼んだのは九条さんからじゃなくて私の方からだからね。」


「っ!!?……そ、そんな……バカな……!!」


(おぉ……彼女、膝から崩れ落ちちゃいましたね……)


(あぁ……なんかもう、この子は色々と怖すぎるんだが……)


 あまりにも強烈な印象しか与えてこない美少女から離れる様に半歩後ろに下がった俺とは対照的に、ロイドはニコッと微笑みながら彼女の肩にポンっと手を置いた。


「分かってくれたかい?」


「………ぇ………」


「ん?」


「……いえ……私は……私はまだ信じませんわ!!」


「……あれ?」


 話の流れ的にこれにて一件落着するかと思いきや、彼女はロイドの手を跳ね除けてバッと立ち上がると俺に対してビシッと人差し指を向けてきた?


「そこの殿方!私は貴方にロイド様を懸けての決闘を申し込みますわ!!」


「……はい?えっ、いや、急にそんな事を言われても嫌なんですけど……」


「貴方に拒否権はございませんわ!ロイド様、よろしいですわね!私が勝ったら私とギルドを結成して下さいませ!」


「うん、構わないよ。」


「ロイド!?おまっ、何を勝手に……!ってか、決闘するだなんてダメに決まってるだろうが!」


「あら、もしかして逃げるおつもりなのですか?」


「いや、逃げるとかそういう問題じゃなくて私的な勝負をするのは犯罪になっちまうからやりたくないって言ってんだよ!」


「おや、九条さんは知らないのかい?確かに私的に戦う事は罪に問われるけど、決闘自体は決められたルールを護れば行っても許される事なんだよ。」


「……え?マジで?」


「うん、きちんとした手続きを踏めば闘技場で決闘をする事は可能なんだ。その為に武器を貸し出してくれるよ。」


「へぇ、そうだったのか……って、関心してる場合じゃなくて……」


「さぁ、ロイド様の許可は下りましたわ!お覚悟はよろしくて!?」


「いや、だから何度も言うけど嫌だっての……そもそも、女の子相手に暴力を振るうっていうのが俺の精神的によくないし……決闘する意味も良く分からんし……」


「貴方、私を女と思ってバカにしていますの?!」


「いやいや、バカにしてるなんて事はないんだけどさ……これだけ大勢の人達が居る前で一回りぐらい年齢差がありそうな少女から叩きつけられた決闘を俺が受けるってなると……世間の目が非常に怖いと言うか……」


「勝敗に関してはすぐに噂として広まるだろうからね。最悪、この街で暮らしていくのは厳しいかもしれないね。」


「だろ?……ってそうだ、まだ自己紹介してなかったな。どうも初めまして。九条透です。」


「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。私、この街を治めている貴族の娘で【リリア・ソルティア】と申します……って、貴方!どんなタイミングで自己紹介をしているのですか!空気を読んで下さいませ空気を!そして決闘をお受けなさい!」


(おぉ、案外この人ノリが良いですね!)


(……もしかしたら、結構良い子なのかもしれないな。)


 言動こそぶっ飛んじゃいるが律儀に挨拶を返してくるあたり、基本的には貴族の娘さんって部分が根本にはあるんだろうな……けど……


「……なぁ、何でそんなに俺と決闘したいんだ?貴族って欲しいものがある時は必ず決闘する決まりでもあるのか?」


「うーん、否定は出来ないかな。大事な人を賭けて決闘している貴族は今でもたまに居たりするからね。」


「マジかよ……そこはそんな事無いですよって言って欲しかったんだがなぁ……」


「ふふっ、決闘で賭けられている本人も私の為にこんなに真剣になってくれてるわ!という感じで喜んでいたりするから悪い事ばかりではないんだよ。」


「やれやれ、俺にはよく分からん世界だな……」


「あ、貴方!何をロイド様と楽しそうにお喋りしてますの!きぃーー!!」


(ご主人様ご主人様!私、初めてきぃーー!!っていう人見ました!)


(うん、少し感動するな……俺が相手じゃなければもっと良かったけど……)


 さてと、ここからちょっと話の流れを変えないと平行線のまま進みやしないな……仕方ない、気分は乗らないが決闘自体は引き受けるしかないか……


「リリアさん、何度も言うけど直接刃を交える様な決闘は絶対にしたくない。これは譲れない。けど、それじゃあ納得する事は出来ないんだろ?だったら、ダンジョンで勝負を決めるってのはどうかな?」


「……どういう、事ですの?」


「つまりさ、ダンジョンの最深部……つまりはボスの部屋を見つけて街に帰って来るまでの速さを競う勝負をするんだ。それなら相手をするのはモンスターだけだから、俺の精神も大丈夫……どうかな?」


「……良いでしょう!その申し出、お受け致しますわ!」


「どうもありがとう。広いここに感謝を。ってな訳で、すみませんけど初心者向けのダンジョンで良さそうなのってありますかね?」


「……えっ?あっ、しょ、少々お待ち下さい!すぐに調べてきますので!」


 職員のお姉さんはハッとした様子で受付の方に戻っていくと、しばらく経った後に一枚の用紙を手にしてこっちにやって来た。


「お待たせ致しました。こちらは数日前に内部構造が変動した【森林の迷宮】という名前のダンジョンで推奨レベルは6になるんですが、いかがでしょうか?」


「ありがとうございます。えっと、リリアさんのレベルは……」


「先日7に上がったばかりですわ!」


「なるほど、それなら丁度良い感じか。ロイドと同じレベルでもあるしな。」


「まぁ、そうなんですか!全く同じレベルだなんてこれはまさしく運命ですわね!」


「ふふっ、そうかもしれないね。」


(おぉすげぇ……微笑みながらサラっと流しやがった……コレが美形にだけ許される行いというヤツなのか……)


(えぇ、ご主人様には出来そうにありませんね。)


(おいマホ、余計な一言が多いぞ。)


「……よしっ、それじゃあ決闘の場所は森林の迷宮で決まりだな。ここだったら最悪ボスが出たとしても何とか対処出来るだろうし。」


「えぇ!むしろそのボスは私が倒してさしあげますわ!そうすればロイド様も考えを改めて私とのギルドを結成して下さるはずですからね!」


「あぁリリア、その件なんだけどちょっと良いかな。」


「はい?何でしょうかロイド様。」


「君がこの決闘に勝ったら私とギルドを組む。それは承知したけれど君がもし敗北をしたら一体どうするつもりなんだい?まさか何もないって事は無いよね?」


「お、おいロイド?お前、いきなり何を?」


「まぁまぁ、決闘と言うのは互いに何かを懸けるから行われるものなんだ。だから、リリアにもきちんと私に釣り合う物を懸けて貰わないと不公平だろ?」


「いや、不公平だろって言われてもな……」


「……かしこまりまし!そういう事でしたら、もしそちらの方が勝利を収めましたら私の身を自由にして下さって構いませんわ!」


「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」


「は、はあああああああ?!リ、リリアさん!?自由にしてって……えぇっ!?」


 じ、自由にって……こんな可愛くて?スタイルも……悪くなくて?そんな子を……そんな、子を……!!?って言うか話を聞いてた冒険者達も興奮してるんですが!?


(ご~しゅ~じ~ん~さ~まぁ~~~~!!!?)


(ハッ!ま、待て!落ち着けマホ!コレは何と言うかその……!)


「勝負は明日!午前10時に正門前に集合ですわよ!よろしいですわね!」


「へっ!?あ、明日ってそんな急に言われても!あっ、おい!」


「ふふっ、負ける訳にはいかない勝負が始まったね九条さん。私もギルドを結成したばかりなのに解散するのは嫌だから頑張らせてもらうよ。」


「あーもう……!話の展開が早すぎて頭の処理が追いつかねぇ……!」


 両手で頭をガシガシと掻きながら唸り声をあげまくっていた俺は、知り合って間もない美少女と決闘をしなくちゃいけないという現実から逃げたい気持ちでいっぱいになるのだった……!

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