第12話

「はぁ……はぁ……君達、全員無事か!?」


「は、はい!大丈夫です!」


「わ、私も平気です!」


 息を切らせながらも無事を報告してくれた彼女達の姿を見てホッと安堵した私は、周囲にモンスターの気配が無いのを感じ取るとすぐにダンジョンに目を向けた。


「なら良かった!それでは私は急いで彼の所に戻るから、君達はこの場から動かない様にしておいてくれ!」


 すぐにでも九条さんを助けに行かなければ!そう思ってダンジョンの中に戻ろうとした瞬間、1人の女の子が私の腕をグッと掴んで来た。


「だ、ダメですよロイド様!あんな凶暴そうなモンスターかなうはずありませんわ!早く逃げましょう!」


「なっ!?」


 目の前の女の子の言葉を聞いて言葉が詰まっていると、他の女の子達も口々に同じ様な事を大きな声で叫び始めた。


「そうですよ!私達が無事ならそれでいいじゃないですか!」

「あの人が勝手に囮になったんです!私達には関係ありません!」

「それに何が起きても自己責任って誓約書に名前を書いたのはあの人ですよね!それなら別にどうなったって良いじゃないですか!」


「……っ!いい加減にしないか!」


 彼女達の訴えを聞いて思わず頭に血が上って叫び声をあげていた私は、驚いた様な表情を浮かべている彼女達に次々と言葉を浴びせかけていた。


「彼がどうしてあの場所にとどまったと思っているんだ!あの人は私達を安全に逃がす為に囮になってくれたんだぞ!それなのに君達は私達の為にボスと戦ってくれているあの人を見殺しにすると言うのか!それで良いと本当に思っているのか!」


 私の心の底からの感情をぶつけられた彼女達はそれ以上は何も言わず、静かにうつ向いてしまうのだった。


 ……いや、彼女達ばかりを責める訳にはいかないな。私にも彼女達を護り続けると言って甘やかしてきてしまった責任がある。だから自分の身だけ護れれば構わないという様な考えが自然と出て来るようになったのかもしれない。


 しかしそれを嘆いた所で事態が好転するという訳ではない。今は急いで九条さんを救いに行かなければ!


「私はこれから九条さんの元に戻る。君達はこの場から動かず私達の帰りを待っているんだ。念の為、このモンスター除けのアイテムを渡しておくから後は頼んだよ。」


 ポーチの中から白い球体のアイテムを幾つか取り出して私の腕を掴んでいた彼女の両手に乗せた私は、短く息を吐くと彼女達に目を向けた。


「それじゃあ、行ってくるよ。」


 手にしていたブレードを強く握りしめてダンジョンの入口を見つめて歩き出そうとしたその直後、先ほどの女の子が私の腕をグッと掴んで来た。


「……すまないが腕から手を」


「あ、あの!……ロイド様、必ずあの方とお戻りになって下さいね……」


 ……唇を噛みしめて今にも泣きそうな表情を浮かべている彼女の腕をそっと離した私は、不安を取り除いてあげる為にいつもの様に微笑みかけてあげた。


「あぁ、約束するよ。だから君達も信じて待っていてくれ!」


 私の声に揃ってはい!と返事をしてくれた彼女達に背を向けて走ってダンジョンの中に入って行った私は、心の中で九条さんの無事を祈りながらモンスターを斬り倒し広間へと向かって行くのだった!


 それからしばらくして目的の部屋に続く巨大な扉を目にした私は、ブレードを握り締めながら広間の中へ突入して行くのだった!


「九条さん!助けにき……た………よ………」


 ……必ず九条さんを助け出すという強い覚悟を持って広間に足を踏み入れた私は、目の前にある光景を見て思わず歩みを止めてしまうのだった。


「うーん……アイテム屋で買ったネット、確かにデカいけどこのボスを覆えるのか?無理すれば何とかなりそうだが、流石に1人だと厳しい……って、ロイド!?いつの間に来てたんだよ!あっ、丁度良いや!こっちに来て手伝ってくれ!」


 服が多少ボロボロになった様に見える彼は笑顔を向けながら大きく手を振って私を呼んでいた………先ほどの巨大なオオカミの様なボスの上に立ちながら………


「く、九条さん……これはどういう………」


「ん?あぁ、コイツか?まぁ何と言うか……あの後に色々あってさ……」


 九条さんはそう言いながらボスの上から降りて私の方に歩いて来ると、ここに戻るまでの間に何があったのかを最初から説明してくれるのだった。

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