第8話

 クエスト斡旋所に行く様になってから1週間が過ぎ、何とかレベルを3から7まで上げられた俺はマホと一緒に土地や建物の売買をしている管理商会という所にやって来ていた。


 本当はもう少し早く来たかったんだが、訓練所でレベル5までは新米冒険者として扱われると教わっていたからこのレベルになるまで来れなかったんだよなぁ……でも流石にもう大丈夫だろ!ってな感じでようやく管理商会に足を運んだ訳だ。


(よしっ、そんじゃあ行くとするか。)


(はい!何だかワクワクしますね!)


 昨日の夜からずっとテンションが高いマホの声を聞きながら管理商会の中に入って行くと、人の良さそうなおじさんがニコっと微笑みながら近寄って来てくれた。


「いらっしゃいませ、本日はどの様なご用件でしょうか。」


「あの、この街で暮らす為に土地と家が欲しいんですけど。」


「なるほど、そう言う事でしたらあちらの方でお伺い致します。こちらへどうぞ。」


 おじさんにそう促されて低いテーブルとソファーが2つ置かれている商談スペースっぽい場所に案内された俺は、そのままおじさんと対面する形でソファーに座った。


「それではまず、ご予算の方をお伺いしてもよろしいですか?」


「えっと、予算は100万Gぐらいなんですけど……大丈夫ですかね?」


「えぇ、問題ありませんよ。ただお家を立てる為に必要な土地に関してなのですが、街の中心地となりますと最低でも50万Gは掛かりますのでご注意ください。」


「あぁ、やっぱりそこら辺は高いですよね。」


「そうですね……もしそこがご予算的に厳しいとお感じなら、街の外れにある土地がお勧めです。中心地まで歩いて30分は掛かりますが、大体30万Gぐらいでご購入頂けますからね。」


「うーん、そうですかぁ……」


(どうするんですかご主人様。思い切って街の中心地の土地を買っちゃいますか?)


(いや、流石に100万Gの半分を持っていかれるのは痛すぎるだろ……これからの生活で何があるか分からないんだから、なるべく手元に残しておきたい。ただそれで家を安っぽい感じにはしたくないから、今回は土地代を安く済ますとしますか。)


(分かりました!まぁ、私はスマホの中に入ってご主人様に運んでもらえればそれで良いのでどっちでも大丈夫ですけどね!)


(……あぁ、そうかよ。)


 何とも適当なマホの返答を聞いて思わずガックシと肩を落とした俺は、軽くため息を零しながらおじさんの方を見た。


「それじゃあ、街の外れにある土地を購入させて頂きます。勿論、予算は30万Gの範囲でお願いしますね。」


「かしこまりました。それではお次にお家のカタログをお持ち致しますのでこちらで少々お待ちください。」


 おじさんはそう言ってソファーから立ち上がると何処かに行ってしまった……え、家のカタログ?なんだそりゃ……そんな物が本当にあんのか?


 首を傾げながらしばらく待っていると、おじさんがパンフレットの様な物を幾つか手に持って戻ってきた。


「それではお客様、こちらのカタログの中から建てたいと思うお家をお選び下さい。もしこの中に存在しない様でしたら、1から間取りを決めて頂く事も出来ます。ただその場合、通常価格よりも少々お値段が掛かりますのでお気を付けください。」


「……分かりました。それじゃあまずはカタログの方を見させて貰いますね。」


(ご主人様!私にもシッカリと見せて下さいね!)


(はいはい、分かってるよ……)


 テーブルの上に置かれたカタログを手に取って広げた俺は、マホと一緒にどの家が良いのか相談していたのだが……


(うーん……さっきから思ってたんですけど、ここにあるカタログって1人用のお家ばっかりですよね?)


(あぁ、間取りが狭いし値段も安いと思ったらそう言う事だったのか……まぁここに居るのは俺だけだし、そういうカタログを出されるのも仕方ないか。)


(そうですねぇ………ご主人様、もう少し大きいサイズのお家が載ってるカタログを見せてくれる様に頼んで貰って良いですか?)


(はいよ。)


 俺は詳しい事情を伏せて他に暮らす奴がいると伝えて別のカタログを受け取ると、それをマホと一緒にじっくりと見ていった。


(……やっぱり間取りと共に値段も倍ぐらいに上がってるな。)


(まぁそれはしょうがないですね!それよりもほら、しっかり選んでください!)


(はぁ……分かっちゃいたけど………家って高いなぁ……)


 それからたっぷり時間を掛けてマホと選んだのは、2人では持て余しそうなぐらい広い間取りで家具まで付いているという50万Gもする家だった……つまり土地代と合わせて吹き飛ぶ額は80万Gで……必要な生活用品を揃えるとしたら……残る貯金は大体10万Gだけ……?あぁ……金が……金がぁ……


「それではこちらのお家でお間違いございませんね?」


「……はい、間違いありません。」


「かしこまりました。それではお家が完成する3日後にまたお越し下さい。その時に代金をお支払い頂きますので。」


「分かりました………って、3日後?……家ってそんなに早く出来るんですか?」


「はい。お家を建てる際に魔法を使用しているのですが、カタログに載っている家は職人によって手順が決められていますのですぐに建築する事が出来るんです。ただ、オーダーメイドのお家に関しましてはもう少しお時間が掛かるんですが。」


「なるほど……それじゃあ3日後に代金を持ってここに来ればいいんですね?」


「えぇ、その通りです。それでは最後に契約の手続きを致しますので、もう少しだけお付き合いください。」


 ………それから簡単な手続きを済ませて管理商会を後にした俺は、何とも言えない解放感を味わいながら街中をブラブラと歩き回る事にした。


(ふぅ、これでやっと一安心が出来るって感じだな……宿屋での生活も嫌いじゃ無いんだが、毎日の様に金を払い続ける訳にはいかないからな。)


(そうですね、家が建てばそんな心配をもうする必要はありませんよ!)


(だな………あっ、そう言えば土地代と家代って1回払ったらそれで終わりなのか?それとも税金とかで取られたりするのか?)


(いえ、そんな事はありませんよ。土地もお家もお金を払ったらそれでお終いです!ですからお金が減る心配は本当にしなくておも大丈夫です!)


(そうか、なら良かったよ……それにしても、前の世界じゃ数ヶ月掛かって建ってた物が3日で建つとか……やっぱ魔法ってのは凄いんだな。)


(確かにそうですが、家を建てる場合はかなり技術が必要ですのでご主人様も出来る訳じゃないって事は覚えておいて下さいね。)


(なるほど、そこら辺は前の世界と大して変わらないのか。まぁ良い、それより今日もクエストを受けてレベル上げを頑張るとしますかね。)


(はい!出来ればお家が完成するまでにレベルが10になる様に頑張ってください!そうすれば私の完全体をお見せする事が出来ますから!)


(ふぅーん、そこまで言うなら少し張り切ってみるか。)


 その後、クエスト斡旋所に行っていつもの様に討伐クエストを受けた俺は街の外に出て行ってレベル上げをするのだった……勿論、ソロ活動は継続中だぜ……!

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