第7話

(……そういや改めて思ったんだが、この世界って魔法は使えるけど呪文とか唱える必要が本当に無いんだな。)


(そうですね、この世界の魔法は頭の中に思い描いたイメージを魔力を通じて具現化するという物ですからね。まぁそれが難しいという方なんかは、オリジナルの呪文を唱えたりするってタリスさんが言ってましたね。)


(あぁ、だからこの世界では呪文とかは絶対に聞きたくないんだよなぁ……羞恥心で身もだえる事になりそうだし……)


(うーん……その気持ちはよく分かりませんけれど、ご主人様は呪文を唱えなくても普通に魔法が使えましたよね。)


(ふっ、物心ついた時からこの歳になるまでゲームとマンガとラノベに浸りっぱなしだったからな!そのおかげで想像力は成長しまくってるんだよ!)


(なるほど!オタク特有の妄想力の高さが役に立ってるって事ですね!流石です!)


(お前って悪意無く俺をちょくちょく傷つけるよな……まぁ良い、それより斡旋所に戻って報酬を貰ったらさっさと晩飯を買いに行こうぜ。)


(はい!……あっ、ご主人様!街に帰る前にどれぐらいレベルが上がったのかカードで確認してみませんか?)


(あぁ、そう言えばまだ確認してなかったか。)


 俺はスマホを入れてある四角い布製のポーチの中からカードを取り出すと、魔力を流してレベルとステータスを表示させてみた。


(えっと、今のレベルは3か………あれ?結構な数のモンスターを倒したはずなんだけど、そんなに上がって無いな。)


(何を言ってるんですかご主人様!レベルを1から3にするなんて普通の人だったら数日は掛かりますよ!)


(えぇ?!それマジで言ってんのか?)


(勿論マジですよ!だからレベルが上がりにくいこの世界では、高レベルな人ほど色々と優遇して貰えるという事です!)


(ふーん、なるほどねぇ……それじゃあ俺が目標としてるレベル10になる為には、どんぐらい頑張らないといけないんだ?)


(そうですねぇ………今日と同じぐらいのペースで経験値を獲得して行くとなると、大体1週間から10日の間って所ですかね。)


(うへぇ……経験値が10倍になる効果があってもそんなに掛かるって事は、普通にレベル上げをしたら3、4ヶ月ぐらい掛かるじゃねぇか……あの薬のおかげでマジで助かったな。)


(はい、もしその効果が無かったとしたらもっと大変でしたからね。)


(まったくだな……あ、そう言えば1つ気になってたんだがこの世界にはスキルとかって無いのか?訓練所では教えてくれなかったけど。)


(あぁ、スキルですか。残念ながらそういった物はこの世界に存在してませんね。)


(やっぱりそうか……何となく予想はしてたんだが、マジで存在してないのか?)


(はい。魔法は魔力を使って発動する事が出来ますけど、スキルってどういう仕組みになってるのかよく分かりませんからね。)


(まぁ、言われて見れば確かにそうか。スキルを覚えれば簡単に武器や魔法の扱いが上手くなるって言うなら、訓練所なんてそもそも必要無くなるしな。)


(そう言う事ですね。ですので、これからも地道に頑張って行きましょう!)


(……そうだな、それによく考えてみれば経験値10倍って何かスキルっぽい感じがするもんな。)


(その通りです!ご主人様は既にスキルを身につけていたんですよ!)


(はいはい……って、ようやく街の門が見えて来たな。)


(本当ですか!無事に帰って来れて本当に良かったですね!)


(あぁ、初日にしては上出来って感じだな。)


 思わず笑みを浮かべながら街に戻って来た俺はそのまま斡旋所に向かって行った。

そしてクエスト達成の料金と納品したモンスターの買い取り額、合わせて9000Gを受け取るとすぐに街中に出て行った。


(さて、報酬も結構な額を貰ったしこれからどうするか……)


(とりあえず晩御飯を食べに行きませんか?この時間ですとご主人様もお腹が空いてますよね?)


(そう言えば、今日は朝食ってから何も食べてないな……よしっ、それじゃあマホの提案に乗るとしますかね。)


(はい!あっ、今日の晩御飯はご主人様と一緒に食べたいのでお持ち帰りできるお店を探しますね!)


(はいよ、そのついでにケーキ屋も探しておいてくれ。今日は無事にクエストを達成出来た記念すべき日だからお祝いでもしようぜ。)


(分かりました!それではまず、お持ち帰りが出来るお店にご案内しますね!)


 ……それからマホに案内されたお手頃価格のお持ち替える用の弁当を買った俺は、その後に若い男女で溢れかえっているケーキ屋に心を無にして入り幾つかのケーキを買うとそのまま宿屋に戻って行った。


「そんじゃあマホ、今日は先にシャワーを浴びさせてもらっても良いか?」


「はい!どうぞごゆっくり!」


 ポーチと布の袋と買ってきた物が入った紙袋をテーブルの上に置き服を脱いで浴室に向かった俺は、全身に掻いた汗をシャワーで洗い流しながらため息を零していた。


「はぁ……今日はマジで疲れた……」


 特に一番キツかったのはモンスターを殺した時だよなぁ………生きて行く為だから仕方ないんだけど、やっぱ精神的にかなりしんどい……でも、いずれは慣れてくしかないんだけどさ。


 それにしてもパーティかぁ……俺がまだ20代前半とかだったら無理して頑張れた気もするけど、流石に30歳になって若い奴らに混じるのは抵抗があるんだよなぁ。


 あーあーラノベとかだったら異世界に来た初日に美少女と運命的な出会いをして、そのまま一緒に冒険する……みたいな流れになるんだろうけど、俺が出会ったのって可愛いけど小さい妖精だし、俺がレベル10にならないと完全体とやらにはなれないって話みたいだし………しゃあない、しばらくはソロでやって行くしかないか。


 ため息交じりにそう決意した俺は桶にお湯を溜めてから浴室を出て行くと、部屋着に着替えてマホに風呂の準備が出来たと伝えた。その後、風呂上がりのマホと一緒に買ってきた弁当とケーキを食べた俺は今日の事に関しての反省会を軽く行うと明日に疲れを残さない為に早めに寝る事にした。


 ……初めて命のやり取りをしたせいで肉体的にも精神的にも色々と疲れたからな。でもまぁ今日1日で何となく要領は掴めたから、明日からもう少し頑張りますかね。

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