第5話
訓練所で基本的な武器の扱い方や魔法に関する事、他にもこの街の付近に出現するモンスターの特徴なんかをタリスさんから教わった俺は、訓練の全課程を終わらせたとして無事に訓練所を卒業する事が出来た!………って、感動出来るぐらい訓練所に通ってた訳じゃないんだけどな。日数で言えば大体1週間ぐらいだし。
(何て言うか、もっと時間かかるもんかと思ったけどあっと言う間に終わったな。)
(あーそれはですね、ご主人様が渡された薬の効果のおかげなんですよ。)
(……は?どういうこった。)
(ほら、あの薬はこの世界で得る経験値を10倍にする効果があるじゃないですか。だからそのおかげで武器や魔法の扱い方をすぐ身につける事が出来て、モンスターに関する事もすぐ覚えられたという訳なんです。
そうじゃなかったら、ご主人様が数日で訓練を終わらせる事なんて出来ませんよ。その証拠にタリスさんも凄く驚いていたじゃないですか。こんなに早く訓練の全課程を終わらせた人に初めて会いました!って。)
(あぁ、確かにそんな事を言われたな。てっきりお世辞を言われてるのかと思ってたんだが……なるほど、そういう事だったのか。まぁそれはさておき、チュートリアル的には次は何をすれば良いんだ?)
(そうですねぇ……クエストを受けてお金を貯めながらレベルを上げをしていくか、銀行に行って100万Gを卸して拠点となる家を買うのも良いかもしれませんね。)
(クエストでレベル上げか……ってか、そもそも家って100万Gで買えるのか?)
(詳しい事は専門の商会に行って相談してみないと分かりませんが、恐らく問題ないと思いますよ。)
(なるほど……まぁでも、今は先にレベルを上げるとしますかね。今の状態で大金を持ってる事が誰かにバレたら、確実に狩られる気がする。)
(それならまずはレベル10を目指してみて下さい!そうすれば完全体となった私の姿をお見せする事が出来ますよ!)
(完全体って……まぁいいや、それならそれでクエストを受けに行こうぜ。)
(はい!それではクエスト斡旋所と言う場所に案内しますので、まずは大通りの方に向かってください!)
それからいつもの様にマホの案内に従ってしばらく歩いていると、近代的な訓練所とは違う年季の感じる建物が見えて来た。
(あれがクエスト斡旋所か……やっぱり結構な大きさがあるんだな。)
(そうですね!クエスト斡旋所ではクエストを受注できる他、様々な種類のアイテムを取り扱っているお店もありますから、あんなに大きいんだと思いますよ!)
(あぁ、そういう事なのか。)
マホの説明に納得しながらクエスト斡旋所の前にやって来た俺は、木で造られてる両開きの扉を開いて中の様子を見た………途端に…………!?
(ど、どうしたんですかご主人様!手と足と口がぶるぶると震えていますよ!?一体何があったんですか!)
(あ、あぁ……何てこった……こ、ここは俺の様な人間が来るべき場所じゃ無かったんだ………俺の様な………ぼっちが……!!)
クエスト斡旋所の中には俺ぐらいの年齢の奴は1人も居なかった……!何度周囲を見渡しても、ここには10代後半から20代前半と思われる美少年と美少女しか存在していないじゃないか!!そりゃそうだ!だって俺ぐらいの年齢の奴はレベルが高くて他の街に出稼ぎに行くんだからな!ここにいる訳が無いじゃないか!!
(くぅ…い、胃がキリキリしてきた……なぁ……みんなこっち見て笑ってないよな?大丈夫だよな?なぁ?)
(まったく、ご主人様は若い人の視線に怯えすぎです!そんな事は気にせずクエストを受けに行きましょう!まずは受付で冒険者登録をして下さい!ほら早く!)
(ああもぅ、分かったから急かすなっての……)
うぅ……楽しそうに盛り上がってる若い奴らの横を気配を消しながら歩いてると、学生時代の嫌な記憶が呼び起こされてメチャクチャ辛いんですけれど……
なんて思いを抱きながらマホに急かされて受付に向かって行くと、これまた若くて爽やかなお兄さんが俺を見ながらニッコリと微笑んでいた。
「いらっしゃいませ!どうぞ、そちらのお席へお座りください。」
「あ、どうも……」
「それで、本日はどの様なご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「えっとですね、冒険者登録ってのをしたいんですけど……」
「なるほど、クエスト斡旋所は初めてのご利用という事ですね。それでしたら訓練所にはもう行かれましたか?」
「はい。一応ですけど、訓練も全て終わらせてきました。」
「かしこまりました。それでは訓練所で渡された貴方のカードを、お貸して頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、分かりました」
俺は袋の中から財布を取り出しそこに入っていたカードを取ると、それをお兄さんに手渡した。
「はい、確かにお預かり致しました。それではこちらで少々お待ち下さい。」
お兄さんは立ち上がって奥の方に見える何だか分からない機械に向かって行くと、そこにある端末っぽい所に俺のカードを差し込んだ。それから数秒後、ピピピってな音が聞こえたと思ったらお兄さんはカードを手にしてこっちに戻ってきた。
「お待たせいたしました。これでこの街のクエスト斡旋所に貴方の情報を登録する事が出来ましたので、クエストを受注する事が可能になりました。」
「そうですか………って、あれ?この街のクエスト斡旋所?それってつまり、他の街に行った場合はまた冒険者登録をしないといけないって事ですか?」
「はい、その通りでございます。クエスト斡旋所というのは街ごとにあるのですが、管理している端末が違いますのでお手数ですが再度登録して頂く事になります。」
「なるほど、教えてくれてありがとうございます。」
「いえいえ。それでは最後のご説明になりますが、クエストを受注される際はあちらのボードに張り出されている用紙を受付にお持ちになって下さい。そうしなければ、正式に受注した事にはなりませんのでお気を付けください。他に何か気になる点や、聞きたい事はございますか?」
「いえ、大丈夫です。」
「かしこまりました。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ。」
「えぇ、どうもありがとうございました。」
お辞儀をしてくれたお兄さんに軽く頭を下げて椅子から立ち上がった俺は、沢山の紙が貼られているクエストボードに向かって歩いて行った………幸いな事に周囲には若い奴らが居ないから今を逃す手はねぇからな!
(ご主人様、これでクエストを受けられる様になりましたね!)
(あぁ、なんとか第一関門突破って感じだな。次はどのクエストを受けるかだが……さて、どんなクエストが張り出されてるんだ?)
俺はボードに貼られている紙をサラッと流し見してみたんだが、本当に色んな種類のクエストがあるんだな……子守や建築現場の手伝いとか、王道的な採取クエストに討伐クエストもしっかりあるみたいなんだが……
(うーん……人数制限や最低限のレベルが課せられてるクエストが多いみたいだな。)
(まぁそれはしょうがないと思いますよ。特に採取クエストと討伐クエストに関しては基本的にモンスターとの戦闘が想定されていますからね。そこら辺は斡旋所の方が厳しくしてるんじゃないですか。)
(って事はだ、ある程度の人数が必要なクエストは絶対に受けられないよなぁ……‥)
(もう、何を言っているんですかご主人様!それだったらパーティを募集したり参加するなりすれば良いだけの話ですよ!)
(……良いかいマホ、いやアホ。そこから周囲の景色が見れるなら、しっかりとその目で確認してみるがいいさ。)
俺がポケットに入れてあるスマホを軽く叩きながらそう言うと、不服そうな唸り声をあげるマホの声が頭の中に響いて来た。
(むぅ………言われた通りに見てみましたけど、特に問題は無いじゃないですか。)
(まったく、だからお前はアホなんだ。よく見てみろ、周囲に居るのは既にパーティとして出来上がっている若い奴らの集まりなんだ。そんな所に俺が参加しようとしてみろ。確実に周囲からロリコンだショタコンだって言われて俺の居場所は無くなる!それが分かったらアホな事を言ってないで1人で受けられるクエストを探せアホ!)
(誰がアホですか!っていうかそんなの考えすぎてすって!)
(あのな、世間の目って言うのはメチャクチャ厳しいの。だから俺は目立たず騒がずひっそりと生きていたいの。)
(はぁ……分かりました。それじゃあ1人で受けられるクエストを探しましょう。)
マホの呆れた感じのため息を聞きながらクエストを探してると、さっき受付で対応してくれたお兄さんが一枚の紙を持ってこっちに歩いて来た?
「九条さん、こちらは斡旋所が初心者の方向けに出してるクエストなんですけれど、よろしければどうぞ。」
「えっ、そんなクエストがあるんですか?………街の周囲に広がっている草原に出現する獣系モンスターの討伐と、そしてその毛皮の納品ですか。」
「いかがですか?」
「………そうですね、それじゃあこのクエストをお願いします。」
「かしこまりました。それでは受付で手続きをしますので、どうぞこちらへ。」
お兄さんから渡された初心者の方向けのクエストをやる事に決めた俺は、手続きを済ませるとお礼を言って斡旋所の外に出ていた。
(やりましたねご主人様!)
(あぁ、あの人には感謝しないとな。)
(はい!それではご主人様、まずは武器屋に行って装備を整えましょう!どんな武器を使うかはもう決めましたか?)
(あぁ、訓練所を出た後すぐにな……よくよく考えたら、仲間のいない俺が遠距離系の武器を持つ訳にはいかないし、同じ理由で杖系の武器もダメだだろ………そんな訳だから、片手で扱えるショートブレードに決めたさ……ははっ……)
(ほら、暗くなってないで武器屋に行きましょうよ!その後はモンスターと戦闘するんですから、そんな調子じゃあっさり死んじゃいますよ!)
(はぁー嫌だー死にたくねー戦いたくねー!)
(もう、案内しますから駄々をこねてないで足を動かしてください!)
軽く意気消沈しそうになりながら武器屋で装備品を買ってそれを身につけた俺は、左胸をトントンと叩いて気持ちを落ち着けようとしながら街の外に出て行った………よしっ、今日の目標はただ1つ!生きて街に帰る事だけだ!
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